自動車市場は縮小、新ビジネスに成長可能性−ロシア・ビジネスセミナー(2)−

(ロシア)

デュッセルドルフ事務所

2015年03月31日

ロンドンとデュッセルドルフでジェトロが開催した「ロシア・ビジネスセミナー」では、デロイト会計事務所がロシアの自動車市場と新ビジネスの可能性について、日系企業カンディハウス・ヨーロッパがロシアのビジネス経験について、それぞれ講演した。連載の後編は、その内容について報告する。

<新車販売は低迷も中古車は堅調>
大手会計事務所デロイトCISのジャパンサービスデスク・リーダー(在モスクワ)の高橋渉氏の講演の概要は以下のとおり。

ロシアの乗用車市場は欧州でドイツと英国に次ぐ3位。新車・中古車を合わせると、2014年度の乗用車市場は900万台以上だ。しかし、国内乗用車・小型商用車新車販売台数は、2012年の294万台をピークに、2014年には249万台まで減少した(前年比10.3%減)。2014年7〜9月では、ルーブルに対する信用不安による販売不振が大きく、販売台数は前月同期比で約20%下落した。

一方で、ロシアの経済状況の悪化にもかかわらず、中古車の販売は引続き堅調に推移した。新車の販売が減少した中、2014年の中古車の販売台数は657万台と、前年比で6.0%増加した。

ロシアの消費者はブランドへのロイヤルティーが低く、同じブランド品を無理して再購入する意欲に乏しいといわれている。現在、自動車市場で存在感が大きいのがロシアブランドの自動車だ。2014年の新車市場でも中古車市場でもロシアの自動車ブランドのラーダの占有率が最大で、新車全体の15.5%、中古車全体の32%を占めた。しかし、ロシアブランドの販売シェアは縮小傾向だ。

2014年の新車販売台数が前年比でプラスだったのは30ブランドのうち9ブランドのみで、そのうち6つは日本ブランドだった(トヨタ、日産、三菱、マツダ、レクサス、スバル)。ロシア・欧米自動車メーカーが苦戦する一方、日系メーカーは堅調だった。日系メーカーの強みは、顧客満足度の高さで、ロシアの自動車専門調査会社アフトスタトによる自動車メーカー満足度調査によると、BMWやメルセデス・ベンツといったプレミアムブランドと同等の高評価を得ているブランドも多い。

ロシア国内の乗用車生産台数は2012年をピークに減少している。販売傾向を反映し、外国ブランド車の比率は増加しており、2014年に生産台数全体の75%を占めるまで増えた。

<自動車市場は引き続き「我慢」の局面>
2015年の新車販売台数は200万台を割り込む大幅減が予測される。ロシアの経済状況のさらなる悪化が主因。また、2014年末の駆け込み需要の反動が2015年の新車販売台数の減少をもたらすとの見通しもある。ルーブル安により、輸入部品などの価格が上昇し、自動車の価格上昇を見越した消費者が2014年末に自動車購入に動いたとみられることによる。

しかし、ロシアの人口1,000人当たりの自動車保有台数は約300台で、日米欧先進国の500台以上の水準には及ばない。これはロシア自動車市場の拡大余地が十分にあることを意味している。2020年までの中長期的な見通しでは、ロシアの新車販売台数は300万〜330万台とされる。今後も外部影響を含めて、動向をウオッチしていくことが必要だ。

<日系企業が評価される新ビジネス分野>
近年、ロシアにこれまでなかったビジネスや高いレベルのサービスを取り入れたビジネスモデルが短期間に出現する傾向がみられる。例を挙げると、自動販売機ビジネスや「トロイカ」というロシア版のプリペイド乗車カード、スマートフォンのアプリを活用したタクシー予約サービス、カプセルホテルやラブホテルの出現などが挙げられる。こうした新ビジネスが登場した理由は7つある。

(1)「ITの発展」で、ロシアの社会はアナログからデジタルへ変化した。
(2)「資金力」で大規模な設備・技術投資が可能になった。
(3)トップに「決断力」がある。
(4)消費者は「利便性」に強い関心を持ち始めた。
(5)「競争激化」で、非競争社会から競争社会へと変化した。
(6)「真っ白」な状況で一から始めることができた(既存のビジネスが少ない)。
(7)欧米の製品とサービスを「コピー」して、ロシアに展開した。

こうした新ビジネスは今後も拡大すると期待される。これらの分野では、日本企業の高水準な技術力とサービス、そして生活の利便性・快適さ・安全性の向上に貢献する専門性が評価される。

<ロシア市場開拓には「露僑」の活用を>
カンディハウス(本社:北海道旭川市)はインテリア家具・オフィス家具を製造しており、従業員数はおよそ300人(海外法人分を含む)。日本以外に米国とドイツにショールームを持っており、ロシアでは4社のパートナー企業を通じてモスクワ、サンクトペテルブルク、ノボシビルスクでビジネスを展開している。同社欧州法人社長のロース・アルフレッド氏が、ロシアでの経験とそれに基づく助言を以下のとおり講演した。

ロシアの家具市場ではこれまで豪華、高級に見える家具が売れ筋だった。しかしリーマン・ショック後は、ロシアの消費者の好みは変化をみせ、高品質でモダンなカンディハウスの家具も受け入れる素地がみえてきている。当社はリーマン・ショック時にロシアから一度撤退したものの、2012年にロシアビジネスを再開させた。現在、モスクワ、サンクトペテルブルク、ノボシビルスクのパートナーが富裕層をターゲット層として高級家具を販売している。

中小企業にとって、日本人やドイツ人の従業員が直接ロシア市場でビジネスすることは難しい。通関や輸送条件が複雑で流動的で、外国人がこれに対応することは困難。ロシア人が経営する貿易商社などのビジネスパートナーと強い関係を築くことが肝要だ。

西欧に住んでいるロシア人ビジネスパーソン、つまり「露僑」の活用を勧める。ロシアの外から輸出などのかたちでロシアビジネスをする場合、西欧にいるロシア人のビジネスパートナーの実態は、ロシア国内のビジネスパートナーに比べはるかにつかみやすく、信頼関係も築きやすい。「露僑」は、ロシアのビジネスの特殊性や消費者の嗜好(しこう)を熟知しているので、ビジネスの成功のために重要だ。

(鬼木知歌、トネット・リザ、福井崇泰)

(ロシア)

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