欧州議会とウクライナ最高会議、連合協定を批准−貿易関連条項の暫定適用は2015年末まで延期−
ブリュッセル事務所
2014年09月18日
EUとウクライナは9月16日、欧州議会とウクライナ最高会議でそれぞれ、自由貿易協定(FTA)を含む連合協定を批准した。ただし、EUはロシアの意向に配慮し、同協定の貿易関連条項の暫定適用を2015年末まで延期する見通し。他方、EUは既に実施しているウクライナに対する片務的な貿易特恵の供与措置を延長することで、同国に対する支援は継続する意向だ。
<ロシアに配慮し、FTAの暫定適用を大幅に延期>
欧州議会は9月16日、ウクライナとの高度かつ包括的な自由貿易協定(Deep and Comprehensive Free Trade Agreement)を含む連合協定(2014年6月30日記事参照)の批准を、賛成535票、反対127票、棄権35票で可決した。同連合協定は同日、ウクライナ最高会議でも批准されており、EU・ウクライナ間の政治連合・経済統合の促進と、相互の市場アクセス提供を推し進める方向性が明確になった。
ただし、9月12日に開催されたEU、ウクライナ、ロシアの3者間閣僚会合での合意内容を受けて、欧州委員会はロシアの意向に配慮し、ウクライナとの連合協定の貿易関連条項の暫定適用開始を2015年末まで延期する提案を加盟国に対して行うとしている。
同時に、2014年4月14日のEU外相理事会で決定したウクライナに対する片務的な貿易特恵の供与(2014年4月16日記事参照)の適用継続についても併せて提案を行う予定。同措置は、連合協定の付属書で設定した譲許表(関税撤廃スケジュール)に沿って関税を一時的に削減、あるいは撤廃するもので、2014年4月16日付欧州議会・理事会規則(EU)No374/2014として、4月22日のEU官報に掲載され、翌23日から発効しているが、連合協定の暫定適用開始をにらみ、最長でも2014年11月1日までの適用となっている。
なお、連合協定の発効には、EU加盟28ヵ国の国会での批准が必要であり、これには時間がかかるため、欧州委が委任権限を持つ貿易関連条項については、全加盟国の批准を待たなくても所定の手続きが完了すれば、暫定適用が可能となっている。
欧州議会は、同協定によりウクライナのEU向け輸出が年間で最大10億ユーロ増加し、国家収入が年間で最大12億ユーロ増えるとの試算を示した。同国の2013年のEU向け輸出は128億ユーロだった。
<双方の同日批准を「歴史的な瞬間」と欧州議会議長が強調>
今回の批准案の報告者(ラポーター)を務めたヤツェック・サリウシュ=ボルスキ議員〔欧州人民党グループ(EPP)所属、ポーランド出身〕は欧州議会での投票前に、「協定の実施延期が提案されるのは残念だが、今回の批准はEUがウクライナを最大限支援している証しだ」と説明した。また、「(協定は)EUとウクライナの関係の最終的な目標ではない」と補足し、「EUとウクライナの共通の将来を、正当な理由がないロシアの侵害から守られなければならない」と強調した。
また、欧州議会のシュルツ議長は双方の批准が同日になったことを、「これは歴史的な瞬間だ」と、ストラスブールの議会場で投票する欧州議員と、映像でつなげたウクライナ最高会議の議員を前に強調した。
ウクライナのポロシェンコ大統領は同国最高会議での批准を前に、「ウクライナ国民は東に向かう急行列車を方向転換させた。今回の投票がそのことを確認するものとなることを望む」と述べた。また、EUのこれまでの支援に感謝の意を表明するとともに、EUがたった1つの見返りとして、自国への「改革」を求めており、遅滞なく「改革」を進めることが急務だとの認識も示していた。
欧州理事会(EU首脳会議)のファンロンパウ常任議長と欧州委のバローゾ委員長は同日、同連合協定の欧州議会とウクライナ最高会議での同時批准を歓迎する声明を発表し、双方の政治連合・経済統合において重要な一歩になるとした。また、連合協定はウクライナが近代的で繁栄する欧州の民主主義に転換するための詳細な計画(ブループリント)を提供すると付け加えた。
(田中晋)
(EU・ウクライナ)
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