ASEANとのサービス・投資協定に署名

(インド)

ニューデリー事務所

2014年09月19日

インド商工省は9月8日、ASEAN・インド自由貿易協定(AIFTA)のサービス・投資協定に署名した。既にASEANとの間ではAIFTAの物品貿易協定が発効しており、これにより域内でのヒト・モノ・カネの移動が一層拡大することが期待される。

<モノに関するFTAは2010年に発効>
AIFTAの物品貿易協定は2009年に締結され、2010年1月から発効している。域内の日系企業をはじめ多くの企業がインドとASEAN間の貿易に際して、AIFTAの譲許関税を活用している。インド商工省通商情報統計局(DGCI&S)の貿易統計によると、2013年のインドのASEAN向け輸出額は349億6,800万ドル(前年比4.7%増)、ASEANからの輸入額は420億8,900万ドル(0.03%減)で、ASEANとの貿易額はインドの貿易額全体のおよそ1割を占めている。

特に価格競争が厳しいインド市場では、自由貿易協定(FTA)の活用の有無がビジネスの成否を決めることもあるようだ。ASEAN地域から原材料を調達し、インドの顧客に納入する在インド日系企業は「1%を切るような低い譲許税率であったとしても、メリットがあれば必ず活用している。譲許税率が適用できることで、製品に価格競争力が付き、商談で地場企業と争った場合に勝てることがあるからだ」と語る。

<商工相は東アジアの経済統合に前向き発言>
一方、サービス・投資協定の交渉は2005年から始まっていたが、妥結に時間を要していた。同協定の署名は2014年8月25〜28日にミャンマーの首都ネピドーで開催されたASEAN経済相会議の場で行われる予定だったが、インドのシタラマン商工相が、モディ首相が主導する金融プロジェクトの立ち上げのために会議を欠席したことで先延ばしになっていた。フィリピンを除くASEAN9ヵ国が署名した協定はインド政府に送付され、9月8日にシタラマン商工相が署名した。フィリピンは国内手続きが完了次第、署名することになっており、その後、各国での批准手続きが行われて最終的に協定が発効する。

シタラマン商工相は「ASEANとインドの歴史的、文化的、経済的な深いつながりが、今後の経済連携にプラスに働くことは間違いない。今回、インドがASEANとのサービス・投資協定に署名したことは、ASEANとの経済連携をより強固にするために、インドがしかるべき仕組みづくりを約束したことの表れだ。インドは東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉メンバーにも名を連ねている」と述べ、ASEANを核とした東アジアの経済統合にも前向きな姿勢を示した。

<IT関連の市場獲得に期待>
商工省の発表によると、サービス協定にはインドの他の2国間FTAと同様、透明性の確保、国内規制、相互承認、市場アクセス、約束の見直し(レビュー規定)、紛争解決などの条項が盛り込まれた。インドが特に関心を寄せる「自然人の移動」についても盛り込まれ、出張者、転勤者、契約ベースのサービス提供者などと定義されており、同省は、インドのIT技術者やIT関連サービス企業がASEAN域内に大きなマーケットを獲得することに期待を示している。

一方、商工省幹部は主要経済紙「ビジネスライン」の取材に対し、「マレーシアやシンガポールは、既にインドとの間で発効している2国間FTAによって、今回の協定の内容よりも高いレベルの自由化をインドに約束している一方で、ベトナムやフィリピンはサービス市場の開放に消極的であり、インドから優秀な英語人材が流入することを懸念している。協定の内容を詰める際に、ASEAN各国はそれぞれの国の事情に見合った提案をした」とコメントしており、ASEAN内にはサービス大国のインドが市場に参入することへの警戒感が一部で広まっていることを明らかにした。

(西澤知史)

(インド)

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