欧州委、米国とのTTIP交渉の最新状況を公表−透明性確保を意識し、第6回交渉の概要を説明−

(米国、EU)

ブリュッセル事務所

2014年08月19日

欧州委員会は7月29日、EU・米国間の包括的な貿易投資協定(TTIP)の第6回交渉(7月14〜18日)を踏まえた最新の交渉状況の概要を公表した。同概要は、7月11日に公表した第6回交渉前の内容を更新するもので、透明性確保を求める関係者からの要請に応えようとする姿勢がうかがえる。

<多岐にわたる協議の中身を示す>
EUと米国は、7月14〜18日の5日間にわたる包括的な貿易投資協定(TTIP)第6回交渉をブリュッセルで行った。欧州委は同交渉に先立ち、7月11日にTTIPの交渉状況を公表していたが(2014年7月16日記事参照)、第6回交渉後の7月29日に、あらためてTTIPに関する最新の交渉状況を発表した。

7月11日の公表内容と比べると、物品貿易については双方が農業貿易やワインに関する特別条項を発展させる可能性を協議していること、非関税問題に関する見解を交換していることが新たに示された。また、関税率については関税率オファーに加えて2国間貿易に関する統計データに関しても技術的な質問の交換がなされたとしている。サービス分野のうち、通信サービスについては統合テキストに関する作業を開始したことが追記された。サービスと投資に関しては、7月11日の発表では米国側だけだったオファーの提示について、EUと米国双方がオファーを提示したことが明らかにされ、さらにサービス・投資の章の全般的な構成に関する一層の議論が必要との現状も明らかになった。公共調達については、7月11日の発表では双方が準備している統合テキスト案によるテキストベースの段階に協議が入っているという報告にとどまっていたが、今回の発表ではより詳細な内容が示された。具体的には、EU、米国双方がコンセッション(公共施設等運営権)方式/官民連携(PPP)のシステムについて質疑応答を行ったことや、中央政府と州政府レベルの両方について議論がなされたことが示された。

規制調和については、上流での規制協力を改善し、利害関係者を関与させ、影響評価を行う際の国際貿易の効果分析を強化するために、徹底的な情報交換を行うとし、7月11日の発表より具体的な状況が明らかにされた。貿易の技術的障害(TBT)については第6回交渉において、双方の提案の制度面と、規制を助ける標準化の役割について集中的に協議したことが示された。衛生植物検疫措置(SPS)については、次回交渉会合までにテキスト案を交換する予定であることが新たに明らかにされた。

産業分野別の協議では、化学について「評価する化学物質の優先順位付け」と「分類と表示」に関する2つのパイロット・プロジェクトでの初期の協力アイデアを試すことで合意したことが新たに示された。医薬品分野については、EU、米国双方が互いの製造施設の査察に関する相互信頼/相互承認の範囲を検証するための技術的な作業を強化する意向を示していることが明らかにされた。化粧品分野については、その成分規制の対象がUV(紫外線)フィルターと着色剤であることが明記された。またエンジニアリング分野に関し、EU側のペーパーに関する意見交換を行い、特に産業機械や電気機械に関連した特別なサブセクターに関して、さらなる協議を行うことを確認した。

協力のルール・原則・方法の分野では、エネルギー/原材料について第6回交渉ではEUと米国の規制管理者も参加し、特にオフショアのリスク管理と安全性に焦点が当てられたことが示された。貿易と持続可能な開発/労働と環境については、雇用と環境に関する底辺への競争の防止、中核的労働基準の順守、天然資源の保護、貿易に関連した持続可能な開発問題に関する2国間およびグローバルレベルでの協力促進などが協議された。原産地規則については、EU、米国双方が原産地証明と手続きに関して相違を特定し、双方のアプローチのギャップを埋める選択肢を見つける作業も進めていることが明らかにされた。競争法に関しては、第6回交渉の少し前に交換した双方からのテキスト案を基礎に、国営企業に関する予備的協議を行ったほか、統合テキストを準備中であることが示された。地理的表示(GI)に関しては、EUのペーパーを基礎として協議が行われたことが示された。また中小企業については、既にテキスト案を提示した中小企業の章の2つの構成要素である、中小企業問題に関する協力と情報共有を主に協議していることが明らかにされた。法的・制度的問題について、米国が例外に関する提案をし、税の例外に関する最初の説明を行ったことが示された。

<市場アクセスや公共調達を集中的に協議>
これらの内容を含めた最新状況の発表内容は以下のとおり。

1.市場アクセス
(1)物品貿易
双方は相違を漸進的に削減していくことを視野に、統合テキストの基礎に関する作業(注1)を行っている。加えて、双方は農業に関し、農業貿易やワインに関する特別条項を発展させる可能性を協議するとともに、非関税問題に関する見解を交換した。

(2)関税率
双方は初期の関税率オファーを交換し、同オファーおよび2国間貿易に関する統計データに関する技術的な質問を交換した。

(3)サービス
特定のテーマに関し、交渉はこれまでのところ、国境を越えるサービス貿易、金融サービス、通信サービス(統合テキストに関する作業を開始)、電子商取引に関するテキスト(条文)ベースでの議論や、金融サービスにおける規制協力に関するEUのポジションペーパーについての意見交換、専門サービスに関する予備的協議を含む幅広い問題をカバーしている。

(4)サービスと投資
EUと米国の双方は、サービスと投資分野におけるそれぞれの自由化(市場アクセス)オファーを提示した。同オファーに加え、サービス・投資の章の全般的な構成に関する一層の議論が必要。

(5)投資保護
テキストに関する協議は、EUのパブリック・コンサルテーション(公開諮問)の結果が出るまで延期される。

(6)公共調達
双方は、互いのシステムをより深く理解することを確実にするために、徹底的な情報交換を継続している。第6回交渉で取り扱われた問題はコンセッション方式だった。EUは新指令に関する情報提供を行い、続いて互いのコンセッション方式/PPPのシステムに関して、双方が質疑応答を行った。中央政府の調達、州政府レベルの調達のための連邦基金、州政府レベルでの約束を含めた調達アクセスの全ての側面に関して、集中した議論も行った。

<規制調和での徹底的な情報交換を模索>
2.規制項目・分野(Regulatory Component)
(1)規制調和
双方はそれぞれの目標を概略した数種類のノンペーパー(交渉テキスト)を交換し、互いの規制制度をより深く理解することを確実にし、上流での規制協力を改善し、利害関係者を関与させ、影響評価を行う際の国際貿易の効果分析を強化するために、徹底的な情報交換を行うことを約束している。米国側は規制調和の章の最初のテキスト案を提示した。

(2)貿易の技術的障害(TBT)
貿易の技術的障害の章のためのあり得る要素に関する予備的協議により、双方はテキスト案の提示に進めるようになる。それぞれの提案はまだ協議中。第6回交渉では、2つの提案の制度面と、規制を助ける標準化の役割を集中的に協議した。

(3)衛生植物検疫措置(SPS)
双方は、SPS章でカバーされる幾つかのテーマ、すなわち制度設計や同等性、検査、検証、貿易円滑化について模索し続けている。双方は次回交渉に先立ち、テキスト案を交換する意向を示している。

<化学、エンジニアリング分野などで一部前進>
(4)分野別協議
次の各分野で現在、協議が行われている。

a.繊維
双方はラベル条項や消費者の安全性要件、繊維基準のような共通関心分野に関する技術的な議論を継続した。

b.化学
EUが公開したポジションペーパーで特定されている潜在的な協力分野として手続き、プロセス、基準に関する情報交換が前進し、これをどのように実践に移すのかを現在、検討する段階に移っている。双方の既存手続きを十分に尊重しながら、「評価する化学物質の優先順位付け」と「分類と表示」に関する2つのパイロット・プロジェクトでの初期の協力アイデアを試すことで合意した。

c.医薬品
双方がそれぞれのシステムをより良く理解できることを視野に協議した。特に、医薬品および医薬部外品の製造管理および品質管理の基準(GMP)やバイオシミラー(バイオ後続品)について集中的に協議した。双方は互いの製造施設の査察に関する相互信頼/相互承認の範囲を検証するための技術的な作業を強化する意向を示している。

d.化粧品
これまでの協議は、化粧品の成分規制(UVフィルターと着色剤)、ラベル条項、化粧品の基準/ガイドライン(GMPなど)、動物実験の代替などのプロセスに焦点が当てられた。協議はEUと米国のそれぞれの立場を一層明確にし、共通利益のある分野での技術協力や科学交流を強化するための弾みを与えた。

e.医療機器
これまでの協議は、機器ごとの個別の識別コード(UDI)、規制対象製品の提出(RPS)、医療機器単一監査プログラム(MDSAP)に重点が置かれた。協議はそれぞれの立場を明確にし、双方の規制制度の機能をよりよく理解する一助となった。協議は技術的なレベルで継続する予定。

f.自動車
双方は全ての主要な分野に関する包括的な意見交換を行った。特にそれぞれの規制制度、既存技術の同等性や調和の範囲とアプローチ、自動車の国際技術規則に関する1998年協定の下での、および将来の規制と調査計画に関する協力の強化について協議した。

g.情報通信技術(ICT)
双方はICTに関し、e−ヘルス(インターネットなどのICTを活用して、健康づくりに役立つ情報・サービスを利用または提供すること)や暗号化、e−アクセシビリティー(障害を持つ人が電子的技術および情報技術にアクセスできることの、技術側からみた確実さの程度)、e−ラベリングなどの分野での協議を発展させるための主要な構想と範囲に関する意見交換を継続した。

h.エンジニアリング
双方はエンジニアリング産業に関するEU側のペーパーに関する見解を交換し、特に産業機械や電気機械に関連した特別なサブセクターに関して、さらなる協議を行うことを約束している。

i.農薬(殺虫剤)
双方は協力可能な特定分野に関する詳細の交換を行った。

<原産地規則の一部条項で統合テキストの草案作業>
3.協力のルール、原則、方法
(1)エネルギー/原材料
双方はエネルギーと原材料に関する章を害しないように、それぞれの規制枠組みに関する情報の詳細な交換を継続した。EUと米国の規制管理者を含む第6回交渉協議では、特にオフショアのリスク管理と安全性に焦点が当てられた。

(2)貿易と持続可能な開発/労働と環境
これまでの協議は、貿易と持続可能な開発条項のあり得る範囲に関する詳細な意見交換を可能にするもので、テキスト案を交換するための土台作りを視野に、本質的な環境と雇用問題をカバーしている。協議された主要な問題には、雇用と環境に関する底辺への競争(race−to−the−bottom)の防止、中核的労働基準の順守、天然資源(野生生物、木材、漁場)の保護、貿易に関連した持続可能な開発問題に関する2国間およびグローバルレベルでの協力促進が含まれている。

(3)原産地規則
一般的な条項部分に関し、双方はそれぞれのテキスト案を統合テキストに組み込む作業を行っている。幾つかの条項で共通の草案作業が前進した。双方は原産地証明と手続きに関して相違を特定し、双方のアプローチのギャップを埋める選択肢を見つける作業も進めている。次の段階として、双方は内容と、製品の個別ルール案を作成する協議を行う意向を示している。

(4)競争法
第6回交渉の少し前に交換した双方からのテキスト案を基礎に国営企業に関する予備的協議を行った。統合テキストを準備中。

(5)知的財産権/地理的表示(GI)
双方は知的財産権に関し、同章の構成の明確化と、協議すべき潜在的主題の特定を目的とする協議を現在行っている。GIに関しては、EUのペーパーを基礎としてEUと米国の両方の目的に関する協議が行われた。

(6)中小企業
双方は現在、既にテキスト案を提示した中小企業の章の2つの構成要素である中小企業問題に関する協力と、情報共有を主に協議している。統合テキストを準備中。

(7)貿易救済措置
セーフガードに関する米国側のテキスト案をベースに協議が行われており、それぞれのアプローチの違う分野を特定することを目指している。

(8)関税と貿易円滑化
関税と貿易円滑化では、交渉すべきテーマの初期リストで合意し、双方からほとんどの部分のテキスト案が提示された。それぞれのテキスト案を統合テキストにまとめる作業が行われている。双方はまた、データ要件(注2)をはじめ、長期的な協力と規制の整合に役立つ項目を検討することで合意した。

(9)紛争解決
紛争処理条項のために、双方が条項のテキスト案を提示し、テキストベースでの協議が開始された。双方が提案を提示したその他の分野では、保留部分も含めた統合テキストを作成しており、可能なところから保留部分を確定するために、提案の妥結を目指している。

(10)法的・制度的問題
米国は例外条項に関する提案を提示し、税の例外条項に関する最初の説明を行った。

(注1)統合テキストとは、双方の主張を盛り込んだ条文案のこと。基礎に関する作業とは、条文案について初期の交渉段階にあることを指すとみられる。
(注2)貿易円滑化については、貿易における国際的な貨物のやり取りに必要なデータの処理も協議の対象に含まれる。このデータの要件を指すとみられる。

(田中晋)

(EU・米国)

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