4ヵ国の証券市場統合などで前進−第9回太平洋同盟首脳会合が開催−
中南米課
2014年06月27日
チリ、コロンビア、メキシコ、ペルーの4ヵ国首脳は6月20日、メキシコのリゾート地プンタミタ(ナヤリ州)で第9回太平洋同盟首脳会合を開催した。ラテンアメリカ統合証券市場(MILA)へのメキシコ証券取引所(BMV)の機能的統合、加盟国間の出入国管理の円滑化などにおける進展を確認するとともに、南米南部共同市場(メルコスール)など他の経済ブロックとの情報交換や対話の場を設けていくことで合意した。
<中南米最大の証券市場が誕生へ>
第9回太平洋同盟首脳会合では、2014年2月にコロンビアのカルタヘナで行われた第8回首脳会合(2014年2月18日記事参照)後の経済統合の深化に向けた取り組みの進展と今後の方針が確認された。また、今回の会合をもって議長国(1年間の持ち回り)はコロンビアからメキシコに移り、メキシコのエンリケ・ペニャ・ニエト大統領が今後1年間、首脳会合をリードしていくこととなった。
第9回首脳会合で採択された「プンタミタ」宣言では、太平洋同盟の直近の進展として、主に以下の点が強調された。
(1)MILAへのBMVの参加承認
(2)太平洋同盟奨学金制度と加盟国間の学生・学術交流の進展
(3)中小企業振興に関する行動計画の作成
(4)太平洋同盟インフラ開発基金に関する議論の進展
(5)技術革新に関する専門家グループの行動計画作成
(6)太平洋同盟加盟国における輸出ポテンシャルの高い農作物の特定
(7)農業の生産性と競争力の向上に資する農業資材に関する情報交換メカニズムの構築
(8)太平洋同盟とメルコスールの情報交換を目的とする閣僚会合の開催
(9)太平洋同盟、メルコスール、中米、カリブなど中南米・カリブ地域の学者、企業関係者、起業家、政府高官などが参加するセミナーの開催
上記の中で特に目立つのは、MILAへのBMVの参加承認だ。MILAはサンティアゴ証券取引所(チリ)、コロンビア証券取引所、リマ証券取引所(ペルー)が参加する証券取引所の機能的統合であり、2011年5月30日に創設された。各国の投資家はMILAに登録された自国の仲介業者(証券会社)を通じて、自国だけでなく参加する3ヵ国の上場企業の株式を取引することができる。
太平洋同盟はモノ、ヒト、サービスに加え、資本の移動の円滑化も目指しており、メキシコのBMVがMILAに参加することは当初から検討されていた。しかし、国外の証券取引所でBMV上場企業の証券取引ができるようにするためには、メキシコの証券取引に関する国内法規の改正が必要だった。メキシコ政府は議会の協力を得て金融制度改革の一環として証券市場法の改正を進め、2014年1月10日付官報で同法の改正を公布した。また、メキシコの国家銀行証券委員会(CNBV)が定める関連規則の改定も終わったため、MILAの執行委員会はBMVの参加を正式に承認した。実際にBMVがMILAに加わるのは2014年第4四半期の予定だ。
BMVの参加によりMILAの取引高は、中南米最大の取引高を誇るブラジルのサンパウロ証券取引所を上回る規模になると想定されている(太平洋同盟プレスリリース6月19日)。
<ワーキングホリデー制度を創設>
出入国管理の円滑化は、太平洋同盟の枠組みの中でも進展が著しい分野の1つだ。2012年11月にはメキシコ政府がコロンビアとペルー国民に対する入国ビザの要件を廃止し、加盟国間で180日までのビザなし滞在が相互に可能になっている。今回の会合では、加盟国の18〜30歳の国民に対してワーキングホリデーのための特別ビザ発給が決まった。
具体的には各国で年間300人の加盟国の国民にビザを発給し、加盟国を休暇目的で訪問した若者が当該国における滞在費を捻出するための一時的な就労を可能にする。首脳会合に先立ち6月19日に開催された太平洋同盟外相会合で合意された同制度は、2014年8月に開始される予定だ(太平洋同盟プレスリリース6月19日)。
また今回の首脳会合では、出入国管理に関する情報を即時に交換できるシステムを構築することにより、空港や陸路国境における加盟国国民の出入国を円滑にするプロジェクトの作業計画の策定が合意された。さらに、滞在日数が180日を超えるビジネスパーソンの出入国を円滑にするための方策を模索していくこととなった。
<民間の提言も取り入れ規制の調和を推進>
太平洋同盟の枠組みにおける経済統合深化の取り組みには、民間部門の声も反映されている。加盟国にはそれぞれ、政府交渉団に対する民間の諮問組織として「太平洋同盟企業家評議会」(CEAP)がある。CEAPは2014年2月にコロンビアで開催された第8回首脳会合で民間部門の共同宣言を発表したが、その中には加盟国間のさまざまな規則や規格を調和させることを求める提言が含まれている。
太平洋同盟では化粧品分野を中心に規制の調和が進められており、今回の首脳会合でも、同分野における加盟国間の協力を進めていくことが再確認された。また、医薬品の販売価格の低下に貢献するような加盟国規制当局間の協力メカニズムの構築も盛り込まれている。
<メルコスールとの閣僚会合を実施>
対外関係で注目されるのは、情報交換を目的とした太平洋同盟とメルコスール加盟国の閣僚会合を開催することがプンタミタ宣言に盛り込まれたことだ。メルコスールはブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、ベネズエラが加盟し、太平洋同盟を上回る規模の経済統合であり、中南米全体の経済関係を緊密化させるためにはメルコスールと太平洋同盟の関係強化が不可欠だ。
メキシコ大統領府の6月20日付プレスリリースによると、太平洋同盟とメルコスールの閣僚会合は、7月4日にコロンビアのカルタヘナで開催される予定。メルコスールとの関係強化は特にチリのバチェレ大統領が主張しており、9月にはチリで太平洋同盟とメルコスールの学者、ビジネスパーソン、起業家、政府高官などが参加するセミナーを開催することを提案している。
<オブザーバーは32ヵ国に>
第9回首脳会合では、中小企業振興に関するOECDとの協力の推進についても合意された。太平洋同盟加盟国の通商担当相とOECDのホセ・アンヘル・グリア事務総長は「太平洋同盟OECD中小企業技術協力趣意書」に署名し、中小企業の競争力強化や国際化に向けた政策の導入、中小企業の輸出やグローバル生産チェーンへの参画を促すための協力などを実施する予定だ。
自由貿易主義を通商政策の柱に掲げる中南米太平洋岸4ヵ国の統合深化に向けた取り組みは、中南米以外の国の関心も呼んでいる。第9回首脳会合で新たにベルギーとトリニダードトバゴのオブザーバー参加が正式に承認され、オブザーバーは32ヵ国に達している(表参照)。地域別にみても米州のみならず、欧州や中東、アジア太平洋諸国の参加もある。日本も2013年1月からオブザーバー国となっている。
(中畑貴雄)
(チリ・コロンビア・メキシコ・ペルー)
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