行政処罰における罰則など強化−改正商標法が施行(2)−

(中国)

北京事務所

2014年05月09日

5月1日から施行された中国改正商標法についての後編。今回は日本企業への影響も含めて分析する。

<権利侵害の製造器具の定義を拡大>
中国では、模倣品被害に遭った時に、権利者は行政救済(管轄行政機関による押収・摘発、罰金)を求めることが可能だ。ただし、権利侵害品に関わる製造器具が押収されない、または過料が低いため、再犯が後を絶たないという問題が生じていた。

今回の改正法では、この問題への解決が図られた。まず、権利侵害品に関わる製造器具の定義が拡大された。具体的には「専ら権利侵害商品の製造、登録商標の標章の偽造に用いる器具を没収、廃棄する」という規定の中の、「専ら」が「主に」に変更された(第60条2項)。また、「違法額が5万元(約80万円、1元=約16円)以上の場合は5倍以下、違法額が5万元以下の場合は25万元以下の罰金を科す」ことや、「5年以内に2回以上商標権侵害行為を実施しているか重大な情状を有する場合は重罰に処す」ことが新たに規定された。

<損害賠償額認定に関する規定も強化>
損害賠償額の認定は、a.権利者の損失額、b.侵害者の利益、c.商標の使用許諾料の倍数で確定することが規定された。「情状が重い場合には認定額の1倍以上3倍以下で賠償金額を確定する」規定が追加され、懲罰的賠償が認められた(第63条)。

訴訟時の立証においては、権利者の負担が軽減し、人民法院の裁量が強化された。具体的には「権利者が挙証に尽力し、侵害者が関連帳簿や資料を持っている場合、人民法院は侵害者に提出を命じることができる」ことや、「侵害者が提出しない、または虚偽の帳簿、資料を提出した場合、人民法院は権利者の主張および提出証拠を参考に賠償金額を判定することができる」ことが明文化された。

また、損害賠償額を確定することが困難な場合の法定賠償額が50万元以下から300万元以下に引き上げられた。中国における所得水準や物価の上昇を反映したものと考えられる。

<異議申し立て制度を変更>
旧法では、初歩査定された商標について誰でも異議を申し立てることが可能だった。改正後は、相対的拒絶理由(第13条:馳名商標、第15条:非授権出願・業務関係者による冒認出願、第16条1項:地理的表示、第30条:類似、第31条:先願、第32条:冒認出願)については、先行権利者および利害関係者のみ提起できることになった。絶対的拒絶理由(第10条:公知の外国地名など、第11条:通用名称など、第12条:形状)については、誰でも異議を申し立てることが可能だ。本改正は、膨大な登録商標異議申し立て件数の減少や、第三者による商標登録を妨害する目的での異議申し立ての防止につながる。

また旧法上は、異議申し立ての決定に不服がある時は、商標評審委員会に再審を請求できた。通常、異議申し立ての審理期間は2年程度、評審委員会における再審期間は2〜3年程度かかり、複雑な案件はそれ以上かかる。今回の改正により、評審委員会における再審制度が廃止され、異議不成立の場合は権利人に商標登録証が発給されて公告をする(商標が登録される)ことになる。その場合、異議申立人は、商標登録後に無効宣告を請求できる。

この改正は、商標権利登録の効率化につながる。一方、権利者にとっては、悪意の商標出願を何らかの理由で異議申し立てにおいて立証できないような場合は、当該商標が登録されてから無効審判で争うことになる。その間、相手方の権利は保護されることになる。異議申立人の限定や再審制度の廃止による異議申し立ての乱用の抑制が優先されたものと理解されるが、冒認出願(抜け駆け出願)の被害を受けやすい外国企業にとって本改正は改悪と受け取る向きもある。

<権利者側の負担が増える可能性も>
行政処罰における罰則の強化(第60条)や損害賠償額認定に関する規定(第63条)は、商標権侵害行為の抑制につながるため歓迎すべき改善だ。ただし、商標権侵害の定義に関する変更・追加(第57条)で前述した、商標権侵害の定義として商品または商標が類似である場合に混同が生じることが要件となったことについては、権利者側の負担が増える可能性がある。

また、「商標権侵害事件の行政摘発時に、商標権の帰属に関する争いがあり、または権利者が同時に人民法院に商標権侵害訴訟を提起している場合、工商行政管理部門は摘発を中止することができる」(第62条)と新たに規定された。今後、権利者には、民事訴訟が長引く間に行政摘発がされず、権利侵害行為が継続されないよう侵害行為差し止めにかかる仮処分を請求するなどの工夫が求められる。

冒認商標への対応としては、引き続き「中国における使用」を証明することが重要となる。外国企業、とりわけ中小企業の場合は、中国ビジネスを始める段階で、初めて商標出願を行うことが一般的だが、本格的に中国進出をする前であっても、一時的に展示会、商談会、広告宣伝、新聞報道などにより自社商標の使用を証明できる資料があれば保持しておくことも検討する必要があるだろう。

また、権利侵害訴訟において、人民法院が権利者に対して登録商標の使用に関する証拠の提出を求めることが可能となった。証明できない場合には、権利侵害と訴えられた者は損害賠償の責めを負わない。権利者が実際に中国でビジネスを行っている場合であっても、同様に日ごろから証拠を整理しておくことが望ましい。

(高村大輔)

(中国)

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