2015年のユーラシア経済連合の創設に向け準備進む−ジェトロが在モスクワ日系企業向けセミナー−

(ベラルーシ、カザフスタン、ロシア)

モスクワ事務所

2014年04月08日

2015年1月のユーラシア経済連合創設に向けて準備が着々と進んでいる。ジェトロは2月19日、在モスクワ日系企業向けにセミナーを開催し、ユーラシア経済委員会の関係者が、ロシアを中心とする地域経済統合の進捗状況、通商政策の方向性、税関行政の現状と今後の見通しについて解説した。

<5月1日までにユーラシア経済連合条約案を策定>
ジェトロ・モスクワ事務所が開催したセミナー「関税同盟を核とする経済統合の行方〜ビジネスへの影響〜」は、関税同盟および統一経済圏の常設の運営機関であるユーラシア経済委員会統合推進局、通商政策局、通関法制・執行局から講師を迎えて、日系企業関係者約80人が参加した。

まず、ロシアを中心とする地域経済統合の進捗状況について、ユーラシア経済委員会統合推進局国際協力課長のアントン・アザロフ氏が次のように講演した。

2010年1月、商品の自由な移動を目的としてロシア・ベラルーシ・カザフスタン3ヵ国からなる関税同盟が発足した。2012年1月からは関税同盟が発展するかたちで統一経済圏を形成、サービス・資本・労働力の移動の自由化実現に向けて経済統合が進展している。

次のステップとして、2015年1月に経済統合の最終段階となるユーラシア経済連合の創設が予定されている。経済委員会では現在、同連合の枠組みについて規定する連合条約案の策定を2014年5月1日までに完了すべく、各部門が作業を行っている。

ユーラシア経済連合では、前述したように商品・サービス・資本・労働力の移動が自由化されるほか、マクロ経済政策や競争政策なども共通化されることになっている。

経済委員会は、活動目的別の各部門(統合推進局、通商政策局、通関法制・執行局など計23部門)、理事会(9人で構成、各加盟国から3人ずつ選出)、評議会(3人、加盟国の副首相級で構成)から構成されている。このほか最高議決機関として、加盟国の国家元首で構成される最高ユーラシア経済評議会がある。

欧州委員会と比べた場合、経済委員会の評議会および理事会での議決権は加盟各国に平等であるほか、域内での課題解決に際しては、ビジネス界との対話を重視するのが基本であり、加盟3ヵ国のビジネス界代表者との対話を行うほか、計17の分野別諮問委員会も設置している。

今後の経済統合拡大の方向性として、現在、アルメニアとキルギスが関税同盟および統一経済圏の加盟候補国であるほか(2014年2月3日記事参照)、ウクライナとの間でも2013年5月31日付で「ユーラシア経済委員会とウクライナとの相互協力の深化に関する覚書」を締結、ウクライナが経済委員会の活動に参画することが可能になっている。

<通商政策面では特にEUやウクライナとの関係を重視>
続いて、関税同盟および統一経済圏における通商政策の方向性について、ユーラシア経済委員会通商政策局副局長のナタリア・ヤチェイストワ氏が以下のように講演した。

経済委員会の通商政策の優先事項は、協力と透明性の原則に基づく有利な貿易取引条件を構築することにある。通商政策の方向性としては、主に多国間レベル〔WTO、APEC、独立国家共同体(CIS)、国連〕と2国・地域間(ウクライナ、EU、中国など)レベルの両方がある。このほか、欧州自由貿易連合(EFTA)、ベトナム、ニュージーランドとの間では自由貿易協定(FTA)締結に向けた交渉あるいは検討を行っている。この3ヵ国・地域以外にも、アラブ諸国や中南米諸国など30ヵ国・地域以上とFTA締結に関する提案がある(注)。

関税同盟および統一経済圏加盟3ヵ国の外国貿易額(2012年)は輸出入合計で9,390億ドル、国・地域別では、EUが全体の52.8%、中国が12.3%、ウクライナが5.4%、トルコが3.9%、日本が3.8%を占めている。特にEUやウクライナとの貿易額が大きいため関係を重視している。EUとは、2014年1月28日に開催されたロシアEUサミットの中でFTA締結の可能性について検討した。ウクライナ政府との間では貿易取引に関して定期的に対話を実施している。このほか、中国商務省との間で貿易取引に関する覚書を締結しており、閣僚間で定期協議を実施している。また、日本との貿易額も年々増加傾向にあり、重要な貿易相手となっているため、今後も定期的に対話を実施していきたい。

関税同盟および統一経済圏とWTOとの関係について、ロシアは2012年8月にWTOに加盟し、カザフスタンも加盟交渉の最終段階にある。ベラルーシも加盟交渉中だ。2011年5月19日付条約「多角的貿易体制に関する関税同盟の機能について」(ロシアがWTOに加盟した2012年8月22日発効)により、WTO加盟国である関税同盟加盟国のコミットメントを関税同盟の規定に盛り込むこととし、関税同盟形成段階で調印された国際条約や関税同盟の組織決定に対してWTO協定の条項が優位性を持つことが規定されている。

<税関規則の統一的運用に向け国内法の参照規定を削減>
最後に、関税同盟と統一経済圏の税関行政とその発展の方向性について、ユーラシア経済委員会通関法制・執行局税関行政執行・管理課長のアレクサンドル・ニスチュク氏が講演した。

ロシア・ベラルーシ間の税関申告と税関検査およびロシア・カザフスタン間の税関申告は2010年7月1日から、ロシア・カザフスタン間の税関検査は2011年7月1日から廃止している。関税同盟統一関税基本法や経済委員会決定などに基づき、通関分野では主に、貿易品目分類や輸入関税、原産国と関税課税のための商品価格の決定などについて統一的な運用を行っている。

現在、関税同盟統一関税基本法の改正作業を行っている。税関分野の法規制の中には、まだ国内法の参照規定が多く、実際には通関分野の各国法も大きな役割を果たしているのが現状。税関規制に関する各国法には、ベラルーシの場合、2011年7月18日付大統領令第319号「税関規制の諸問題、通関分野での活動実施および認定事業者について」と2014年1月10日付共和国法第129−Z号「ベラルーシ共和国の税関規制について」がある。カザフスタンには、2010年6月30日付共和国基本法第296−IV号「カザフスタン共和国の税関業務について」が、ロシアにも、2010年11月27日付連邦法第311−FZ号「ロシア連邦の税関規制について」がある。

今後、国内法の参照規定を減らし、関税同盟統一関税基本法に基づく統一的な運用を行っていく方針。また、同法改正に際しては、通関に要する時間の短縮や提出書類数の削減などを検討しており、税関行政の効率化を視野に入れている。税関分野の法規制改正に際しては作業グループを設置しているほか、ビジネス界代表者と意見交換をしつつ、関連法規制の改正作業を行っている。

(注)3月18日にはイスラエルとの間で、FTA締結の可能性を研究する共同研究グループが発足した。

(宮川嵩浩)

(ロシア・ベラルーシ・カザフスタン)

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