2016年にかけ中・東欧の景気は緩やかに回復−ウィーン比較経済研究所が春季予測−

(ロシア・中央アジア・コーカサス、スロバキア、チェコ、ポーランド、ウクライナ)

ウィーン事務所

2014年03月27日

ウィーン比較経済研究所(WIIW)の春季経済予測によると、中・東欧経済は政府消費支出および個人支出の増大に支えられ緩やかに回復する見通しで、2014〜2016年の実質GDP成長率を年平均2〜3%と見込む。WIIWは最近のウクライナ情勢を、この地域の経済の下振れリスクの要因に挙げている。楽観的な見通しでもウクライナのマイナス成長は避けられないとしており、情勢がさらに悪化した場合は中・東欧経済にも影響が及ぶとみている。

<チェコの回復が顕著、スロベニアとクロアチアは低迷続く>
WIIWは3月13日、中・東欧諸国の春季経済予測を発表した。2013年第4四半期の実質GDP成長率は、クロアチアを除いてプラスになり、ほぼ全地域で景気回復の兆候が示された。WIIWは2014〜2016年の中・東欧諸国全体の経済は年平均2〜3%で成長すると予測している。中・東欧のEU加盟11ヵ国の実質GDP成長率は2014年2.0%、2015年2.7%、2016年2.9%に達し、EU28ヵ国の平均成長率の2014年0.6%、2015年0.7%を上回るとみられる。EU加盟国では、リトアニアをはじめとするバルト3国が最も高い成長率となる見込みだが、ポーランドや、ここ数年景気が低迷したチェコも2015年に3%の経済成長を遂げるとみられる。スロベニアと、2013年7月にEUに加盟したクロアチアは2015年までほとんど伸びず、2016年になってようやく1.5%成長となる見込みとしている。

その他の南東欧諸国でも、マケドニア、モンテネグロ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボは、2016年までに3%かそれ以上の成長率に達する見込み。アルバニアとセルビアはそれぞれ1.0%、1.9%と、景気の回復は鈍い。

<政府消費支出の拡大に期待>
WIIWは、政府消費支出と個人消費を中・東欧の経済回復の原動力とみている。欧州債務危機が深刻化した時期には、財政健全化策などのために政府支出が大幅に削減され、国内の経済に負の影響を及ぼした。しかし、景気の先行き不安定さから民間企業も投資を控えたため、財政健全化を求められる中にあっても、景気回復のためには政府支出が頼りとされた。WIIWによると、中・東欧地域では高速道路建設などの交通・運輸インフラプロジェクトのほかに、火力発電所の建設、原子力発電所の拡大・新規建設など、エネルギー関連プロジェクトも検討中か既に実施されている。今後予想されるEUおよびユーロ圏の景気回復は、中・東欧の輸出型企業の投資活動に刺激を与える可能性が高く、その結果として労働市場も民間消費もある程度改善するとみられる。

<ウクライナ情勢が最大のリスク要因>
WIIWによる比較的楽観的な見通しの最大の下振れリスクは、ウクライナ情勢だ。WIIWは軍事衝突が回避されることを前提に、クリミア自治共和国がロシアに編入され、それによってウクライナ・ロシアの経済関係は一時的に悪化するが、欧米の対ロシア制裁は限定的で、大きな影響は与えない可能性が高いとみる。ただし、ウクライナ経済が不況に陥る可能性が高く、エネルギー価格の上昇や財政健全化のために必要な社会保障支出の削減は、国民生活の質を低下させ、社会的基盤を揺るがす恐れがあると懸念する。WIIWは2014年のウクライナの実質GDP成長率を、ロシアとの軍事衝突がないことを前提にマイナス1.1%と予測している。

ウクライナとロシアの対立が深まった場合、ウクライナ経由のガスパイプラインの供給停止、国債のリスクプレミアムの上昇など、中・東欧全域に深刻な影響を与える可能性が高い。特にブルガリア、スロバキアなど、ロシアの天然ガスに依存する国ほど脆弱(ぜいじゃく)だとWIIWはみている。

(エッカート・デアシュミット)

(欧州・ポーランド・チェコ・スロバキア・ウクライナ)

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