企業の社会保障費拠出率を引き上げ−2014年度予算案(2)−

(シンガポール)

シンガポール事務所

2014年03月11日

2014年度(2014年4月〜2015年3月)政府予算案では、人口高齢化などで増加する国民の医療費負担の軽減策が強化された。社会保障費の中央積立基金(CPF)への企業の拠出率が引き上げられたほか、独立第1世代の高齢者の医療ニーズを終生支援する「パイオニア・パッケージ」を導入する。一方、酒税や賭博税、たばこ税のいわゆる「悪行税」が大幅に引き上げられた。2014年度予算案の後編。

<2015年から1ポイント以上の引き上げに>
2014年度政府予算案は、労働生産性向上のための企業支援の拡充と、社会セーフティーネットの拡大を、2本柱としている。このうち社会セーフティーネットの拡大では、特に人口の高齢化などで増える医療費負担の軽減措置が強化されており、政府は軽減策として、(1)新たな国民皆保険制度「メディシールド・ライフ」の導入、(2)低・中所得者への専門医による治療費補助の拡大、(3)中央積立基金(CPF)への企業拠出率の引き上げ、の3つを挙げている。メディシールド・ライフについては近日中にも、官民の代表からなる検討委員会が提言を発表する予定だ。政府は同制度の導入に伴い増加する保険料負担を一部肩代わりする予定で、特に低所得者への支援を拡充するとしている。

また、将来にわたる医療費の拡大に対応するため、CPFへの雇用主の拠出率を引き上げる。CPFは、雇用主と従業員(国民と永住権者)がそれぞれ年齢に応じた月給の一定額を積み立てる貯蓄制度で、積立額は入院費などの支払いに使用できる「医療口座(メディセーブ)」、公団住宅購入資金に用いることができる「普通口座」、老後の資金用の「特別口座」に一定の比率で振り分けられる。2014年度予算では、この医療口座への振り分け率の1ポイント引き上げが発表された。この結果、50歳までの従業員のCPFへの雇用主の拠出率は、月給の16%から17%へと引き上げられ、51〜65歳の従業員については引き上げ幅が1ポイントより大きくなる(表参照)。拠出率の引き上げは、2015年1月1日付で実施される。

2015年1月1日からの中央積立基金(CPF)の拠出・負担率と振り分け率

政府は、CPFへの拠出率引き上げに伴う企業の負担を軽減するため、「一時雇用クレジット(TEC)」を導入。1年間の期間限定支援として、従業員の年間給与の0.5%〔月給上限:5,000シンガポール・ドル(約40万5,000円、Sドル、1Sドル=約81円)〕を支払う。また、51歳以上の従業員(月給上限:4,000Sドル)については既存の高齢労働者支援制度「特別雇用クレジット(SEC)」を強化し、さらに年間給与の0.5%を支払う。

<独立第1世代の医療ニーズを終生支援>
さらに、今回の予算で高齢者支援の目玉として導入したのが、独立第1世代の医療費を終生サポートする「パイオニア・パッケージ」だ。同パッケージは、(1)診療所と専門医の治療費の50%割引、(2)CPFの医療口座への年間200〜800Sドルの政府拠出、(3)80歳以上の高齢者についてメディシールド・ライフの保険料の全額政府負担、からなる。同パッケージは、同国が独立した1965年に16歳以上だった国民約45万人が対象となる。

政府は、パイオニア・パッケージの予算を90億Sドルと見込んでいる。2014年度予算から80億Sドルを「パイオニア世代基金」に充て、同基金の運用利息も含めて同パッケージの資金を賄うとしている。同パッケージの資金を2014年度予算から支出することで、2015年以降の政府予算を拡大する一方の他の支出に充てたい考えだ。同国の65歳以上の高齢者(永住権者含む)は2012年の約35万人から2030年には90万人に増加すると見込まれており、高齢化の加速で医療費は今後も増加する見通しだ。保健省は医療長期計画「ヘルスケア2020マスタープラン」(2012年3月発表)で、政府の医療費支出を2012年の年間40億Sドルから、2017年には80億Sドルへ倍増する計画を明らかにしている(2013年8月6日記事参照)。さらに、保育施設の増設など教育支出も増えるほか、地下鉄や空港の拡張などの大型インフラ工事など、政府の支出は今後、大きく拡大すると見込まれている。

<酒税とたばこ税の引き上げを即日実施>
今回の予算案発表前には、国内の所得格差を是正するために高所得者層の所得税(現行最高税率:20%)が引き上げられるとの観測が強まっていた。しかし、予算案では所得税の変更はなく、代わりに酒税、たばこ税と賭博税が大幅に引き上げられ、酒税は25%引き上げられる。同国の酒税は既に世界的に高い水準にあるが、ビールがアルコール分量1リットル当たり48Sドルから60Sドルへと引き上げられるほか、ワインと蒸留酒も70Sドルから88Sドルに引き上げられる。この結果、政府の税収は年間1億2,000万Sドル増える見込みで、たばこ税の10%引き上げでも約7,000万Sドルの税収増となる。さらに、宝くじの賭博税は25%から30%に引き上げられた。酒税とたばこ税の引き上げは、予算案が発表された2月21日に即日実施され、賭博税は2014年7月から引き上げとなる。

一方、2013年度の財政黒字は推定39億Sドル(GDPの1.1%相当)と、政府が見込んでいた24億Sドルの黒字額を大きく上回った。これは、予定されていた公共工事が一部延期されたほか、自動車価格高騰による自動車関連の税収増と、不動産売買による印紙税収が当初の見込みよりも減少しなかったことによるもの。政府は2014年度の財政収支について、前述の「パイオニア世代基金」の創設などにより、12億Sドル(GDPの0.3%相当)の赤字を見込んでいる。

2014年度予算案は国会で3月3日から個別審議が行われており、同月13日に可決される見通し。2014年度予算案は財務省のウェブサイトでダウンロードできる。

(本田智津絵)

(シンガポール)

中小企業支援を拡充、労働生産性の向上促す−2014年度予算案(1)−

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