財政赤字削減に向け、家族給付制度を改正
パリ事務所
2013年06月28日
政府は6月3日、社会保障会計の継続的な赤字要因である家族給付制度について、制度改正による歳出削減策を発表した。多子家庭向け優遇税制の見直しや乳幼児を持つ富裕家庭への支援縮小などが柱となる。家族支援団体は家族政策への緊縮財政の適用を批判、出生率への影響を懸念する声も出ている。
<富裕家庭への支援を削減>
社会保険料と一般社会税(CSG)を主財源とする家族給付制度は、税収が景気低迷の影響で伸び悩む一方、歳出は子どもの数の増大から一定の伸びが続き、2010年以降は毎年25億ユーロを超える赤字を計上、社会保障財政の継続的な赤字要因となっている。財政再建が急がれる中で、政府は6月3日、家族給付制度の改正による歳出削減を打ち出した。
改正の主な内容は以下のとおり。
○多子家庭向けの所得税優遇措置について、軽減額の上限を現行の家族係数0.5単位当たり(注1)2,000ユーロから1,500ユーロに引き下げる。政府試算によると、同改正により、例えば子ども2人で月収が6,500ユーロの4人家族に対する税額控除額は現行の4,000ユーロから3,000ユーロに縮小する。
○3歳未満の乳幼児を持つ家庭への支援(乳幼児受け入れ手当制度、PAJE)について、基礎手当の支給額(月額184ユーロ)を凍結するほか、2014年4月1日以降に生まれた子どもを対象に世帯収入が特定の水準(例えば、共働き家庭で月収4,000ユーロ)を超える家庭への支給額を半減する(月額92ユーロ)。
○3歳未満の乳幼児を養育するために親が仕事を一時停止するか、または労働時間を短縮する場合に支給される職業自由選択補足手当について、現行の制度では労働時間の短縮率と家庭の所得水準をベースに支給額が算定されているが、2014年4月からは所得水準に関係なく時短率のみに応じて算定する。
○中等教育(中学、高校)の就学費用に関わる所得税減税措置を撤廃する。
今回の改正により政府は、2014年に12億ユーロ、2015年に17億ユーロ、2016年に20億ユーロの歳出を削減できるとしている。
他方、不足する保育サービスの拡充に向けては、2017年までに託児所や幼稚園など子育てに関わるインフラ整備に20億ユーロを追加投資する意向を明らかにした。向こう5年間に新たに27万5,000人の幼児の受け入れ体制を整える方針だ。
<出生率への影響を懸念する声も>
今回の政府発表を受け、全国家族給付連合(Unaf)など家族支援団体は「(家族係数制度の廃止や家族手当の給付に所得制限を設けるといった)最悪の事態は免れた」ものの、「家族係数の改正により、これまで所得税の納付を免れていた家庭の税負担が増大、家計を圧迫することになる」との懸念を示した。
また、こうした団体の一部からは「子どもに対する緊縮財政だ。出生率の低下につながる可能性がある」との声も聞かれた。フランスの出生率は2.01(2011年、EU統計局)で欧州ではアイルランド、アイスランドに次いで3位と高い。政府の家族支援関連支出はGDP比3.2%(2009年、OECD)と比較的高く、乳幼児を持つ働く母親に手厚い家族支援が出生率の下支えに貢献している(注2)。
(注1)所得税額は、世帯当たりの課税対象所得額を「家族係数」(quotient familial)と呼ばれる家族構成員の数で除した値(家族係数1単位当たりの所得額)に適用される税率によって計算された家族係数1単位当たりの所得税額に、再び家族係数を乗じて算定される(N分N乗方式)。家族係数は父親、母親をそれぞれ1単位、子どもを0.5単位、第3子以降は1人当たり1単位として算定される。
(注2)一般に、移民が出生率を押し上げているとする向きも多い。フランス国立人口問題研究所(INED)は移民家庭を除いたフランスの出生率を1.85〜1.90と試算。移民女性の出生率がフランス人女性の出生率を上回るとしても、移民家庭はマイノリティーであるため「人口増への影響は限定的」と指摘している。またOECDの統計(2009年)によると、フランスの人口全体に占める移民の割合は11.6%で、英国(11.3%)やドイツ(12.9%)と大差はない。
(山崎あき)
(フランス)
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