新車登録台数が前年比で約2割減少−主要国の自動車生産・販売動向(2012年)−

(イタリア)

ミラノ事務所

2013年03月26日

2012年の新車登録台数は2011年の170万台から一気に140万台まで減少し、約40年前の水準にまで落ち込んだ。長引く経済低迷、最近では燃料費の高騰や緊縮財政による税負担の増加などによって、国民の新車購入意欲が急激に減退している。登録台数が軒並み減少する中、韓国車が躍進。一方で日本車のシェアは10%を切り低迷している。徐々にではあるが環境対応車も浸透、一部には買い替え需要も期待できる面もあるが、家計の重税感は強く、企業や家計の資金調達は困難になっており、政府が有効な対策を打ち出せなければ、2013年は前年の水準をさらに割り込む可能性もある。

<新車販売は約40年前の水準に>
イタリア自動車工業会(ANFIA)が2月20日から3月6日にかけて順次発表したところによると、2012年の乗用車の新車登録台数(暫定値)は前年比19.8%減(34万6,754台減)の140万2,986台となった。2007年には過去最高となる249万4,115台を記録したが、その後の2008年のリーマン・ショックを契機とした金融危機、2011年の欧州債務危機による景気低迷を経て、2008年以降の5年間で約109万台減少した(図参照)。新車販売が140万台を記録したのは、近年と同様に経済低迷によって一時的に急減した1983年(21.6%減の145万1,512台)以来19年ぶり。また、約140万台は1970年代前半と同じ水準となっている。

乗用車の新車登録台数の推移

政府は2009年に環境対応車への買い替え優遇措置(エコ・インセンティブ)を導入し、自動車市場を下支えした(2009年3月27日記事参照)が、同年末に同措置が終了して以降、厳しい財政状況下で有効なインセンティブを導入できていない。

ANFIAはまず、家計や企業の経済に対する信頼感を取り戻す必要があるとし、自動車購入に対する税制優遇措置を導入することを政府に要求している。

また、外国自動車代理店組合(UNRAE)によると、乗用車の新車登録台数を購入者層別にみた場合、個人による登録が89万7,236台となり、前年比で22.9%減と大きく減少した。その結果、新車登録台数全体に占める個人の割合は64%、残りは企業向けとレンタカー向けがそれぞれ18%ずつとなっている。2010年と比較すると、個人は2010年の71.7%から2012年には7.7ポイント低下し、企業向けとレンタカー向けの割合が、それぞれ3ポイントと4.7ポイント上昇した。しかし、他の主要欧州諸国に比べると、イタリアは企業向けの登録台数のシェアが低いため、レンタカーを含めた企業向けの市場は今後拡大する余地がある。

同様に年齢層別の割合をみると、18〜29歳が2005年には13.8%を占めたが、2012年は9.3%と10%を切った(表1参照)。また、40.4%だった30〜45歳も33.6%まで低下。経済環境の悪化やそれに伴う失業率の上昇などが若者や働き盛りの世代を直撃し、自動車への関心が低下したのが一因、との声もある。その結果、中高年層の登録割合が拡大した。これは経済的に余裕がある中高年層が、子どもの自動車購入やローン、保険費用を肩代わりする傾向があるためだ。

表1乗用車新車登録台数の年齢層別シェアの推移

<韓国メーカーが躍進し、日本勢のシェアは10%を切る>
メーカー・ブランド別の割合をみると、国内、外国ともに前年比19.8%の減少となった。そのため、国内と海外の割合3対7の構図に変化はなかった(表2参照)。

各社ともに前年比で登録台数が軒並み減少する中、起亜(前年比39.1%増)、ランドローバー(38.4%増)、ダチア(0.6%増)、現代(0.2%増)の4社のみが前年比で増加した。目立ったのは韓国勢で、起亜と現代の2社のシェアは合計で5.03%となり、2011年から1.43ポイント伸ばした。特に起亜はスポーツ用多目的車(SUV)「スポーテージ」や小型車「リオ」などの販売が好調だった。同社はディーゼルもしくはガソリン車に限り、他社よりも長い7年間のメーカー保証を付けて(自然消耗する一部の部品などは除く)販売。長期保証は起亜の信頼性や高品質の裏付けだとして、消費者の支持を得ている。またサッカー、テニスなどの主要大会でスポンサーとして宣伝活動を活発に行っており、その成果が販売に結び付いている。

また、ランドローバーは高級SUV「レンジローバーイヴォーク」が伸び、2011年の9,064台から2012年には1万2,543台へと1万台に乗せた。

表2ブランド・メーカー別乗用車登録台数

日本メーカーは、トヨタ(レクサス含む)、日産、スズキの順位に変化はなかった。イタリアの2012年新車登録上位車種では、トヨタは「ヤリス」(日本名「ヴィッツ」)が2万8,101台で10位、日産は小型クロスオーバーSUV「キャシュカイ」(日本名「デュアリス」)が2万3,908台で13位と健闘している。しかし、日本メーカーは8社全体で13万8,497台と前年比で25.1%減となり、外国メーカー平均の19.8%減を上回る減少となった。ダイハツや三菱自動車はそれぞれ50%を超える減少率となっており、特にダイハツはイタリアを含めた欧州市場で2013年1月をもって新車販売を終了すると決定している。シェアについても、トヨタ(レクサス含む)以外は全社がシェアを落とし、日本メーカー全体で2011年の10.57%から9.87%へと10%を下回る結果となった。

国内メーカーの乗用車新車登録台数は軒並み減少、フィアット・グループも全体で前年比19.5%減の41万5,399台となり約10万台減少した。しかし、グループの主軸であるフィアットは、「パンダ」や「プント」などの得意の小型車で登録台数を支えた。また同じく小型車で根強い人気を誇る「500(チンクエチェント)」を大型化した「500L」を2012年後半に投入。2012年だけで6,161台の新車登録があり、イタリアのワンボックスカー部門では5位につけるなど、フィアットの登録台数は減少したが、わずか(0.26ポイント)ながらもシェアを伸ばした。

一方、フィアット・グループの高級車部門であるフェラーリとマセラティは、それぞれ新車登録台数が前年比で56.5%減、72.4%減と大きく減少。2012年は経済低迷のみならず、債務危機によって2012年から出力185キロワット(kW)を超えるような大型の高級車に対して特別な税金が課せられたこと、また3,600ユーロを超える物品やサービスを販売する事業者に対し、購入者の情報を税務当局に報告することが義務付けられるなど、脱税取り締まり策の強化なども影響した。

<環境対応車は徐々に増加>
乗用車の登録台数を燃料別にみると、2012年はディーゼル車の割合が53.35%、ガソリン車が33.15%となり市場の大勢を占めている(表3参照)。2009年に導入された環境対応車へのエコ・インセンティブを受けた自動車の登録が2010年3月までだったことが影響し、2010年における環境対応車の割合は17.81%となった。2011年にはインセンティブ終了の反動減で5.71%に縮小したが、2012年は13.5%へと再び10%台を回復した。政府によるインセンティブなどによる支援策は実施されなかったが、経済低迷や燃料価格の高騰が環境対応車の需要を増加させたといえる。

イタリアの新車登録上位車種であるフィアットの「パンダ」や「プント」は、液化石油ガス(LPG)とメタン仕様車の両方が販売されており、人気車種に環境対応車が用意されていることも環境対応車市場を拡大させる要因となっている。なお、ハイブリッド車では、2012年はトヨタの「ヤリス」「プリウス」「オーリス」「CT」(レクサス)が上位4位を独占している。また電気自動車ではシトロエン「C−ZERO」、日産「リーフ」、プジョー「iOn」が上位を占めているが、3車種合計でも408台にとどまっており、今後の拡大が期待される。

ミラノ市は、2012年1月から環境対応車以外の自動車の市内中心部への乗り入れを規制する「Area C」制度を試験導入した。同制度は通常のガソリン車やディーゼル車(一部例外あり)が、平日の日中にミラノ市内中心部の決められた域内に進入する際に課金される制度で、LPGやメタン車などの環境対応車は対象外とされている。今後、こうした地方自治体独自の環境規制が広がれば、環境対応車市場が少しずつ拡大する可能性もある。

表3乗用車新車登録台数の燃料別シェアの推移

<2013年も販売低迷の見通し>
ANFIAによると、2013年1月の乗用車の新車登録台数(暫定値)は前年比17.2%減の11万3,987台。2月も同様に17.4%減の10万8,419台となり、2ヵ月連続で17%を超える減少を記録する厳しい出だしとなっている。例年イタリアの新車市場は、上半期で年間の約60%が登録される傾向にあり、上半期に低迷が続けば、仮に下半期に勢いを取り戻したとしても、2012年の登録台数を割り込む可能性もある。

UNRAEの予測によると、2013年乗車の新車登録台数は132万6,000台で、前年比で5.4%落ち込むとみている。UNRAEは、現在イタリアで使用されている乗用車の約13%に当たる約460万台は使用年数が20年を超えており、買い替え需要が期待できること、また、環境対応車の普及が進んでいることなどが新車乗用車市場にプラスの影響を与えると指摘している。

しかし、2012年後半の経済低迷の影響が2013年に持ち越され、特に消費者の耐久消費財に対する消費者の落ち込みがみられること、また、引き続き家計の重税感は強く、企業や家計の資金調達が困難になっていることや、自動車販売店の財務体質が悪化してきていることなどから、こうした状況が改善されなければ、2012年の水準を維持することは非常に厳しいとしている。

(三宅悠有)

(イタリア)

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