企業進出の入り口は広く出口は狭い−変わるビジネス環境(1)−

(スリランカ)

コロンボ事務所・アジア大洋州課

2012年09月20日

インド洋の中心に位置する地理的な優位性やインド市場へのアクセスの良さから、輸出型製造業の立地先として注目を集めつつあるスリランカのビジネス環境を3回に分けて報告する。1回目は外資規制、進出手続き編。開放的な外資政策で外国企業の設立手続きは比較的容易だが、企業の閉鎖・撤退の手続きは煩雑で長期間に及ぶ。

<2年続けて8%超の成長>
2009年5月の内戦終結以降、スリランカのマクロ経済環境には着実な改善がみられる。GDPの7割近くを占める民間消費を牽引役に、実質GDP成長率は10年、11年と2年連続で8%超を記録。12年についても8.5〜9.0%の成長見通しが示されている。観光や建設、インフラ関連の分野における設備投資も活発化し、経済の中心コロンボなど都市部の近代化も急ピッチで進んでいる。

他方、人口2,000万強という国内消費市場の規模の小ささから、直接投資を伴う外国資本の本格的な参入という面では、隣国インドと比べても大きく出遅れている。日本企業の進出もレストランなどの小規模サービス業を含めて120社程度にとどまっており、ここ数年はほぼ横ばいで推移している。

スリランカ中央銀行の発表(8月23日)によると、2012年上半期(1〜6月)の外国からの投資受け入れ額(国際収支ベース、フロー)は、前年同期比14.6%増の4億5,200万ドルだった。投資受け入れ額は着実に増加しているものの、スリランカ投資庁(BOI)が12年の目標としている「年間20億ドル」にはほど遠い状況だ。

<外資規制業種は個別協議を>
BOIは企業がスリランカに拠点を置くメリットとして、(1)インド洋の中心で、かつ主要海運航路上に位置する地政学的位置、(2)南アジアで最良の電力・道路・港湾などのインフラ、(3)2国間自由貿易協定(FTA)を活用したインド市場へのアクセスなどを挙げる。「国内市場規模は小さいものの、輸出企業に対する原材料関税の免税措置やインドなど他市場への良好なアクセスにより、輸出拠点としては十分な要件を備えている」(進出日系メーカー)との見方もあり、多国籍企業の立地先としての注目度は徐々に高まっている。

また、内戦の終結でようやく通常の経済運営が可能になったことで、政府はこれまで以上に外国の資本、技術を活用した製造業の発展と産業・社会インフラの整備に期待を寄せる。外国投資にかかる規制・制度面に目を向けると、外資に対する政府の期待の高さを反映し、製造業、サービス業とも基本的に自由で開放的な政策が取られている。2012年には投資優遇措置の適用範囲や対象業種も拡大した。また外国投資家にとって分かりやすい制度・ルールに移行すべく、タックスホリデーなどの適用条件の簡素化や税法などの法令が定めるルールとの統一化も進展している(詳細はシリーズ2回目で触れる)。

2012年8月現在、スリランカの外資規制は一部の禁止業種・規制業種だけをリストで示し、それ以外の分野への外資参入は原則自由とするネガティブリスト方式を採用している。リストには禁止業種として、貸し金業、質屋業、資本金100万ドル未満の小売業、沿岸漁業の4業種が指定されているほか、出資が40%までに制限される業種として、マスコミや教育事業、貨物輸送、旅行代理店などが指定されている(詳細はジェトロJ−FILEのスリランカ「外資に関する規制」の「規制業種・禁止業種」を参照)。

しかし、ネガティブリストはあくまで原則であり、禁止・規制業種の中でも例外として、規制の枠を超えた出資が認められる場合があるという点を認識しておく必要がある。例えば、禁止業種に該当する「貸し金業」への参入はスリランカ地場資本に限られ、外資の出資は認めない(Not Permitted)との記載がありながら、外資銀行の現地法人・支店に関しては、中央銀行の特別ライセンスを受ければ設立が認められるという適用上の例外がある。さらに、教育分野への事業投資についても外資出資上限が40%と規定されているものの、運用においては、高等教育は100%出資が認められ、優遇税制の適用も受けられるのが実態となっている。

スリランカへの進出を検討する企業は、たとえ自社の業種・ビジネス分野がネガティブリストに記載されている場合でも、例外規定や運用上の実態についてBOIに確認の上、現地で可能な業務の範囲や条件について十分な協議を行う必要がある。

<会社設立手続きは2〜3週間>
外国企業がスリランカに事業拠点を開設するための手続きについてみてみたい。国内で営業可能な事業形態は新会社法(2007年5月3日施行)により定められており、現地法人(Incorporated company)、支店・支社(Registered Overseas Company)、オフショア会社(Offshore Company)の3つに大きく分けられる(それぞれの設立手続きの詳細はジェトロJ−FILEのスリランカ「外国企業の会社設立手続き・必要書類」を参照)。

なお、在スリランカの外資系大手会計事務所によると、会社の設立手続きは比較的容易で、一般的な会社(現地法人)設立形態である有限責任会社(Limited Liability)であれば、通常は2〜3週間で企業登録局の手続きは全て完了するという。また、一連の手続きの中で最も時間がかかる会社名の認証・登録のプロセスが不要な支店・支社の設立であれば1週間程度で可能だという。

また、同事務所によると、会社の設立手続きは会計事務所に加え、法律事務所、個人のコンサルタントなどが代行するケースが多く、その費用は設立までの書類手続き、認可・申請代行のパッケージで750〜2,500ドル程度が一般的だという。

<撤退手続きには1年>
外国企業の進出および会社設立手続きについては上述のとおり規制緩和、簡素化が進んでいる半面、会社の清算(撤退)手続きは極めて煩雑で長期間かかるのが実態だ。「企業規模や形態にもよるが、全ての手続きが完了するまでに1年程度はかかるとみておいた方がよい」(大手外資系会計事務所)という。

スリランカの会社法によると、会社の閉鎖に至るプロセスとしては(1)自主的な閉鎖、(2)裁判所による清算、(3)裁判所の監督に基づく清算(債権者の異議申し立てがある場合)があり、それぞれ閉鎖に至るまでの手続きおよび要件が定められている。

いずれのケースにおいても、会社の清算を行う際には全ての株主および債権者に対する書面での通達が必要で、「事業継続が不可能だ」という申告に対して株主・債権者からの同意を得るか、もしくは裁判所での承認が必要となる。そのほかにも、外貨為替管理局、内国歳入庁、労働省など申請先となる管轄官庁が多岐にわたり、それぞれに膨大な書類手続きと時間を要するという点については留意しておく必要がある。

(崎重雅英、伊藤博敏)

(スリランカ)

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