模倣品には税関での水際措置が最も効果的−ロシア知的財産セミナー(1)−

(ロシア)

欧州ロシアCIS課・モスクワ発

2012年07月05日

知的財産権保護制度や模倣品対策は、9月ごろに予定されているWTO加盟やベラルーシ、カザフスタンとの3ヵ国関税同盟などの地域経済統合が深化する中で変化をみせている。6月13日に東京で、15日に大阪で開かれた「ロシア知的財産セミナー」(主催:特許庁、ジェトロ)で、最近の動きなどに関して専門家が解説した。知財権については、税関での対策が最も効果的だという。セミナーの内容を3回に分けて報告する。

<WTO加盟後、TRIPS協定の順守義務が発生>
ジェトロ・モスクワ事務所の宮川嵩浩所員は、国内の知財権保護の動向について次のように説明した。

知財権保護をめぐる最近の動きとして、2012年9月ごろに予定されているロシアのWTO加盟と知的財産裁判所の設立がある。WTO加盟に伴い、ロシアは知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)を順守することになる。同協定の順守義務が発生することを見据えて08年、ロシア政府は民法第4部の制定(08年1月1日施行)の際、関連法の改正を実施した(注1)。このほか、これまで「居住者」と「非居住者」で違う区分として扱われていた知財権出願料金について、WTO加盟と同時にこの区分を廃止し、料金を改定する予定だ(2011年11月11日記事参照)

知的財産裁判所は、11年12月7日に関連法が発効し、13年2月1日までにモスクワに設立される予定だ。同裁判所は、a.第一審として連邦知的財産局(ロスパテント)や連邦反独占局(FAS)が下した知財権に関する決定に対する異議申し立て、商標の不使用取り消し請求などの審理、b.知財権の権利侵害の裁判における「破棄審」として、第一審および控訴審判決の正当性の判断などを行うとされている。

<知財権対象物を税関に登録>
知財権侵害対策の手段として、a.税関による水際措置、b.行政手続き、c.刑事手続き、d.民事手続き、e.反独占手続き、がある。特に税関による水際措置については、モスクワの欧州ビジネス協会(AEB)の会員企業向けアンケート調査(09年)で、45%の企業が税関での対策が最も効果的と回答している。国内で流通している模倣品の多くが国外から流入していることもあり、税関による対応の重要性が高まっている。

税関での水際措置は「関税同盟関税基本法」および「ロシア連邦における通関規則について」(2010年11月27日付連邦法第311−FZ号)によって規定されている。知財権対象物の税関登録制度(注2)を利用することによって、著作権・著作隣接権、商標権、原産地表示に関する権利侵害品の流入・流出を防止することができる(ただし特許権、実用新権、意匠権は対象外)。

税関登録件数は年々増加し(図1参照)、日本企業の登録件数もここ数年で急増している。12年5月24日時点の税関登録件数は2,377件で、うち日本企業の登録は25社、105件。製品分野別の税関登録割合は、アルコールが全体の27%、製菓が20%、食品が13%となっている(図2参照)。

図1税関登録件数の推移
図2分野別の税関登録割合

11年の模倣品の水際差し止め件数は1,083件で、内訳としては商標権侵害が1,053件、著作権・著作隣接権侵害が30件だった。税関登録に基づく差し止めのほか、税関職員の職権による差し止めも可能だ。11年の税関での摘発点数は930万点で、服・靴(主にスポーツ用品)の摘発が全体の40%を占めた。最近の傾向としては、ラベルの摘発件数が急増しているという。

(注1)知財権を専門とする弁護士事務所ゴロジスキー・アンド・パートナーズのユーリ・クズネツォフ弁護士は「既にロシアの知財権関連の法律はTRIPS協定と整合性がとれている」としている。
(注2)権利者は、自社の商標権や著作権などに基づく情報を連邦税関局の知的財産登録簿に掲載することで、これらの情報がロシア全土の税関ポストに情報が共有され、権利侵害品が含まれる輸入および輸出貨物を差し止めることができる制度。

(宮川嵩浩、菱川奈津子)

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