日EU・EPA/EIAは日本、EU双方に意義−日EUビジネスセミナー−

(日本、EU、英国)

ロンドン発

2012年04月13日

ジェトロは3月9日、国際的シンクタンクのチャタムハウスとの共催で、「成長のための日EUパートナーシップの将来像」をテーマにしたシンポジウムをロンドンで開催した。産官学の講演者が、日・EU経済連携協定(EPA)/経済統合協定(EIA)について、同EPA/EIAは世界最大規模の自由貿易協定(FTA)になり、双方の経済成長に寄与し得る、これを通じて構築されるハイレベルなルールや基準はイノベーションをもたらす、などの意義を訴えた。

<ともに成長を維持していくために>
ジェトロの横尾英博副理事長は、冒頭のあいさつで、「われわれは成長を実現していくことができるパートナーだ」と述べ、日本とEUがともに経済成長に向けてチャレンジしていく必要性を強調した。

これを受けて、新興市場の成長を取り込み、社会の高齢化への対応などの課題に取り組むには、日EUの経済関係を深化し、相互の市場から利益を享受するとともに、第三国での協力を進めるべきだとの発言が複数の講演者から出た。

世界経済の停滞は財政赤字削減を迫られている各国経済にさらなる押し下げ圧力をかけており、経済成長を回復するために、喫緊の課題としてパートナーシップの強化による投資促進が求められている。

例えば、英国は、短期的には内需の低迷、中期的には貿易赤字、(家庭などの)ローンに依存した消費に直面している。日本は2011年3月の東日本大震災とタイ大洪水の影響を受けた経済を回復させ、サプライチェーンを強化する必要がある。ジェトロの有馬純ロンドン事務所長は、このような情勢の中で、日EU・EPA/EIAにより、対外、対内双方向の投資を活性化することが日EUの経済を再活性化させると述べた。

また、英国貿易投資総省(UKTI)のニック・ベアード長官は、現在の経済情勢の中で「貿易と投資がかつてないほど重要性を増している。EUと日本を合わせて世界のGDPの3分の1を占めるにもかかわらず、双方ともGDP成長と双方向の貿易が伸び悩んでいる。日EUは経済成長を刺激する必要があり、日EU・EPA/EIAはその手段としての大きな可能性を秘めている」と強調した。

<世界最大級のFTA>
元欧州議会議員のグレン・フォード氏は、日EU・EPA/EIAの規模の大きさと早期交渉入りの必要性を説いた。同氏は、日本とEUを合わせた貿易額は世界全体の貿易額の30%を占め、EUが過去に交渉してきたどのFTAよりも大きく、世界最大規模のFTAといえる日EU・EPA/EIAにより、巨大な市場が出現することになると述べた。さらに同氏は「自らがEU議長国を務めている5月か6月に交渉入りを決めることに積極的なデンマークの任期(12年1〜6月)中に、交渉入りを決めるべきだ」との見解を示した。

バークレイズ・キャピタルのデビッド・ライト副会長は、現在、欧州にとって日本の戦略的なプライオリティーは高くなく、6〜8年前から中国やインドに関心が移るとともに、欧州債務危機も優先課題になっていると指摘。一方で、ライト副会長は、日本の国の規模と日本経済の重要性について繰り返し触れ、「東京の経済規模だけでロシアのそれを上回る」として、日本に再注目する必要があるとの見解を示した。

<「非関税措置」が長年の課題>
シンポジウムセッションのモデレーターを務めたチャタムハウスのロビン・ニブレット所長は、「非関税措置」を日EU・EPA/EIAの長年の課題の1つとして挙げた。

非関税措置について、日本の産業界や政府の取り組みが続けられている。ケンブリッジ大学で上級講師を務めるチャタムハウスのアジアプログラム・アソシエートフェローのジョン・スウェンソン・ライト氏は、野田佳彦首相が非関税措置や規制制度緩和に取り組む強い決意を示していることを紹介した。EUは、「改革なくして成長なし」という野田首相のメッセージが日EU・EPA/EIAでも実現することを希望し、日本が実際に取り組みを進められることを示せるかに着目している。

日本機械輸出組合ブリュッセル事務所の住田孝之所長は、日EU間の産業間対話が著しく進展しており、その中で、日EUが真に取り組むべき非関税措置について双方が確認していることを明らかにした。具体的には、ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)と日本経団連(11年7月)、欧州自動車工業会(ACEA)と日本自動車工業会(11年12月)、デジタルヨーロッパと電子情報技術産業協会(11年9月)、EUの鉄道メーカーと日本の鉄道会社(11年10月)の間で日EU・EPA/EIAに関する議論が進められていると述べた。

さらに、「欧州の自動車メーカーは日EU・EPA/EIAについて懸念を示しているが、欧州からの輸入車が日本市場で獲得している市場シェアは、日本からの輸入車が欧州市場で保有する市場シェアより大きいこと、三菱総合研究所が日EU・EPA/EIAが具現化した場合、EU企業は日本市場での自動車販売を25%増やす効果があるとの試算を出していることを紹介した。また、ルールやその運用統一を含む単一市場を完成させていくことで、日本企業は欧州でのビジネスがしやすくなり、EUの対内直接投資や雇用の促進にもつながると指摘した。

中富道隆経済産業省特別通商交渉官兼経済産業研究所上席研究員は、日欧は経済の低迷を乗り越えるためにも、新興国の成長力を取り込みつつ、貿易・投資を活性化すべきだと指摘し、そのためにも日EU・EPA/EIAを早期に実現すべきだと述べた。

ジェトロの有馬ロンドン事務所長は、日本は円高、世界経済の減速による景気回復の遅れ、貿易赤字、高齢化社会の到来、財政赤字、エネルギー制約などの試練に直面しているが、技術革新力と市場規模に強みがあると述べた。また、ASEANやインドなど、日本がFTAを締結している国・地域への日本の貿易依存度は交渉中のものを含めても36.5%と、韓国に比べて低く、経済連携の遅れが経済への制約要因とならないよう、日EU・EIAを含めた経済連携の拡大を進めることが必要だと強調した。

また、日本の対内直接投資額はGDP比4%弱にとどまっており、地価が高いことや英語を話す人材不足が課題だが、一方で日本政府は、10年に発表した新成長戦略の中で今後10年間にヒト・モノ・カネの日本への流れを倍増するとの目標を示し、研究開発拠点やアジアでの地域統括拠点を立地して外国企業への補助金制度を創設するなど優遇措置を講じている、と述べた。

デビッド・ライト副会長は「過去10年間で外国企業にとって、日本の金融サービス市場は大きく改善された」と評価した。その上で、「日本のライフサイエンス、バイオ化学、ヘルスケア、情報通信産業におけるイノベーション、航空宇宙・防衛産業などでは改善すべき点がみられる」と述べた。

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのジャネット・ハンター教授は、日EUの構造的、制度的な類似性と差異について講演した。この中で、同教授は、世界で競争するのに必要な人材を確保するためには、教育に関する日欧協力が必要で、日本では、女性の職場参画を一層促すことが課題だと述べた。同教授は、日EU・EPA/EIAを進める中で、日欧の社会的な差異について認識するはずだが、制度的、社会的変化は経済的変化よりも時間がかかると説明した。

これに対し、デビッド・ライト副会長は、企業文化について触れ、外国人が日本企業の役員として受け入れられていくことは欧州側にとって歓迎すべきことだとコメントした。有馬所長は、相互に投資が増えることによって、日本人が外国の企業文化や社会構造に触れることになるため、日EU・EPA/EIAは間接的に社会的、企業文化的な差異を縮めていくことに貢献すると述べた。

<日EUが直面する課題克服に日EU・EPA/EIAが貢献>
中富道隆特別通商交渉官は「日EU・EPA/EIAは世界貿易の中核的要素になり、マルチラテラルの枠組みを強化することに貢献し、ひいてはWTOの議論にも貢献する」と述べた。また、有馬所長は「日EUは、高齢化社会問題への対応、エネルギー制約、経済成長のドライバーとしての自由な貿易・投資、新興国市場対策、価値観の共有など多くの点で協力の余地があり、ハイレベルで包括的な日EU・EPA/EIAができれば、世界貿易と投資に前向きな見通しを与える。(日欧にとって)ウィン・ウィンの関係を築くことになる」と述べた。

日本の戦略的重要性は、東アジア経済へのアクセスポイントになっていることだ。慶應義塾大学総合政策学部の渡邊頼純教授は、東アジアでは20年までに貿易投資自由化の連携協定を法的に義務付けるアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)を構築する方向でビジネス・投資主導の統合が進んでいると説明。日EU・EPA/EIAは日欧の成長を促進するだけでなく、アジア・EU間の地域間統合の中心的役割を担うことで、アジア・EU関係の深化にもつながると述べた。

同教授は「米国はアジアに対して環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)、FTAAPを提案したことによってアジアの成長性を取り組むことができるが、EUはどうする考えなのか」とEU側に日EU・EPA/EIAの意義を呼び掛けた。

日本とEUは多くの課題に直面している。しかし、日本とEUはその課題を機会に変えることで世界に貢献することができる。低成長、自然災害、高齢化社会、エネルギー効率化、ライフサイエンスなどの課題克服に相互の貿易投資の促進が貢献する。その手段が日EU・EPA/EIAだ。

(ピーター・カワルチク、木場亮)

(EU・英国・日本)

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