BOPビジネスの主戦場に注目−新興市場をいかに開拓するか(1)−

(バングラデシュ)

海外調査部

2012年04月12日

少子高齢化による国内市場の伸び悩みや欧米市場の停滞が長期化する様相をみせる中、日本企業にとっては新興国市場の重要性が高まっている。新興国市場開拓には、台頭する中間層だけでなく、BOP(経済ピラミッドの底辺層)市場も視野に入れた取り組みが欠かせない。ジェトロは「BOP・ボリュームゾーン市場セミナー〜バングラデシュのBOP・ボリュームゾーン市場と韓国企業の新興市場開拓〜」と題するセミナーを2月29日に開催した。その内容を2回に分けて報告する。前編はバングラデシュでのBOPビジネスについて。

<消費支出は年平均10%以上の伸び>
セミナーの前半では、市部を中心に中間層が台頭しつつあるバングラデシュ市場を取り上げて、市場の概況とBOPビジネス、ボリュームゾーンビジネスの事例を紹介した。

まず、ジェトロ・アジア大洋州課の北見創職員が「バングラデシュの消費市場と投資環境」について、以下のように報告した。

バングラデシュは2000年代前半まではさして注目されなかったが、06年にグラミン銀行のムハマド・ユヌス氏がノーベル平和賞を受賞、08年にはファーストリテイリング(ユニクロ)が駐在員事務所を開設するに及んで一躍脚光を浴びるようになった。ユニクロは中国での生産を減らし、徐々にバングラデシュに移管。ほかの日系アパレルメーカーもそれに追随するようになった。

人口は約1億5,000万人、公用語はベンガル語だが、旧英国領なので、英語を話せる人も多い。ベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマーのいわゆるCLMV諸国と比較すると、人件費が安く、人口密度が高いため労働者を集めやすい。半面、電力インフラが未整備で、現地での調達、生産性の高さは望めない。雨期には水没する地域が多く、工業用地の確保が困難だ。

ここ数年は6%前後の成長を達成している。名目GDPは製造業、卸・小売り、農林業が上位を占める。貿易をみると2010/11年度(10年7月〜11年6月)の輸出総額は229億ドル、そのうち約8割がニット製品、既製服だ。輸出先は米国が1位で、構成比は22%、ドイツ、英国、フランスと続く。輸入総額は337億ドル、石油製品、一般機械なども金額が大きいが、やはり繊維産業の原材料の原綿、生地・布、糸の輸入が多い。相手国別にみると中国が1位で、シェアは17.5%、インド、マレーシアと続き、日本は4位だ。

日本との貿易は、11年の日本からの輸出が10億7,260万ドル、輸入が5億6,390万ドルだった。主要輸出品は鉄・同製品、輸送機器、電気機器で、輸入は既製服、ニットが約62%を占める。

消費市場としてバングラデシュをみると、注目すべきは人口と消費支出の増加のスピードだ。人口は現在の1億5,000万人が20年には1億7,000万人、40年には1億9,000万人に上ると予測されている。消費支出は05年から10年までで年平均12.8%の伸びを記録した。耐久消費財ではテレビ・ラジオの普及率が40.0%、冷蔵庫は8.6%、パソコンは1.9%しかない(09年3月調査)。バングラデシュは親日的な国で、日本製品への憧れもある。

現在の日系進出企業は、ジェトロの調査によると130社。アパレルの生産基地としての投資が多いが、バングラデシュの国内市場を目指す投資も増加している。

<日本企業のBOPビジネス関心対象国として第3位>
続いて、ジェトロ海外調査部の唐津康次主任調査研究員(当時)が「バングラデシュにおけるBOPビジネスの可能性とは」と題して、以下のとおり講演した。

バングラデシュは、日本企業のBOPビジネス関心対象国としてインド、インドネシアに続き第3位にランクされる。いわゆるBOPビジネスとは別に、ソーシャルビジネスという考えがあるが、大手NGOが志向する後者は、社会課題の解決を目的とするもので、利益が出たら再投資に回すことになる。

今後の世界経済では新興国の比重が増すことが予想される。BOP層は将来の中間層、ネクスト・ボリュームゾーンともいえる。現在の世界人口は約70億人だが、その7割をBOP層とすると、約50億人がそれに相当し、巨大な市場だ。

BOP層でも決して商品へのニーズがないわけではなく、例えば、無電化村でもソーラーが屋根に設置されていたり、充電式のLEDライト、卓上式LEDランプなどが販売されたりしている。

彼らのニーズに応えるには、製品機能の差別化、単純化が必要だ。いいものだから売れるという発想は通じない。医療・保健分野でも、村のキオスクでは1錠ずつ販売するなどの工夫をしている。取り組みを進めるに当たっては、現地のNGOと提携するのも1つの方法だが、ビジネスへの関心が低いNGOと組むよりも、民間企業と協力したほうがいい場合もある。

バングラデシュで実績のある企業としては、フランス最大の食品メーカー・ダノンが挙げられる。ダノンは06年にグラミン銀行と合弁で企業を設立し、ヨーグルトの販売を始めた。ヨーグルトの原料は現地産を利用、流通チャネルの行き届かない農村部のアクセスには農村の女性を活用している。

スイスの靴メーカー・バタは米国系のNGOのケアと協力し、ダノンと同じく女性の労働力により販売網の拡大を図って成功している。ケアが販売員の採用・研修などを実施、販売実績のモニターも行っている。NGOと提携するメリットは、市場ニーズの把握、農村部への流通コストの削減、ブランドの浸透などが挙げられる。

日本企業は、NGOと連携し、あるいは連携せずに、バングラデシュの農村部と都市部の双方でBOP層向けにビジネスを行っている。雪国まいたけは、モヤシの種子の栽培に取り組んでおり、また、日本ポリグルは表層水の汚れを取る凝集剤を開発し、小分けにして販売をするという方法を取っている。

<ICカードでバス事業者向けサービスを展開>
3番目の講演は「バングラデシュでICカードを売る」と題して、実際にバングラデシュに進出したエヌ・ウェーブのアカウント・マネジャー、矢萩晴子氏が、同社のバングラデシュでのビジネスについて以下のように話した。

エヌ・ウェーブは資本金1,000万円、従業員15人の中小企業で、バングラデシュ人を採用したのをきっかけにバングラデシュに進出した。

国内要員として採用したが、バングラデシュという国にも興味を持ち、バングラデシュが元気のある国であることが分かったため、何か貢献したいということで、同国のITフェアなどにも参加してきた。ソニーの協力を得て、ICカードを使いさまざまな情報を正確にまた迅速に処理できる「IT Ticket System」で、ダッカ市内の国営バス事業者向けにサービスを開始するようになった。

鉄道の整備が進んでいないバングラデシュでは、主な交通手段はバスだ。首都ダッカでは約500万人が日常的にバスを利用している。バスの乗車券は路上で販売されていたため、交通渋滞や事故の原因にもなっていた。バス会社ごとに乗車券が違い、雨の日などは販売員がいないためチケットが購入できない。釣り銭のやり取りでのトラブルが起き、偽物乗車券も出回り、売上金の着服など問題も多かった。

このシステム導入後は、ICカードを購入すれば、キャッシュレスになり、その都度乗車券を買う手間が省け、行列に並ばなくてもよくなり、路上の混雑も解消された。バス会社にとっても販売員などによる不正が改善され、収益が向上、新車購入にもつながった。バス稼働台数の増加はサービス向上にもつながり、さらに収益がアップするという好循環をもたらした。

エヌ・ウェーブの現地子会社は急成長し、ICカードを利用してバングラデシュの医療情報システムにも参入している。

(新井俊三)

(バングラデシュ)

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