中道右派を中心とした連立政権誕生−新首相にヤンシャ氏−

(スロベニア、欧州)

ウィーン発

2012年02月08日

保守系スロベニア民主党(SDS)を中心とした中道右派の政党4党と中道左派のスロベニア年金者党(DeSUS)が1月25日、連立政権樹立に合意した。これを受けて1月28日に開かれた臨時議会はSDSのヤンシャ党首を新首相に選出した。2月10日までに組閣を完了し、2月中旬にも新政権が発足する予定。新首相は最重要課題として財政再建、経済復興、雇用創出を挙げ、厳しい緊縮政策の実施を宣言した。

<保守系4党と年金者党が連立に合意>
2011年12月4日の議会選挙で第2党になったSDSのヤンシャ党首は中道派の政党と連立交渉を進め、SDSは1月25日、国民党(SLS)、新キリスト教国民党(NSi)、リベラル新党「ビーラント」、中道左派のDeSUSと連立合意書に署名した。少数民族代表の議員2人も連立に協力することになった。

スロベニア議会は11年9月、社民党のパホル首相が率いる中道左派政権の信任案を否決した。これに伴う前倒し議会選挙が11年12月4日に行われ、選挙の2ヵ月前に創立された中道左派の新党「ポジティブ・スロベニア」が第1党になった(2011年12月8日記事参照)。同党のゾラン・ヤンコビッチ党首は、テュルク大統領に組閣を要請されたが、連立工作に失敗。12年1月11日の議会での承認投票で、承認に必要な過半数(総議席数90のうちの46票)を得ることができなかった。

この結果を受け、テュルク大統領は第2党のSDSの党首ヤンシャ氏を首相に指名する予定だったものの、04〜08年に首相を務めたヤンシャ氏は在任中に武器購入に絡む収賄疑惑で起訴されていたため、いったんは首相指名を見送っていた。

<ヤンシャ氏、収賄容疑で裁判継続中>
ところが、ヤンシャ氏は1月28日の臨時国会でSDSによって首相候補に指名され、その直後に行われた議会投票で承認に必要な51票を得て、スロベニアの第7代の首相に選出された。

リュブリャナ大学防衛学科を卒業したヤンシャ氏(53歳)は、20年以上前からスロベニアの政治で重要な役割を果たしてきた。旧ユーゴスラビアからの独立前の1989年には、スロベニア初の野党スロベニア民主同盟(SDZ)の創立にかかわり、独立後は94年までペテルレ内閣で防衛相を務めた。SDZの解党後にはSDSの党員になり、95〜2004年は同党の党首として野党をリードしてきた。04年の議会選挙でSDSが第1党になり、ヤンシャ氏は首相に就任した。

08年の議会選挙直前に、同氏がフィンランドの武器製造会社パトリアから装輪装甲車の調達絡みで賄賂を受けとった疑惑が報道された。選挙でSDSは社民党に破れ、野党に転落した。収賄に関する裁判は現在も続いている。

<新政権の最大課題は支出削減>
首相就任に当たってヤンシャ氏は、新政権の最重要の課題として財政再建、経済復興、雇用創出を挙げた。「われわれの最大の課題は支出を削減すること」と厳しい緊縮政策を宣言し、「わが国の財政状況は深刻だ。(財政の)安定化に成功できるかどうかは、与野党が必要な対策の実施にどれだけ協力できるかにかかっている」と野党の協力を求めた。

スロベニアの公的債務残高は、債務危機が問題になっているギリシャ、アイルランド、ポルトガルより少ないが、GDP比でみると、08年の21.9%から11年には45%と急速に膨らんでおり、IMFなどが警鐘を鳴らしている。格付け会社フィッチは1月27日、「欧州債務危機で、スロベニアが低利で資金調達することが難しくなってきた」という理由で、長期国債の格付けをAA−(マイナス)からAに2段階引き下げた。スロベニアの10年物国債利回りは11年11月に一時的に7%を超えたが、1月末時点では6.5%までわずかに下がっている。

西欧市場の需要が低迷しているため、輸出主導型のスロベニアは不況に陥る可能性が高い。政府の経済研究機関のIMADは1月26日、12年の実質GDP成長率予測を11年秋に予測した2.0%から0.2%に下方修正した。欧州復興開発銀行(EBRD)が1月23日に発表した予測では、マイナス1.1%と一層悲観的だ。

<省の再編や閣僚ポストめぐり足並みの乱れも>
このためヤンシャ氏は、12年の政府支出の8億ユーロ削減を掲げている。その一環として新連立内閣はSDSが選挙戦で求めてきた「小さな政府」を目指して、閣僚ポストを15から12(そのうち1人は無任所相)に縮小する考えだ。連立合意書によると、具体的には文化省の管轄分野は教育・スポーツ省に移り、大学の管理が同省の管轄に入る。また、環境省の管轄分野は農林省とインフラ省に分けられ、行政省は法務省と合併する。

省の管轄分断と閣僚ポストの配分については、新政権が発足する前から連立与党の間で激しい議論が交わされていた。新党「ビーラント」は、ヤンシャ氏が収賄容疑で起訴されているため、SDSの議員が内相または法相に就任することに猛反対したが、結局、内相にはSDSの議員の就任が決まった。

外部からも批判の声が上がった。芸術家が文化省の廃止に反対しているほか、最も反発を招いたのは、訴訟案件が法務省から内務省に移ることだ。連立政府は、この管轄の移動は「処理する効率性を上げるため」という理由を挙げているが、検察官連盟や多くの法律専門家はこの移動は憲法上問題があると反対している。これによって、立法府による司法への干渉や、警察による職権乱用につながる可能性がある。元検察官のボスチアン・ペンコ氏は「こういう政策には成熟した民主主義が必要。スロベニアではまだ法の支配が浸透していない」と日刊紙「Dnevnik」に述べた。

ヤンシャ氏は、組閣を2月10日までに終わらせたいとしている。その前に、議会の各担当委員会で閣僚候補の公聴会が行われ、公聴会終了後に議会で内閣が承認されれば、2月中旬には新政権が発足する見通し。新政権が発足する前に連立内の足並みの乱れが表面化すれば、連立政権の脆弱(ぜいじゃく)さを露呈することになる。

与党5党による連立は定数90の議会で過半数を超える50議席を確保し、安定しているが、いずれか1つの政党が連立から離脱すると過半数を維持できなくなる。農家などが支援するSLSとDeSUSはともに、自党支持者の利益を死守しようとすることで知られている。この姿勢を貫いた場合、年金制度の見直しなどの根本的な改革が実施できるかどうかが危ぶまれる。パホル政権も結局、中道左派DeSUSが年金制度改革に反対したために破綻した。ヤンシャ氏の今後の政権運営の手腕が問われる。

(エッカート・デアシュミット)

(スロベニア)

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