12年予算案を可決−GDP成長率はマイナス2.8%と設定−

(ポルトガル)

マドリード発

2011年12月28日

政府が10月17日に議会へ提出した2012年予算案が11月29日、可決された。度重なる増税措置に加えて厳しい歳出削減策が打ち出されたことにより、国民負担の増加と内需停滞が懸念される。コエリョ政権は財政再建に向けた難しいかじ取りを迫られる。

<「これまでで最も厳しい内容」と財務相>
12年予算案の国会審議が行われる中、11月24日には緊縮財政に抗議するゼネストが実施されるなど、国民の不満が高まっている(2011年11月28日記事参照)。最大野党の社会党(PS)は、同党が要求していた「補助金と年金削減の調整、投資の与信信用枠の創設、文化関連製品などへの付加価値税(VAT:ポルトガルではIVA)引き上げ率の軽減」が受け入れられなかったとして採決を棄権、また、ほかの野党は反対票を投じたものの、予算案は与党の賛成多数で可決された。

ガスパール財務相が「これまでで最も厳しい内容」と語る12年予算計画では、実質GDP成長率をマイナス2.8%と設定しており、1974年の社会主義革命以来最悪と予測されている11年のマイナス1.9%よりも悪化する見通し(表1参照)。また、11年はGDP比5.9%と予測されている財政赤字を4.5%に引き下げるとともに、同じくマイナス1.6%と予測されている基礎的財政収支を0.7%に黒字化する目標が掲げられている(表2参照)。

表1主要経済指標
表2予算案:主要指標(GDP比)

<社会保障など6分野の歳出を削減>
歳入面では追加増税策として、食料品、娯楽関係、エネルギー料金などの一部を対象に現在適用されているVAT軽減税率の引き上げ(最低税率6%を中間税率の13%に、中間税率13%を一般税率の23%に)が実施される。注目される歳出削減は、社会保障、公務員(人件費)、地方行政、保健、教育、国営企業の各分野で具体策が掲げられており、その概要は以下のとおり。

(1)社会保障:235億ユーロ削減(当初予算案提出時点の見込み額)
○月額1,100ユーロ以上の年金受給者は、12〜13年の2年間、一般的に「夏季休暇手当」「クリスマス休暇手当」と呼ばれる2ヵ月相当の追加支給を廃止。
○月額600ユーロ以上、1,100ユーロ未満の年金受給者は、12〜13年の2年間、段階的に夏季休暇手当、クリスマス休暇手当を削減(夏季休暇手当、またはクリスマス休暇手当のどちらか一方を削減)。
○早期退職年齢を現行の55歳から57歳に引き上げ。
○早期退職者への減額支給計算方式の変更(現行削減率月0.5%を年6%に変更)。
○個人事業者による未払い社会保険料の納付期間を延長。

(2)公務員(人件費):193億ユーロ削減
○月額給与1,100ユーロ以上の公務員は、12〜13年の2年間、一般的に「夏季休暇手当」「クリスマス休暇手当」と呼ばれる2ヵ月相当のボーナスを廃止。
○月額給与600ユーロ以上、1,100ユーロ未満の公務員は、12〜13年の2年間、段階的に夏季休暇手当、クリスマス休暇手当を削減(夏季休暇手当またはクリスマス休暇手当のどちらか一方を削減)。
○時間外手当を現行の半額に減額。
○月額給与が1,500ユーロ以上の場合、一律5%削減。
○国家公務員、地方公務員の経費2%削減および新規雇用の禁止。
○自宅待機余剰人員の給与を削減。また、職場復帰を拒否した場合には給与全額をカット。
○月額485〜727.50ユーロの低額年金受給者に対し、これまで免除されていた公務員社会保険(ADSE)の保険料1.5%の支払いを設定。

(3)地域・地方行政:101億ユーロ削減
○地域行政機関と地方自治体による新規職員の採用を禁止。
○地域行政機関のための地方自治体への配賦金1億7,500万ユーロをカット。
○地域行政機関の借金に対する制限を強化。
○(財政赤字隠しが表面化した)マデイラ自治州への罰則を検討中(12年予算配賦の一時停止など)。

(4)保健:90億ユーロ削減
○保健省の予算を8億ユーロ削減。公的医療サービス予算を6億ユーロ削減。
○健康保険料収入を現在の3倍の3億ユーロに引き上げるため、料率の引き上げを検討。
○健康保険各種控除の廃止(ただし、月額給与628ユーロ未満の者を除く)。
○保険料を支払わない場合の罰則として最低50ユーロの罰金を設定。医薬品の政府負担分を大幅に削減、また低額年金生活者の負担分引き上げ。
○処方箋への医薬品メーカー指定記載を廃止し、ジェネリック医薬品を推進する。
○病院統廃合の強化。

(5)教育制度:77億ユーロ削減
○教育・科学省の予算の8%(6億ユーロ)を削減。
○12、13年の人件費を3億4,700万ユーロ削減。
○38の上級管理職、47の中級管理職の廃止。
○学校統廃合の推進。
○ニューチャンス・プログラムの再審査、再構成。
○小学校教育に必要のない授業の廃止、学期ごとに設定された1クラス当たり生徒数の増加、義務教育年数引き上げのための政策採用。

(6)国営企業:74億ユーロ削減
○国営企業(市町村経営企業を含む)の管理職および取締役に対して向こう2年間、基本給以外の全手当を廃止。
○公務員改革政策の適用、給与カット、夏季休暇手当・クリスマス休暇手当の廃止など。
○国営企業の構造的な改革を実施。
○会計検査院が国営企業によるすべての契約を事前審査。
○大規模組織を除き、国営企業の取締役数を5から3に削減。

(小野恵美、加藤辰也)

(ポルトガル)

ビジネス短信 4ef95d8308ca0