職場環境、生産体制が離職率に影響−最近の労働市場(1)−

(ベトナム)

ハノイ発

2011年10月27日

2010年ごろからワーカー不足の声が上がっており、11年に入っても改善はみられない。ハノイ、ハイフォン近郊の日系企業によると、職場環境や「一直」「二直」といわれる交代勤務制度、ワーカー数、周辺への他社進出状況などによりワーカーの不足感に違いがある。日系企業のワーカー確保に向けた動きなど、最近の労働市場を2回に分けて紹介する。

<冷房や座り作業がワーカー確保にプラス>
ハイフォン市周辺の工業団地に進出した日系メーカーA社は、ワーカー約300人を抱えている。「今のところワーカーは不足しておらず、離職するワーカーは月1〜2人程度」だという。A社は、労働集約的工程(手作業による製品の組み立て)が日本では採算がとれなくなってきたため当地に進出し、製造工程の一部を移管した。進出候補先として中国とベトナムを調査・検討し、経営トップの判断でベトナムを選択した。ワーカー不足に陥っていない理由として「給与は他社に比べて高くないが、冷房が効いているなどの職場環境の良さ」を挙げた。

同じくハイフォンで家電部品を製造するB社は約800人のワーカーを雇っているが、やはりワーカー不足を感じていないという。B社は中国にも製造拠点を構えており、「中国拠点の1ヵ月の離職率は12〜13%。一方、ベトナムでの離職率は約5%と低い。タイは人件費の水準が中国に近づいており、インドネシアは休日が多い。ベトナムでは祝日が少ないこともあり、時間単位で考えたコストは中国拠点の7〜8割程度」とベトナムの優位性を評価している。

そのほか「生産体制は一直(交代なし)で座り作業。これがワーカー確保に功を奏しているのではないか」と語る。今後はそれほど工場規模を拡大しようとは考えておらず、中国拠点からマネジャーを呼び寄せ、近い将来には日本人駐在員なしでの経営を目指しているという。生産ラインマネジャーの能力次第で生産性はかなり変わるため、今後はラインマネジャーの能力向上による生産効率改善に努めるようだ。

<三直は不利>
生産体制というキーワードについて共通した意見を持っていたのは、同じくハイフォンで数千人規模のワーカーを抱え、ワーカー不足を感じているC社だ。離職率は月5%程度ではあるものの、絶対数では毎月数百人の出入りがある。C社は二直(2交代)体制だが、「三直だと人集めは難しいのではないか」と語る。C社は生産の一部を外注先に委託している。委託先のワーカーは1,000人程度、給与水準はC社と同じか若干安いレベルにもかかわらず、ワーカー確保にそれほど苦労していない。その委託先企業の生産体制は一直だという。

なおC社はワーカーを確保するため、年齢要件を「18〜25歳」から「18〜39歳」に緩和した。高い年齢の方が離職率は低くなるという。若いワーカーは、より高い賃金の企業に移る傾向があるためだ。

ハノイ市近郊の工業団地に入居し、ワーカー200人を抱えるD社も、ベトナムの課題は「ワーカー不足と為替」と指摘する。D社はベトナム国内で二輪車を製造販売するメーカーに製品を納めており、販売代金は現地通貨ドン建て。そのため、ここ数年のドン安傾向はリスクの1つだ。一方、ワーカー確保については「採用に時間がかかるが、不足とまではいかない状況」だという。ワーカー数の違いにより、採用についての不足感が先のC社と異なる。また、D社は増産に対応するために三直体制を採用したことがあるが、ワーカーからの要望を受け、二直に変更している。

このように、空調が効いているといった職場環境の良さや、一直または二直といった生産体制がワーカー確保に影響を与えているようだ。また、A社やD社のようにワーカーが数百人以下の場合は、ワーカー不足に陥ってはいない様子がうかがえる。

(小林恵介、藤森義人)

(ベトナム)

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