20年までにGHGを4割削減の目標−欧州各国の省エネルギー政策−

(スウェーデン)

ストックホルム発

2010年07月26日

もともと欧州で1、2を争う省エネ、環境保護水準を誇ってきたが、20年に向け温室効果ガス(GHG)を1990年比で4割削減するなど、さらに意欲的な環境・エネルギー目標を設定している。現政権は特に国民向けの広報・啓発活動に力を入れているが、秋の総選挙で左派政権が誕生すれば、省エネ設備投資のための補助金支給などを強化する可能性もある。

<エネルギー消費量は2割減に>
現在の環境・エネルギー政策は、09年6月に発表された2つの法案「環境・エネルギー政策法案」(Prop 2008/09:162、Prop 2008/09:163、注)に基づいている。同法案に示された20年までの環境・エネルギー目標は以下のとおり。

(1)GHGを40%削減する(90年比。排出権取引は含まない)。
(2)全エネルギー供給に占める再生可能エネルギーの割合を最低50%以上にする。
(3)省エネ(エネルギーの効率的な利用)によりエネルギー消費量(一次エネルギー消費量)を20%削減する。
(4)交通・輸送部門での再生可能エネルギー使用率を最低10%以上にする。

<建物の販売にエネルギー消費量の明示を義務付け>
スウェーデンにとって、EU共通の目標でもある「エネルギー消費量20%削減」の実現は容易ではない。というのは、70年代に暖房効率の向上を意識した建物建築基準をほかの欧州諸国に先駆けて導入しているほか、住宅開発地域(一戸建も含む)には地域集中暖房システムを導入し、家庭ごみ焼却や汚水処理などのサービスとも組み合わせて、より効率的なエネルギー管理を進めるといった取り組みを以前から進めており、既にかなりの水準まで省エネが進んでいるからだ。

政府は、先の省エネ目標を達成し、同時にEUのエネルギー・サービス指令(2006/32/EG)に従うために、10年から14年までの間に、09年までの予算の2倍に相当する3億スウェーデン・クローナ(1クローナ=約11.9円)を毎年支出する。エネルギー庁が管轄当局となって以下の省エネ・プログラムを進めている。

省エネのためのアクションプランには以下のものが含まれる。

(1)地域・地方のエネルギー・環境への取り組みの強化。
(2)広報と助言・指導活動の強化。
(3)公共部門が省エネの模範となるべく努力する。地方自治体が省エネに関しエネルギー庁と任意の契約を結ぶ。
(4)エネルギーを大量に使用する企業に対し、エネルギーの利用状況を確認し、より効率の良いエネルギー管理を行うためのプログラムを導入するための補助金を支給(10〜14年)。
(5)社会のエネルギー消費をより効率化するために消費者にエネルギー効率の良い製品を提供することが必要。政府は技術公共調達とエネルギー効率の良い製品の導入を促進する。
(6)09年1月1日以降に新築・改築された建造物に対しては、それぞれの利用者ごと、建物ごとに、電気・エネルギー使用量の個別の測定を必須とする。従来、集合住宅や集合商業地区などでは、単純に面積比で全体の使用量を分割して料金を計算していた。さらに09年1月1日以降に販売される建造物には、電気・エネルギー消費量を明示することが法律で義務付けられた。エネルギー消費のコストがより明確になれば、国民のエネルギー消費行動が効率化されるという考えに基づく。

<公共建築物で8.5テラワット時の省エネと試算>
産業省エネルギー政策担当官マルムベリィ氏によると、省エネ・プログラムでは優先分野は特定されていないが、従来、環境・気象問題対応関連の各種補助金の対象となっていた建設・建築部門だけではなく、都市計画や地域交通など地方自治体関連の複数部門、および工業生産部門まで拡大して、省エネ促進に向けた取り組みを行っている。

地方自治体はエネルギー庁と個別の契約を結び、輸送・交通、都市計画、公共調達などに関して、省エネに関する広報や啓発活動を実施している。10年9月にこれらの事業の最初の評価・報告をする予定だが、既に各地方エネルギー局のウェブサイトでその活動の一部が紹介されている。例えば、技術博物館に地域の生徒を招待して省エネ教育をするストックホルム県の試みや、地方自治体職員であるエネルギーアドバイザーが地域の企業を訪問して省エネの可能性を指摘する南部地方のプロジェクトなどが挙げられる。

07年に設置されたエネルギー効率化政府諮問委員会は、古い照明器具をエネルギー効率の良い器具に交換したり、換気システムを交換したりするだけでも、大きな省エネ効果が生まれるという(報告書SOU2008:25)。また、建設・建築部門では、エネルギー効率の良い窓への転換、暖房システムを石油・電気からバイオ燃料による地域集中システムに転換するといった事業に補助金が支給されているが、これにより、20年までに公共の建物だけでも8.5テラワット時の省エネが可能だと試算している。

公共調達については、スウェーデン環境マネージメント委員会の指導により、南部のヨンショーピング県では県の公共建築物の入札の際、ライフサイクルコストを落札の判断材料の1つとして採用したという。

<新たに太陽光発電への補助を開始>
エネルギー効率化のためのインセンティブは、建設・建築部門に集中している。大きなものでは、新たに09年1月1日から導入された太陽光暖房システムの設置にかかわる国庫補助金がある。補助金は年間暖房エネルギー量で計算され、年間1キロワット時当たり2.50クローナ。小住宅の場合はアパート1軒当たり最高7,500クローナまで。大きな建設プロジェクトではプロジェクト1件当たり300万クローナまでの上限がある。このほかにも、個別の建物で石油・電気などを利用し暖房を行っている場合、地域暖房(バイオ燃料を使用)に切り替える際には、3万クローナという上限はあるが、30%の補助金が支給される(10年12月末まで)。

このほか、補助金ではないが、税控除が受けられるものもある。例えば、戸建住宅の断熱材を増強する場合には08年12月から設置費用の50%が、また用途は省エネに限られていないが、省エネが多い住宅改修工事についても、費用の50%を所得税から控除することができる。

<政権交代で補助金充実の可能性も>
先のマルムベリィ氏によると、10年9月19日に予定されている総選挙で、現在の中道・右派連立政権から左派政権に交代した場合、省エネを推進するという政策方針に変更はないが、その目標達成のための手段が変更される可能性がある。というのは、野党左派連合は省エネの目標について、現政権よりさらに高めたい意向を持っている。また、現政権は省エネへのインセンティブとしては税控除を主体とし、むしろ、広報・啓発活動に力を入れてきたのに対し、左派が政権についていた06年までは省エネに関して補助金を支給する政策を推し進めてきたからだ。

(注)09年6月に採択済みだが、スウェーデンでは「法案」に政策の背景理由などが示されており、法案成立後も「法案(Proposition)」という名称のまま、政策指針として使われる。

(三瓶恵子)

(スウェーデン)

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