業界の自主的取り組みを推進−欧州各国の省エネルギー政策−

(オランダ)

アムステルダム発

2010年07月23日

第4次バルケネンデ連立内閣は、2007年に「クリーンで効率的:気候のための新エネルギー政策」と題する野心的な気候変動政策を発表、省エネ推進に向けて産業界の自主的取り組みを促し、成果を上げた。しかし、アフガニスタン駐留延長問題で10年2月20日に同内閣は崩壊。6月9日の総選挙を経て、現在新しい連立内閣樹立に向けて調整が進められている。今後のエネルギー・気候変動政策の展開は新内閣の成立待ちとなっている。

<GHGの90年比30%削減を掲げる>
政府は12年までに、温室効果ガス(GHG)を6%削減するという京都議定書の目標を達成する方針だ。第4次バルケネンデ連立内閣は発足当初から気候変動防止のためには京都議定書の目標では不十分という見解の下、20年へ向けてより野心的な新しい気候・エネルギー目標を設定し、エネルギーに関しては世界で最もクリーンで効率的な国になろうとしていた。

同内閣は07年9月、「クリーンで効率的:気候のための新エネルギー政策」と題した政策文書で、20年に向けての新しい目標を発表した。これはEU加盟国に対して、エネルギー効率行動計画(EEAP)の提出を義務付けた「エネルギー最終使用効率・エネルギーサービス指令(ESD)」〔Directive 2006/32/EC(PDF)〕に基づくもの。住宅・国土・環境省が中心となり、同省のほか、経済省、地域社会・市民統合省、運輸・水資源管理省、農業・自然・食品省、財務省、欧州業務省の7省が協力して策定した。

同文書では、目標として以下の3点を挙げている。

(1)20年までにGHGを90年比30%削減する(欧州全体が望ましい)。
(2)11年から20年までの間に年間平均2%のエネルギー効率改善を図る。
(3)20年までに再生可能エネルギーのシェア20%を達成する。

20年までにGHGを90年比30%削減という目標は、EUの成長戦略「欧州2020」の20%削減を上回る野心的なものだ。EUは、米国をはじめ他国の約束状況をみながら現行の20%削減から30%への引き上げを検討するとしているが、オランダが条件を付すことなく高い目標を打ち出した背景には、EUが野心的な措置をとってこそ国際交渉の中でEUがリーダーシップを発揮できるという考えがある。

<建物の省エネに税控除や補助金>
建物の省エネについては、政策文書の行動計画に基づき、政府、エネルギー会社、社会住宅公団、建設・設備会社の合同イニシアチブによる行動計画「少なく使って多くをつくる」が策定されている。同計画では、エネルギー効率を30%アップした住宅を08年から11年までの間に50万戸、さらに12年から20年の期間に240万戸増やすことを目指すとしている。具体的な措置の例は表1のとおり。

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政府は、産業界の省エネ推進に向けては、業界の自主的取り組みを促している。経済省などは08年7月1日、電気通信技術(ICT)、プラスチック、繊維、石油、養鶏業など22の業界団体と、20年までに05年比30%エネルギー効率を改善するという協定MJA3、英語ではLTA3、PDF)を結んだ。

従来から政府は業界団体、企業などと協定を結ぶことで、自主的取り組みを推進してきた。政府はLTA3締結に当たり、それまでの自主的取り組みによって年間2.1%のエネルギー効率改善を達成してきたと評価している。LTA3は、これまでの取り組みの成功を受け、より野心的な目標を掲げるもの。同協定に基づき、業界団体、企業はそれぞれ省エネ計画を策定し、経済省傘下の政府機関SenterNovem〔10年1月にエージェンシー(agentschap)に統合〕のレビューを受ける。最終的に政府と合意した計画に基づき、業界団体もしくは企業は自主的な取り組みを進めることになる。

協定に基づく自主的取り組みは、EUレベルでの政策にも取り入れられ、ESDでもエネルギー効率改善の重要な施策の1つとして位置付けられている。09年6月の欧州委員会の各国のエネルギー効率行動計画に関するレポート(PDF)によると、効率化の手法として業界団体・企業との協定を取り入れる、あるいは取り入れようとしている加盟国は14ヵ国に上る。

<ハイブリッド車の購買奨励策は成功>
最も成功している施策の1つは、ハイブリッド車の購買奨励だ。税制措置の一環として、ハイブリッド車、低燃費車に対しては乗用車登録税(BPM)と道路税を下げ、従来型の乗用車を使用する場合は税金がより高く設定された。この施策で、ハイブリッド車の市場シェアは07年の0.5%前後から09年には4%超に伸びた。09年には、トヨタとホンダが半々の割合で1万6,500台のハイブリッド車を販売した。これは欧州でも飛び抜けて高い台数だ。

具体的にどの程度の違いが出るのか、ハイブリッド車とガソリン車を比較すると以下のとおり。

○1キロ当たり二酸化炭素(CO2)排出量110グラム以下のハイブリッド車の場合
(1)販売価格〔本体2万1,850ユーロ、19%の付加価値税(VAT)込み〕2万6,000ユーロ
(2)BPM、道路税は免除

会社が従業員に、1キロ当たりCO2排出量が110グラム以下のリース車を貸与する場合には、車の販売価格の14%が所得としてみなされ、課税対象になる。平均所得税率を42%とすると、従業員は1年につき1,529ユーロ(2万6,000ユーロ×19%×42%)の追加所得税を支払う必要がある。

○1キロ当たりCO2排出量が170グラムのガソリン自動車の場合
(1)消費者価格(本体2万1,850ユーロ、BPM6,740ユーロ、19%のVAT込み)3万4,020ユーロ
(2)年間道路税は600ユーロ

会社が従業員に、1キロ当たりCO2排出量が140グラム以上のリース車を貸与する場合には、車の販売価格の25%が所得としてみなされ、課税対象になる。平均所得税率を42%として、3万4,020ユーロの車を例にとると、従業員は1年につき3,572ユーロの追加所得税を支払う必要がある。

会社貸与のハイブリッド車にかかる年間コストは、同等のガソリン車に比べると2,643ユーロ〔3,572ユーロ(ガソリン車追加所得税)+600ユーロ(道路税)−1,529ユーロ(ハイブリッド車追加所得税)〕のコスト削減となる。これに加え燃料費もハイブリッド車が当然安く、また初期費用のBPMも免除される分、コスト安となる。

<11年の目標は順調に達成との中間報告>
住宅・国土・環境省は10年4月29日、「クリーンで効率的:気候のための新エネルギー政策」プログラムの中間報告を発表した(表2参照)。

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表2によると、11年の目標は順調にすべて達成される見通しになっている。しかし、20年の目標は現在の政策を強化することなくしては、実現できない。省エネ政策を強化することができるかどうか、新内閣にとっての大きな課題だ。

(松浦宏)

(オランダ)

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