デモ過激派の激しい抵抗続く−拡大するバンコクの騒乱−

(タイ)

バンコク発

2010年05月17日

反政府団体UDD(反独裁民主戦線)の一部過激派と治安部隊の衝突で、5月14〜16日も激しい混乱が続き、衝突場所は騒乱ともいえる状態になった。一歩離れると一見通常の生活が送られているが、電車の運休、スーパーの閉店時刻繰り上げ、臨時休校、夜間の治安悪化懸念など、市民生活への影響は深刻化している。

<治安部隊が散発的に発砲>
5月13日夕方から治安当局によるデモ地域封鎖行動が始まって以降、治安部隊と、銃器や爆発物に加えバスやタイヤを炎上させて抵抗するUDD過激派との衝突が5月第3週の週末に断続的に発生した。当局発表によると、30人の死者と222人の負傷者を出す惨事となっており、17日朝の時点でも事態解決のめどは立っていない。なお、4月10日の強制排除以降の累計死者数は60人、負傷者は1,182人に上っている。

特に激しい衝突があった場所は3ヵ所で、それぞれ座り込みデモ会場より北、南東方向に離れた場所。デモ地域を封鎖するため周辺地域の制圧をしようとする治安当局の行動に対して、UDD側が実力で抵抗したかたちだ。14日夜には日本国大使館そば(デモ会場南東)、15、16日にはディンデン交差点(ラチャプラロップ通り〜ウィパワディランシット通り、同北側)、ボンガイ交差点(ラマ4世通り)とラマ4世通り高速道路入口付近(同南東)で、激しい衝突とタイヤの炎上が起きた。

特にラマ4世通り、ディンデン交差点周辺から断続的にタイヤを燃やした黒煙が上り、これがバンコクの光景かと思わず目を疑うほどだった。加えてディンデン交差点周辺では、デモ地域へ食料物資を搬送するUDDを阻止するため、治安部隊が散発的な発砲で応じた。UDD側は食料が底を突きつつあるようで、ディンデン交差点周辺のコンビニやファストフード店などに押し入ったり、デモ地域内ランスアン通りのコンビニで商品を略奪した後放火したりするなど、一部で暴徒化している。

<デモ地域で多数の住民が一時転居>
こうした動きを受け、政府は夜間外出禁止令の発令を検討したが、16日中の発令は見送られた。アヌポン・パオチンダ陸軍司令官が、発令なしでも対応できるとして反対した。なお、状況悪化の場合、発令の可能性は残っている。

政府はバンコクに限定して、政府関係機関、学校などを17、18日休みとし、バンコク在住市民には不測の事態に備えて不要不急の外出をできるだけ控えるよう呼び掛けた。日本人学校も両日は臨時休校となり、アソークのある日本人向け幼稚園も17日は休園とするなど、児童への影響も出ている。激しい衝突場所に近接するサトーン通り、ルンピニ交差点に所在する日系銀行3行の支店は一時閉鎖しているが、それぞれ設けているバックアップサイトで決済業務は継続している(金融機関自体は休みとはなっていない)。

夜間外出禁止令発令の可能性は16日午前中から報じられていたため、食料の調達を早めにしておこうとする客で同日のスーパーは混雑した。夜になると一層治安が悪化するので、従業員の安全も考慮し、スーパーなどの閉店時刻は早まっている。UDDによるテロ的な破壊活動を警戒してか、15、16日はBTS(高架鉄道)、MRT(地下鉄)の全路線が運休したため、市民生活も著しく制限された。(UDDシンパが多いとされる)タクシーの乗車にも気を付けるように、口コミなどで注意がされている。衝突場所周辺の道路も、普段の週末に比べて交通量は格段に少なかった。

デモ地域内に住む住民の一時転居も相次いだ。第1陣は強制排除観測が高まった4月末以降。第2陣は、電気・水道の供給を止めデモ地域を封鎖すると発表した5月第3週半ば以降で、多数の死傷者が発生し衝突場所も拡散してきた週末にかけて、多数の人が一時転居をしたもようだ。特に邦人が多数住むスクンビット地区へ一時転居した例が多い。

座り込みデモ地域にオフィスのあるバンコク日本人商工会議所(JCC)は5月12日から、激しい衝突現場の目の前にある日本国大使館は15日から、それぞれスクンビット地区に仮事務所を開き、限定的ながら業務を継続している。

<UDD支援者の口座を凍結>
座り込みデモ地域にある小売店やホテルなどの補償のため、政府に7億7,800万バーツ(1バーツ=約2.9円)の予算を求めるデモ被害企業の補償問題も動き出している(「バンコク・ポスト」紙5月13日)が、肝心のデモそのものが終わっておらず、その間も被害は拡大の一途だ。企業が加入している通常の損害保険では、暴動、ストライキ、テロによる損害は大半が補償の範囲外となるため、損害が回復されないのではないかという懸念も出ている(「バンコク・ポスト」紙5月17日)。

治安当局は、UDD活動を支援している106に上る関係者の口座を凍結している。タクシン元首相の家族の支配下にある13企業、同元首相とその家族、同元首相系政党に所属している政治家、UDD指導者、UDDとつながりのある軍や警察関係者などが含まれる(同)。資金面からUDDの活動を締め上げる意図で、現在行っている「兵糧攻め」と合わせ、治安当局は時間をかけてデモ終結に向けた取り組みをしているものと思われる。衝突は、チェンマイやウボンラチャタニといったUDDの影響の強い地方部にも拡大している。

(鶴岡将司)

(タイ)

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