部品調達や輸出に懸念−アイスランド火山活動の影響−

(スウェーデン)

ストックホルム発

2010年04月22日

空港閉鎖の経済的影響は今のところ、航空会社や旅行会社への直接的損害以外にはあまり出ていないが、今後は製造業の部品調達や完成品輸出などへの影響が懸念される。

4月15日22時から全国で空港が閉鎖されたが、その後北部が飛行可能となり、19日にはアーランダ(ストックホルム)空港やランドベッテル(ヨーテボリ)空港などの国際便・国内便一部が再開されるなど、徐々に運航が再開されている。国内では鉄道・長距離バス・タクシーなどの需要が一気に高まり、可能な限りの臨時便が投入されている。

<生産体制への影響を注視>
通信大手エリクソンでは多くの海外出張者が帰国できない状態が続いてきたが、インターネットや電話などによる「遠隔勤務」でしのいだという。また、部品や完成品の輸送について、同社広報担当のハルスタン氏は「現在はほとんど影響を受けていないが、空路輸送がこのままストップしているようなら生産体制を見直し、欧州での生産をほかに振り分ける必要がある。中国、インド、ブラジル工場で増産の準備をしているが、目下、状況を注意深く見守っている(「ダーゲンス・ニへーテル(DN)」紙4月21日)」と説明する。

ボルボ乗用車部門では19日時点で海外に留め置かれている出張者は50人程度だったため、それほどの影響は出なかった。しかし生産過程で通常アジアから空輸されているラジオやケーブル、トランスミッションなどの部品が不足することが懸念されている。ボルボ広報担当のエルフストローム氏は「このまま航空輸送が止まってしまうと、22日には影響が出始める。21日まではこれまでの生産ペースが維持できるが、それ以降は生産パターンを変更しなくてはいけない(「メトロテクニーク」紙4月21日)」と先行きを不安視していた。

携帯電話大手ソニー・エリクソンや製薬大手アストラゼネカはこれまで製品輸出を空輸に頼っていたが、今後、航空輸送問題が長期化するようならほかの手段を検討する。医薬品業界では短期的に製品の輸入・輸出に影響が出る恐れがある。衣料・流通大手のH&Mは「大部分の輸送を貨物と海上輸送で行っていたので、今回の影響をほとんど受けていない(DN紙)」という。このほか、短期的にはアジアやアフリカからの生花、生鮮食料品の輸入への影響が見込まれる。

また、航空輸送の停止で、南部スウェーデン・スコーネ地方のルンド大学で予定していた心臓移植手術を中止した事例が報告されている。

<金融危機並みの支援を>
スカンジナビア航空(SAS)は運航停止による損失を1日当たり5,000万〜9,000万クローナ(約6億2,500万〜11億2,500万円)と見込んでいる。同社のヨンソン社長は「噴火は航空業界の『金融危機』だ。EUとEU加盟国政府は金融危機の際と同様の支援をする必要がある(DN紙4月20日)」と政府支援を求めている。

また、今回の運航停止に対し、航空機利用の権利に関するEU規則(Regulation261/2004)に基づき、旅客は航空会社に運賃の払い戻しや延泊費などの支払いを要求する権利を認められている(2010年4月19日記事参照)。しかし、各航空会社はそれを拒むだろうとの観測も出ている。日本やフランスに留め置かれた旅行客のホテル代などの経費の多くを旅行会社が肩代わりしているが、費用回収の見込みは立っていない。複数の大手旅行会社が倒産の危機にさらされるリスクを指摘する声もある。

(三瓶恵子)

(スウェーデン)

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