新型インフルの死者数が急激に増加−民間企業の欠勤率上昇−

(アルゼンチン)

ブエノスアイレス発

2009年07月21日

国内の新型インフルエンザによる死亡者数は7月14日発表時点で137人に急増した。6月28日に議会選挙が実施され、その翌日にオカーニャ保健相が辞任、後任にトゥクマン州のフアン・マンスール副知事が就任した。政府は感染拡大を防ぐため、一部の公務員に休暇許可を発令し、各自治体も個別に学校の休校などの対策を発令している。民間企業の欠勤率も上昇しており、経済への影響が懸念される。

<選挙後に発表された公式統計で死亡者数が倍増>
新型インフルエンザによる感染者数と死亡者数が急激に増加している。議会選挙直前の6月26日に保健省が発表した公式資料によると、国内の感染者数は1,587人、死亡者数は26人だったが、6月28日の選挙後初めて発表された7月5日付統計では、感染者数は2,485人、死亡者数は60人となり、死亡者数が倍増した。さらに、7月14日付で発表された公式統計では感染者数は3,056人、死亡者数は137人だったが、「クラリン」紙(7月17日)によると、死亡者数は157人に上るという。

後任のフアン・ルイス・マンスール新保健相は、7月1日の就任直後に10億ペソ(約2億7,000万ドル)の対策予算を発表し、各州と連携しながら全国の検査・治療費用に充てることを示唆した。また、そのほかの対策として、a.全国の教育機関(大学を含む)の冬休みを前倒しして7月6日付で休校にするよう各自治体に助言、b.すべての妊婦、免疫力低下患者、腫瘍(しゅよう)患者に対する15日間の予防休職許可の発令(労働省決議471号)、c.すべての医療機関で流感患者に対応し、社会保険未加入者に対しても政府負担で治療を実施、d.全国の医療専門家と連携して、状況の監視体制と最良対策に臨む、などを発表している。

また、治療薬のタミフルについては、7月10日付で新たに10万個を輸入し、さらに輸入予定の60万個と既に流通している42万個と合わせ、全国規模で100万個以上を流通させる意向を示した。

<ブエノスアイレス市、州は休校、民間企業は自主休業>
休校に関する政府の助言を受け、各自治体は個別に対策に乗り出し、冬季休暇を前倒しした自治体の数は17に上った。最も感染者数と死亡者数が多い首都ブエノスアイレス市(7月14日付で感染者1,008人、死亡者11人)とブエノスアイレス州(同874人、69人)でも7月6日以降の休校令が出されている。

また、政府はショッピングセンターや映画館など人が混み合う場所を避けるよう助言しており、商業店舗では来客者の減少を恐れて冬季バザーを前倒しする傾向にある。7月17日時点で再開が発表された劇場も10日間の自主休業に踏み切っており、観光・娯楽業を中心に経済への影響も懸念されている。

さらに7月17日付で期限を迎えた、感染への抵抗力が弱いとされる妊婦、免疫力低下患者などへの休職許可について、労働省は公務員を対象に同措置を7日間延長する決議598号を発表したが、民間企業に対しては強制ではなく自主的に同様の措置を取るよう進言するにとどまっている。

<日本人学校も休校>
邦人社会では、ブエノスアイレス市政府の休校令を受けて、ブエノスアイレス日本人学校は7月6日から休校とし、自宅学習で対応している。また、日系進出企業では、本社から駐在員・家族向けのタミフルが配給されているものの、今後、感染者・死亡者数が増加した場合の対策に戸惑う声も聞かれる。さらに一部製造業では、工場従業員を中心に前年比で病欠を含む欠勤率が倍増している。ただし、必ずしも全員がインフルエンザ症状とはいえないようだ。

アルゼンチンでの感染者数が上昇傾向にあるのは、南米の南端で冬季を迎えているということが考えられる。同様に冬を迎えている隣国チリの感染者数も9,549人、死亡者数25人(7月14日付保健省資料)と高い水準にある。また、検査能力の高さも公式数値を高める要因として一部の専門家の間では指摘されている。

ただし、現地の印象としては、一時より空港でのマスク使用者も減り、週末の外食産業もにぎわっており、危機感はさほど感じられない。

(設楽隆裕)

(アルゼンチン)

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