金融危機により下半期は大きく減速−2008年の対中直接投資動向(8)−

(台湾)

中国北アジア課

2009年04月02日

大型投資案件の増加に伴い2008年上半期に前年同期比3割増となった対中直接投資は、世界的な金融危機の影響を受け下半期には大幅に減り、通年では1.3%減の98億4,336万ドルとなった。特に、これまで対中投資を牽引してきた「電子部品製造業」が15.4%減少した。

<件数は35%減だが金額は7%増に>
08年の台湾の対中直接投資(認可ベース)は、件数では前年比51.6%減の482件とほぼ半減した(表1参照)。ただし、5,000万ドル以上の大型投資案件が24件と前年の11件を大きく上回ったことから、金額では98億4,336万ドルと1.3%減にとどまった。上半期は、金額ベースで前年同期比31.0%増と好調に推移していたが、下半期に入って世界的な金融危機の影響を受けて大きく減速した。

なお、対中直接投資は、原則として経済部投資審議委員会へ事前申請が必要だが、08年3月10日から事後申請でも可能になった(2008年9月10日記事参照)。08年の事後許可は161件、金額では8億4,804万ドルに達しており、未許可企業の申請分を含めると、件数は前年比35.4%減の643件、金額は7.2%増の106億9,139万ドルとなる。

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<牽引役の電子部品が減少>
許可金額(事後申請案件を含む)を業種別にみると、対中投資の19.2%を占める「電子部品製造業」が20億5,200万ドルと15.4%減少した(表2参照)。08年下半期に入り、世界同時不況の影響でDRAMが供給過剰となって価格が急落し、メーカーの業績が悪化したことが原因だ。

他方、「パソコン・電子製品・光学製品製造業」(シェア16.7%)が5.6%増の17億8,300万ドル、「電力設備製造業」(シェア10.0%)が1.8%増の10億6,600万ドルとなった。また、「基本金属製造業」が40.6%増の7億2,800万ドル、「卸・小売業」が21.2%増の4億9,900万ドルと比較的好調だった。

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具体的な投資案件(表3参照)をみると、電子部品製造業では、フラッシュメモリーのパッケージングテスト大手の力成科技、ローエンド半導体パッケージ測定の日月光半導体による大型投資があった。どちらの案件も上半期に行われた。

パソコン・電子製品・光学製品製造業では、液晶パネル関連分野で奇美電子や友達光電、瀚宇彩晶の増資が目立った。景気が後退して各社とも08年第4四半期の業績は悪化したが、09年に入り、中国で始まった「家電下郷」(農村部での家電普及プロジェクト)により、テレビ需要が増加したことを受け、一部企業の受注が回復に向かいつつある。

化学材料製造業では、中国石油化学工業開発による河北渤聯石油化学工業への投資案件、卸・小売業では統一企業の増資案件があった。

また、金属製品製造業では、ノートパソコンやデジタルカメラなどのアルミ合金ケースを生産する可成科技が、08年12月に江蘇省宿遷市の工場を着工した。投資額は1億ドルと、08年下半期では最大の投資案件である。

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<上海市が広東省を抜き投資先第2位に>
投資先を省市別にみると、投資額の8割が沿海部の江蘇省、上海市、広東省、福建省、浙江省に集中している。最大の投資先である江蘇省(シェア39.6%)は前年比10.1%増だったが、これまで第2位だった広東省(シェア14.1%)は24.0%減となり、上海市(シェア15.9%)に抜かれて第3位に落ちた。

台湾事情に詳しいみずほ総合研究所アジア調査部の伊藤信悟・上席主任研究員は「賃金上昇などのコスト増に世界不況による輸出減少の影響も加わり、労働集約的な性格の強い輸出型企業を中心に、広東省向けの投資が減少している」と指摘する。こうしたことから、前述の5省市の中で、1件当たりの平均投資額は広東省が最も少なかった。

他方、上海市への投資が増加している点について、同研究員は「技術者が豊富な華東地域には、ノートパソコンや液晶モジュール、半導体など技術集約型産業の集積が依然として進んでいることに加えて、地の利と所得水準の高さを背景に、中国での国内販売を志向した投資が増加していると考えられる」という。

<今後のカギは日欧米市場の回復>
08年11月には、中国本土の対台湾窓口機関である海峡両岸関係協会の陳雲林会長と、台湾の対中窓口機関である海峡交流基金会の江丙坤会長が会談。航空チャーター便の増便、海路直航便の解禁、郵便の直接配達などについて合意し、直接、通商、通航、通信を行う「三通」が実現することになった。また、中国の内需振興政策によって恩恵を受ける台湾企業が現れるなど、台湾の対中投資にはプラス要因もみられる。加えて、今後は中国本土で台湾系銀行の支店開設を認める覚書の締結が議論される見通しで、実現すれば、台湾企業の中国本土での資金調達の改善につながるとみられる。

ただし、世界経済の回復には時間がかかるので、経営環境の大幅な改善につながるかどうかは不透明だ。いずれにしても、輸出依存度が高い台湾企業にとって、今後の対中投資は、最終輸出先である日欧米市場の動向に左右されるところが大きいといえよう。

(森詩織)

(台湾)

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