海外発トレンドレポート

シンガポールにおける医療機器市場の概要 ―診療科横断利用の備品―(シリーズ2)
(シンガポール発)

2024年2月16日

1.エグゼクティブサマリー

ここで紹介する「備品」とは、診療科横断で利用される一般的な医療機器のうち、繰り返し利用することができるものを指しており、診断機器及び外科手術器具等が含まれる。当該市場では、低侵襲ソリューションや局所治療等を可能にする新技術を利用した実績のある製品が期待されている他、外科手術領域は特に成長していることから、これらの領域に参入の余地があると考えられる。当該市場で日本企業が成功するためには、顧客に応じたニーズを理解して市場に受け入れられる製品を展開し、また規制に対応できる現地の専門家や販売代理店と提携し市場に浸透していく必要がある。

2.市場概要、トレンド

シンガポールは医療基盤が整備されていることから、一般的な診断機器等は一通り各総合病院・一般開業医等に既に揃っている。一方で、新技術を利用した治療機器や低侵襲ソリューションに関しては積極的に取り入れる文化や環境がある。販売代理店へのヒアリングによると、診療科で考えた場合、特に成長率が高いのが外科手術関連の機器となっている。その要因は、国民・住民によるニーズに加え、海外からの医療観光による患者のニーズにある。

シンガポールの医療レベルは総じて高いとされている。例えば、外科領域に関して、シンガポール国立大学病院(National University Hospital、NUH)は複雑な心臓病や整形外科治療における世界的リーダーと考えられている※1。また、シンガポールには国立がんセンター(National Cancer Center)が存在し、高度ながん治療や外科的介入、そして幹細胞治療などの新しい治療法により、がん治療の地域的な卓越センターとしての地位を確立している。私立総合病院では積極的に医療観光を促進しているところも見られる。例えばFarrer Park Hospitalは戦略的に同じ建物内にホテルを設置している※2他、海外から健康診断に来る人を意識した記述が見られる。このような施設では、最新の医療機器が導入されており、国内外から高度な治療を期待する患者が訪れている。

診断機器は、主に総合病院等に置かれるような大型診断機器(CT、MRI等)、比較的小型で各診療科や一般開業医にも置かれるような中型・小型診断機器(血圧計、パルスオキシメーター等)、小型かつ更に一般家庭にも置かれるような診断機器(体温計、血糖値測定器等)に分けて考えることができる。大型診断機器は技術サポートチームが必要となることから、主に大手メーカーが直接病院へ営業しており、また、既に各総合病院には設置されていることから、新規のニーズは低いと想定される。一方で、中型・小型診断機器に関しては、メーカーの大小を問わず、販売代理店を通じて販売されるケースが多い。また、政府の方針として在宅介護や病後の在宅療養が推奨されていることや、新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)の流行をきっかけに国民の健康への意識が高まっていることから、一般家庭にも置かれるような診断機器へのニーズが高まっていることが想定される。

3.購入者のニーズ、購入の決め手

汎用品においては安価な中国メーカー等の価格競争力が強いため、日本のメーカー等に期待されているのは新技術を伴う革新的な製品となる。そのような製品に関しては、臨床結果や販売実績等が重要視されてくる。また、特殊な機器や最新の機器に関しては、シンガポールはアジアの中でも受け入れられやすい環境があり、アジアで流通させたい時のテスト市場として向いている。

価格競争に関しては、治療に使われる高価な備品の場合、実際の効果や使い勝手、入院日数や追加で必要となってくる医薬品の量など、その医療機器の導入によって他の要素における価格が抑えられることもあることから、価格は必ずしも購入の決め手とはならない。言い換えると、トータルでの便益が重視され、メリットのあるものは受け入れられる。また、各診療科に特化した高度な診断機器・治療機器等のニッチな製品の場合は、特に臨床結果や販売実績、アフターサービスの有無が価格よりも重要視される傾向にある。

治療方法の観点では、低侵襲ソリューションがより好まれる。全身治療から局所治療にシフトする傾向もみられており、例えばがん治療において、以前は薬物療法による全身治療が主流であったが、近年は手術や放射線治療による局所療法が好まれる。また、外科手術においても侵襲性の低い内視鏡手術等が好まれる。

また、国立病院に関しては、国民が主な患者となっており、病床利用率も高いため、混雑緩和に繋がるような、すなわち短期入院で済んだり入院回数を減らしたりできるような治療法や医療機器が重宝される。

4.主要メーカー/ブランド(日本企業の競合となり得る企業/ブランド)と価格帯

販売代理店へのヒアリング及びウェブサイトの情報をもとに、シンガポールで流通している主な商品情報を整理した。なお、価格は消費者向けの販売価格であり、政府入札の単価や病院・研究施設向けの販売価格とは異なる点に留意が必要である。

図表1.国内で流通する製品と概要
製品 メーカー 商品名 特徴 価格(シンガポールドル ※GSTを含む)
血糖値測定器 EasyMax Blood Glucose Meter Starter Kit 機器本体に加え、穿刺針、センサー50個、電池、穿刺針滅菌剤、ケースが含まれる 80.64
NIPRO Premier Alpha Blood Glucose Meter Starter Pack 機器本体に加え、穿刺針、センサー50個、ケースが含まれる 76.40
血圧計 OMRON Blood Pressure Monitor HEM-7121 デジタル血圧計、カフと電池込み 121.01
MICROLIFE Blood Pressure Monitor A200 血圧を測定しながら心房細動を検出することが可能 212.95
パルスオキシメーター Laica Pulse Oximeter EA-1006 携帯用 107.91
体温計 BRAUN ThermoScan(R) 7 IRT6520 耳式体温計、独自の年齢調節可能な発熱ガイダンス技術で子供の体温測定も容易にできる 159.00
No touch + forehead thermometer BNT400 非接触式体温計 169.33
ポイントオブケア糖尿病検査装置 SIEMENS DCA Vantage(R) Analyzer 血糖コントロールと糖尿病合併症のモニタリング装置、血液中のヘモグロビンA1c、尿中の低濃度アルブミン(微量アルブミン尿)、尿中のクレアチニン、尿中のアルブミン/クレアチニン比を定量的に測定 10,000.00
CPAP(経鼻的持続陽圧呼吸療法) APEX XT Auto CPAP Machine with PVA 治療管理ソフトウェア付属、PVA圧力変動アルゴリズム搭載 1,400.00
ASSURE MEDICAL DISPOSABLES Scissors (Iris Straight With Short Blades) 手術用鋏 3.84
鉗子 ASSURE MEDICAL DISPOSABLES Forcep (Mosquito Artery) 手術用鉗子 4.50

5.当該市場で参入のチャンスがあると考えられる製品例および参入時のアドバイス

シンガポールにおいては、低侵襲性や局所治療等を実現できる、新技術を応用した機器が、特に参入のチャンスがあると考えられる。販売代理店へのヒアリングによると、日本のイメージは高品質と信頼性と考えられている。特に特殊な機能を備えた機器や、新技術を応用した機器を製造しているような日本企業には、是非シンガポールの販売代理店へ連絡して輸出を検討して欲しいとのコメントがあった。

また、各診療科に特化した高度かつニッチな診断機器・治療機器等の場合は、アフターサービスを担うようなサポート体制を持つ販売代理店とパートナーシップを組むことが重要となってくる。多くの販売代理店は得意とする診療科があり、代理店によっては診療科を限定して、より技術的なサポートをユーザーに提供している。そのため、販売する製品に合った販売代理店と組むことが必要となってくる。

更に、昨今は医療分野へのIT技術の応用も注目を浴びている。ITやAIが関連する製品(インターネットに接続し、データを外部に保管するものなど)を国立病院に販売する場合は、サイバーセキュリティの観点より、保健科学庁(Health Sciences Authority :HSA)への登録の他に非常に厳しい条件をクリアする必要があることに注意が必要である。例えば、患者のデータを保管する場合、データはシンガポール国内において保管する必要がある。このような留意点は存在するものの、一般開業医向けの備品としては、ソフトウェアベースの機器(てんかん発作検知や、服薬管理アプリ等)に将来的なニーズが見込まれており、参入のチャンスがあると考えられる。


作成
ジェトロ・シンガポール事務所
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本レポートは、日本貿易振興機構(ジェトロ)シンガポール事務所が委託先Nomura Research Institute Singapore Pte. Ltd.(NRISG)に作成委託し、2023年12月に入手した情報に基づき作成したものです。掲載した情報は作成委託先の判断によるものですが、一般的な情報・解釈がこのとおりであることを保証するものではありません。本レポートはあくまでも参考情報の提供を目的としており、提供した情報の正確性、完全性、目的適合性、最新性及び有用性の確認は、読者の責任と判断で行うものとし、ジェトロおよびNRISGは一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロおよびNRISGが係る損害の可能性を知らされていても同様とします。

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