海外発トレンドレポート

フランスにおける音楽コンテンツ市場調査
(フランス・パリ発)

2024年3月29日

1.フランス音楽市場の概況

SNEP(フランス音楽出版組合)の発表によると2023年フランスの音楽市場は前年比5.1%増の約9億6800万ユーロの売上を記録し、2017年より7年連続で増加している。売上の約62%はデジタルで、音楽パッケージ(フィジカル)の売上が前年比1.2%減になったのはコロナ禍でのロックダウン需要がなくなったゆえの傾向と推測される。また、デジタルの売上は前年比8.8%増と市場の成長をけん引した。他方、売上自体は増加しているものの、2002年の記録的な水準の53%に留まる。世界トップ10の市場と比較してフランスの音楽市場におけるデジタルの成長率は遅く市場を支えるには不十分であり、フランス音楽市場の不安材料となっている。

フランスの音楽(楽曲)市場および分野別の割合(百万ユーロ)※1

また、デジタル化が進む一方で音楽パッケージ(フィジカル)の売上も近年のレコードブームの影響もあるのか依然として全体の4分の1程度を占めている。デジタルの売上について言えば、全体としては成長しているがその成長率は当初予想されていたよりも緩やかで初めて一桁台の伸びとなった。デジタルストリーミングの収益の大半はサブスクリプションサービスによるもので、ストリーミングによる収益の4分の3以上(77%)を占め、デジタルおよびフィジカルによる収益(音楽市場総売上)の57%を占めている。広告収入によるストリーミングとビデオストリーミングサービスについては、大規模に利用されているにもかかわらず、いずれも総売上高に占める割合はわずかで、それぞれ9%に留まっている。

フランスにおける主流な音楽鑑賞方法は依然としてラジオとストリーミングで一週間の平均視聴時間はそれぞれ4時間10分と3時間55分であった。続いて、YouTubeが3時間、TikTokが1時間40分(2022年比30分増)であった。TikTokは、ショートビデオの標準長さが30秒から60秒に延長されたことにより、2023年に最も急速に成長した音楽鑑賞方法となった。特に16歳~24歳に限って言えば、ストリーミングが5時間50分(2022年比30分減)でTikTokが4時間10分(2022年比15分増)と、若者から支持されていることが分かる。

2.ライブ市場の概況

フランス文化省のSIBIL(興行発券調査システム)、CNM(フランス国立音楽センター)、およびASTP(劇場アソシエーション)の調査※2によると、フランスでは2022年に少なくとも20万回のエンターテインメント公演(そのうち、音楽ライブでは約47,000回)が行われ、5,300万人以上の観客が集まり、総額で17億ユーロ以上の興行収入が発生した。これにはすべての舞台芸術、音楽ライブ、演劇、ミュージカル、ダンスなど、さまざまな分野にわたるものが含まれる。観客数や収益はそれぞれ異なるが、総観客数の51%が音楽ライブで、その収益は10億ユーロにのぼる。

音楽ライブの特長としては、比較的多くの観客を集める公演が多いことである。1,500人~6,000人の観客を集める公演は、音楽ライブ全体の5%でありながら、その収益の26%を生み出している。一方、6,000人以上を集客する公演(フェスティバル等が640あり、そのうち約50が3万人以上の集客)は、音楽ライブ全体におけるチケット売上の33%を占めており、また音楽ライブ全体収益の49%を生み出している。

3.欧米の音楽ビジネスの特長

一般的に欧米の音楽ビジネスと日本の音楽ビジネスの違いの一つに、シンクロ収入の金額が挙げられる。CMやドラマ、映画などに音楽が起用され使用料が入るシンクロは、フランスでも音楽出版ビジネスにおける最重要要素である。音楽出版社は自社のアーティストをCMやドラマ、映画などに音楽を提案するミュージック・スーパーバイザーにどう売り込み収入を高めていくかに注力しており、アーティストの重要な収入源ともなっている。

コンサートビジネスもまた日本と欧米とでは全般的に異なる。アーティストが様々なホールやフェスティバルにブッキングをしてもらう役割を、欧米ではブッキング・エージェントが担っている。それぞれのエージェントが得意なジャンルを持ち、インディーズ系に強いエージェントやメジャー・アーティストばかりを扱うエージェントなど、ブッキング・エージェントにも様々なタイプがある。日本からヨーロッパ、フランスに進出しようとする際には、まずは適切なブッキング・エージェントを見つけることが重要となり、アーティストに合ったブッキング・エージェントを見つけることができればフランス展開の確実な足掛かりとなり得る。

4.フランス展開のポイント

2023年には、コロナ禍以来実現していなかったヨーロッパで評価の高い日本アーティストのヨーロッパ・ツアーがいくつか実現している。具体的には、BABY METAL、ONE OK ROCK、MAN WITH A MISSION、きゃりーぱみゅぱみゅなどである。彼らはパリではオランピア劇場(L’Olympia)※3、エリゼ・モンマルトル(L’Élysée Montmartre)※4、ラ・シガール(La Cigale)※5、キャバレ・ソヴァージュ(Le Cabaret Sauvage)※6など1,000人を超えるキャパシティのホールでライブを行い、チケットが完売した公演もあった。これらのアーティストはすでにヨーロッパで大規模フェスティバルに出演したり、ヨーロッパ・ツアーを行ったりするなど、ヨーロッパで一定のファンを獲得したアーティストであり、上記のフランス文化省のレポートの上位5%の高収益を上げる公演に当たるアーティストである。

オランピア劇場の外観(執筆者撮影)

このようなアーティストは比較的ヨーロッパ・ツアーやフェスティバルの出演を果たす可能性が高くなるが、このようにヨーロッパで一定の評価を得ていないアーティストでもヨーロッパ市場での可能性があることが、バイヤーへのヒアリングで分かった。先述のCNMでは、「日仏音楽コラボレーションのための助成プログラム(ロック・ポップス・ジャズ)」※7が組まれている。

フランスのアーティストとコラボレーションをすることによって、フランスでの市場進出の扉が開かれる可能性があるのだ。この助成は、楽曲制作や一緒にツアーを回るなどのライブでの共演でも使用可能だが、楽曲上でリミックスやフィーチャリング、共同制作などでも使用可能である。そのため、まずは楽曲上でリミックスやフィーチャリング、共同制作などで客演し合った上で次のステップとしてライブで客演することがより効果的である。楽曲がフランス市場において現地アーティストの知名度を活用してリリースされることにより、まずはフランスの音楽市場に足掛かりを作ることができる。その上で、ライブで客演をすることで、実際にファンの獲得に繋がりやすいというのが多くのバイヤーの意見であった。また、そのような手段を取ることは、日本の市場に興味を持つことの多いフランスのアーティストにとっても日本市場への参入機会となり、双方向での文化交流や輸出促進にも繋がると言える。相互に利益を得られる可能性が高いということは、日本市場に興味を持つが未だ進出できていないフランスの人気アーティストとのコラボレーションが実現する可能性も高くなるということである。そうすることにより、人気アーティストのPR力を活用してフランスでのプロモーションもより充実したものになることが見込まれ、日本人アーティストの成果にも繋がりやすい。ファン心理はフランスでも同じであり、彼らがアーティストを全般的にサポートするところまでアーティストを成長させられれば、先述した日本人アーティストのように長期的にキャリアを形成できる。コンサートでは特典付きのVIPチケット、物販(特に日本人アーティスト独特の凝ったグッズ)なども大きな収入源となるので、商業的にも継続性が見込める。

また、バイヤー自身も日本に行ってみたいと望む声が多く、バイヤーを日本に招聘しミーティングを行うことやアーティストのライブを実際に見てもらうなども機会があればより良いきっかけになると言える。

5.その他の展開の可能性および今後の展望

日本の音楽コンテンツや日本人アーティストの海外展開の方法としては、上記の他にも日本でも名前の知られている海外マーケット兼ショウケースフェスティバルに参加するのも一つの手段である。有名なもので言えば、米国のSXSW※8(サウス・バイ・サウス・ウェスト)や英国のTHE GREAT ESCAPE※9などが挙げられる。その他、ヨーロッパでは小規模だが、それゆえに来場しているバイヤーの目により触れやすいショウケースフェスティバルもある。例えば、フランスからも多くのバイヤーが訪れるベルギーのFafty Lab※10がその一つである。

ベルギーの首都ブリュッセルで行われるこのイベントは、中心街に位置する大小3~4カ所のライブハウスホールを使って3日間にわたって行われる。ベルギーの公的助成金を受けていることもあり、ベルギーのバイヤーに限らず海外からもバイヤーを積極的に招待している。出演アーティスト数は60あまりの小規模なイベントであるため、バイヤーはほとんどのアーティストのライブを目にすることができる。フランスやベルギーにおけるブッキングの関係者らが一堂に会することもあり、同関係者間における口コミ効果によってアーティストの情報が広まっていくことも期待できる。このように、様々な機会に様々な形でフランスを始め、ヨーロッパにおける市場開拓にチャレンジすることは可能であり、日本アーティストの海外展開に向けてあらゆるチャンスを生かした積極的な取り組みを期待する。

※8
SXSW外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
※9
THE GREAT ESCAPE外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
※10
Fafty Lab外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

Fifty Labキービジュアル(公式サイト)およびライブ風景(ジェトロ撮影)


作成
ジェトロ・パリ事務所
レポートの利用についての注意・免責事項
本レポートは、日本貿易振興機構(ジェトロ)パリ事務所がジェトロ・中小企業海外展開現地支援プラットフォームコーディネーター山田蓉子氏に作成委託し、2024年3月に入手した情報に基づき作成したものです。掲載した情報は作成委託先の判断によるものですが、一般的な情報・解釈がこのとおりであることを保証するものではありません。本レポートはあくまでも参考情報の提供を目的としており、提供した情報の正確性、完全性、目的適合性、最新性及び有用性の確認は、読者の責任と判断で行うものとし、ジェトロおよび山田蓉子は一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロおよび山田蓉子が係る損害の可能性を知らされていても同様とします。

アンケートにご協力ください

ジェトロでは、皆様の海外ビジネス展開のご参考とするべく、各国のニーズ・トレンド情報を収集しています。今後の参考のため、以下のアンケートへご協力頂けましたら幸いです。

お問い合わせ

本レポートに関するお問い合わせは以下のフォームよりお願いします。
担当:海外展開支援部戦略企画課(個別支援班)