海外発トレンドレポート

シンガポールにおける医療機器市場の概要 ―診療科横断利用の消耗品―(シリーズ3)
(シンガポール発)

2024年2月16日

1.エグゼクティブサマリー

ここで紹介する「消耗品」とは、診療科横断で利用される一般的な医療機器のうち、原則使い捨てとなるものを指しており、創傷ケア、注射器・注射針、各種使い捨てのチューブ等が含まれる。当該市場は一般的に価格競争が激しく、近年、中国や東南アジアからの製品の質が向上している。当該市場で日本企業が成功するためには、持続可能性等の国際的かつ分野横断的なトレンドを理解しつつ、質や機能性、技術で勝てるニッチな分野を探していくことが鍵となる。

2.市場概要、トレンド

シンガポールは医療基盤が長年整備されていることにより、全体的に成熟した市場であると言える。また、一般的な消耗品に関しては、国立病院においては政府による共同購入制度により価格が抑えられていることや、民間でも中国や東南アジアから十分な質の安価な製品が入ってきていることから、価格競争はかなり厳しい状況となっている。

医療分野に限らず、シンガポールを始めとするASEAN各国でも持続可能性や環境への配慮が徐々に浸透してきているが、医療分野においては環境対策に関する具体的な規制や施策は現状導入されていない。販売代理店へのヒアリングによると、政府の動向が変化したり、この課題に対する解決策となるような革新的な製品やサービスが開発された場合、市場のトレンドが変わる可能性もあると考えられているが、具体的な動きはまだ見られていない。

市場規模に関しては、人口に比例して周辺諸国と比べても非常に小さい。よって、大口の顧客は一部の汎用品における政府の共同購入スキームのみとなっている。

3.購入者のニーズ、購入の決め手

消耗品を取り扱う販売代理店へのヒアリングによると、多くの消耗品は、価格が重要視されている。消耗品の売上の大部分が国立病院や公的な介護施設等の政府関連施設によるものである。具体的な落札結果は公表されていないが、政府調達において、持続可能性等が重要視されている様子は見られない。

また、政府の方針として、主に施設の混雑を緩和するために、在宅介護や病後の在宅療養が推奨されている。このことから、家庭向けの介護用品やリハビリ器具、創傷ケア製品等の販売増も消耗品のトレンドの一つとなっている。また、新型コロナウイルス感染症の流行を経て、国民の健康に対する意識が高まったことから、規制が緩和された現在でもマスクを中心に風邪予防に繋がる製品が売れている。このように、以前はB2Bの成長が著しかったが、ここ最近ではB2C向けの製品の売れ行きが回復してきている。

4.主要メーカー/ブランド(日本企業の競合となり得る企業/ブランド)と価格帯

販売代理店へのヒアリング及びウェブサイトの情報をもとに、シンガポールで流通している主な製品情報を整理した。なお、価格は2024年1月時点の消費者向けの販売価格であり、政府入札の単価や病院・研究施設向けの販売価格とは異なる点に留意が必要である。

図表1.国内で流通する製品と概要
製品 メーカー 商品名 特徴 価格(シンガポールドル ※GSTを含む)
ドレッシング材 CONVATEC Duoderm, CGF Hydrocolloid Dressing, 10cm X 10cm 肉芽形成を促進する、滲出性創傷の管理用の付着性ドレッシング、1枚入り 10.40
SMITH & NEPHEW Melolin Absorbent Dressings 軽度から中等度の滲出液を伴うさまざまな創傷に適する、1枚入り 1.10
ガーゼ ASSURE MEDICAL DISPOSABLES Non-Sterile Gauze 10cm X 10cm (8-ply) 非滅菌ガーゼ、100枚入り 7.37
サージカルテープ 3M Micropore Surgical Tape, 1/2-Inch X 9.1m, 3M-1530-0 特になし 0.80
注射器(針無し) NIPRO Syringes Without Needle Luer Lock 5cc 滅菌済、個包装、1つ入り 0.40
注射針 NIPRO Hypodermic Needles, 21Gx1.1/2-Inch, 100 Pcs/Box 特になし 12.21
サージカルマスク ASSURE MEDICAL DISPOSABLES ASSURE Surgical Mask (3-Ply Earloop, Disposable, 50 Pcs/Box) >99% BFE & PFE 9.70

5.当該市場で参入のチャンスがあると考えられる製品例および参入時のアドバイス

多くの一般的な消耗品に関しては、中国メーカーや東南アジア製品にも勝てるような価格競争力が無い場合は参入が厳しいと言える。その中で、価格を超えて質や機能性が重要視されるような製品であれば、参入の可能性も残されている。例として、注射針に関しては、低侵襲性を確保するために細ければ細いほど良いものの、針が詰まってしまうと採血や投薬がうまくいかないなど精密性が必要であることから、より安価な代替品は存在するものの、質の高い日本のブランドが好まれている。

また、シンガポールは有望なマーケットではあるが、市場規模は他国と比べると小さい。現地販売代理店によると、特に一般的な消耗品等で期待される大ロットでのオーダーはあまり期待できず、特徴的な機能をもつ高付加価値商品を小ロットで販売する方が向いているマーケットであると言える。

このように、一般的には価格競争力が無いと厳しいが、日系スーパーやオンラインショップにおいてデザイン性や機能性の高い日本のマスクが売れている等、ハイエンドのB2Cセグメントにおいては日本製品へのニーズも存在する。また、美容に関する消耗品は日本製の人気が高く、一部日系のドラッグストアも進出していることから、美容と健康を合わせて現地でマーケティングを行うことによる参入の可能性も考えられる。


作成
ジェトロ・シンガポール事務所
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本レポートは、日本貿易振興機構(ジェトロ)シンガポール事務所が委託先Nomura Research Institute Singapore Pte. Ltd.(NRISG)に作成委託し、2023年12月に入手した情報に基づき作成したものです。掲載した情報は作成委託先の判断によるものですが、一般的な情報・解釈がこのとおりであることを保証するものではありません。本レポートはあくまでも参考情報の提供を目的としており、提供した情報の正確性、完全性、目的適合性、最新性及び有用性の確認は、読者の責任と判断で行うものとし、ジェトロおよびNRISGは一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロおよびNRISGが係る損害の可能性を知らされていても同様とします。

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