海外発トレンドレポート

パンデミックを乗り越え活気が戻ってきた展示会場(米国のデザイン・日用品分野最新トレンドシリーズ(2))
(米国・NY発)

2023年2月14日

デザイン・日用品分野において、米国国内の人気の展示会や、2023年2月にニューヨーク市内で行われた冬の展示会視察の様子を伝える。「BtoB」プラットフォームの情報や、ブースのディスプレイやトレンドについても、展示会視察後のバイヤーにヒヤリングを行った。写真と共に解説する。

インタビューを行ったバイヤー4名
  • M氏
    マサチューセッツ州ボストン市、ハーバード大学近郊で、クラシックテイストのギフトアイテムを中心に、デザイン・日用品を扱うショップのマネージャー兼バイヤー

  • S氏
    ニューヨーク市ブルックリンの人気地区、ウィリアムズバーグで、女性的なテイストを中心としたライフスタイルグッズとファッション雑貨を販売するショップを12年経営している。

  • Y氏
    日本に本社がある、ポップなテイストの自社製品の文具と生活雑貨を中心に扱うブランドの米国責任者。ロサンゼルスとブルックリンでの小売店経営と欧米への卸売を行っている。ブランドとしてニューヨークの展示会NY NOWにも出展。

  • C氏
    2016年、マンハッタンでホーム&ライフスタイルグッズのショップをスタート。デザイン美学、品質、機能性に基づいたキュレーションに定評があり、毎日使う道具、旅を通して発見した季節感のあるグッズが揃う。客層は20代から60代までと幅広く、クリエイターやユニークなアイテムを探している人が多い。自社ブランドの他、現在の売れ筋は、靴下、ビーニー、ハンドウォーマー、お香、キャンドル(キャンドル以外はすべて日本製)などがある。

以下に、人気の3展示会を紹介する。

SHOPPE OBJECT外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
SHOPPE OBJECT (ショップ・オブジェクト)は、2018年からスタートしたニューヨークのホーム&ギフトの展示会。半年に一度(2月と8月)開催されており、洗練された雰囲気の中、トレンド性の高いブランドやメーカーを招集している。マンネリ化していたギフト市場の展示会の殻を破る、革新的なトレードショーとしても人気がある。2018年のスタート時は会場も小さく、出展者も数十社だったが、2023年2月の冬のショーの出展者数は500社以上に上った。SHOPPE OBJECTはミレニアルズやジェネレーションZを強く意識した次世代展示会とも呼ばれており、2020年のショーからは展示会のほかに、Shoppe Online というデジタルショーもほぼ同時開催。BtoBプラットフォーム機能も備えており、ハイブリッドなショーという点でも評されている。入場は無料で、同時期に開催されるNY NOWの会場へのシャトルバスも1時間に1本運行されている。

資料: SHOPPE OBJECTサイト

NY NOW外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
NY NOW(ニューヨーク・ナウ)は、全米最大の出展者数を誇っていた旧New York International Gift Showの頃から数えると約90年の歴史があるライフスタイル・ギフトの見本市。ダイニング&キッチン用品、玩具、文具、服飾雑貨、テキスタイルなどで分類され、様々な商品やブランドが出展。SHOPPE OBJECTの出現で、以前ほどの勢いはなくなったが、SHOPPE OBJECTでは見つけられないジェネラルギフトのベンダーの出展があり、現在はそれがこの展示会の魅力にもなっている。2023年冬の展示会では、SHOPPE OBJECTとNY NOW両方に出かけるバイヤーも多く見られた。

資料:NY NOW サイト

Atlanta Market外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
現在、Atlanta Market(アトランタ・マーケット)のカテゴリーは、インテリア雑貨、照明、テキスタイル、家具、ラグ、ギフト、文具、ベビー用品、ガーデン、アパレル&アクセサリーの他に、アンティークがある。アウトドアのインテリアやグッズは全米一の数を誇る。会場は3棟51階建てのビルで、ビル内に常設のショールームを持つブランドも多く、展示会の期間は、全米各州と60カ国以上から小売業者やデザイナーが集まってくる。ニューヨークのトレードショーに出展していないベンダーも多く、それがこのトレードショーの魅力となっている。

資料:Atlanta Market

バイヤーの声
  • M氏
    パンデミック前までは長年NY NOWに行っていたが、今は時間に余裕がある時だけ行き、一つの展示会しか行くことができない時はSHOPPE OBJECTを選択している。規模が大きくなってしまったとはいえ、NY NOWと比べて、会場が小さくて歩きやすいのと、トレンディなベンダーをチェックできるのがSHOPPE OBJECTを選択する理由である。

    以前の勤務先では、冬のアトランタの展示会にも出かけていた。そのショップのオーナーは今もニューヨークとアトランタの展示会に行っている。アトランタの展示会の魅力は、ニューヨークに出展しないベンダーも多い点が挙げられる。冬にも行く理由は、ホリデーシーズンの新商品を一足先に買い付けるため。

  • S氏
    COVID以前は、毎シーズン、トレードショーに足を運んでいた。ニューヨークだけでなくアトランタにも行って、いろいろなものを見つけていた。パンデミックで足が遠のいていたが、2023年からショーを見に行くルーティーンに戻ることにした。NY NOWとSHOPPE OBJECTの両方に出かける。SHOPPE OBJECTは、キュレーションされたショーなので、トレンディーでおしゃれな製品を見つけられるが、他のショップも同じ製品を扱う可能性が高い。NY NOWは以前と比べて規模は縮小したが、その分歩きやすくなり、ジェネラルなベンダーの中から独自の視点で新しいベンダーを探すことができる。本来、バイヤーの苦労はそうした中から実り(新商品)を見つけることだと思っている。ニューヨークのトレードショーに出展していないブランドもあるので、アトランタのショーにも行ってみたい。

  • C氏
    2月と8月の展示会(NY NOWやSHOPPE OBJECT)に参加している。パリのメゾンオブジェにも行きたいと思っている。

  • Y氏
    NY NOWに出展している。自社のBtoBサイトで卸売りをしていて好評だが、大手客先のバイヤーとは展示会で出会う確率が高い。SHOPPE OBJECTよりもバイヤーの年齢層、ショップのテイストが幅広いという理由でNY NOWを選んでいる。

展示会の各ブースのディスプレイをバイヤーの視点から検証

2023年2月の展示会場のブースのディスプレイを通して、日本企業が展示会に出展する際のブースのディスプレイついて、最新のアドバイスをバイヤーにヒヤリングした。

ブースのディスプレイに欠かせないもの

ブランドの世界観や使用感がわかるイメージ画像を展示する

M氏

商品を並べるだけでなく、ブランドの世界観やバックグラウンドがわかるようなイメージを拡大して壁に貼るなど、目に留まりやすくしてほしい。アクセサリー等、サイズが小さいものも拡大した写真が壁にあると良い。米国で通常使わないような日本独特の製品は、使用中の写真を見て、使い方を知りたい。バイヤーはブースを通る瞬間に興味のある・無しを判断するので、特に海外からの出展者は、ひと目でわかる、印象的なディスプレイを心掛けてほしい。例えば日本の手ぬぐいや風呂敷を例に挙げると、色やパターンには惹かれるが、使い方となると、首に巻くくらいしか思いつかない。写真でもいいので、展示会で実際の使い方を会場で紹介してもらえると、イメージが膨らんでオーダーに対して積極的になれる。

商品のイメージ写真を大きく引き伸ばしたり、小さい商品の拡大写真を展示してバイヤーに商品の詳細をアピールしていたブース(筆者撮影)。

(左)バッグのブランドはモノクロで使用中のイメージ写真を展示(筆者撮影)。
(右)製作者の顔写真や製作中の様子のイメージを商品と共に展示していたブース(筆者撮影)。

両ブース共に、イメージ写真とブランドのコンセプトを壁面に表示していた。(筆者撮影)

フェルトや皮を台紙に使って、アクセサリーやキーホルダーといった小さな商品を大きく見せる工夫が感じられたブース。(筆者撮影)

(左)ペンの出展では、商品の拡大写真を使ってバイヤーをブースに引き寄せる工夫が見られた。
(右)グリーティングカードとキャンドルのブースは、カラフルな造花を大胆に飾ってバイヤーの目を引き寄せていた。(筆者撮影)

ブース内の展示品のボリューム

色・柄・サイズ違いをわかりやすく表示して、展示数は多い方が良い。

S氏

基本的に、一社のブースの品揃えが豊富であればあるほど、バイヤーにとってミニマムオーダー数に達しやすくなり、注文をする可能性が高くなる。サイズ、色、柄違いもサンプルが見たい。ブースには、サイズ別の価格などが即答できる、商品の知識をしっかり持っている人にいてほしい。

物量の多い展示ブース。会場でオーダーすることが多い米国のバイヤーに取っては、商品セレクトがしやすい見応えがある実用的なブースは人気がある。(筆者撮影)

BtoB プラットフォーム

バイヤーが推薦するBtoB プラットフォームとその理由を紹介する。

FAIRE外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
独立系小売店向け仕入れBtoBマーケットプレイスとして、2017年にサンフランシスコで創業し、急成長を遂げている。ブランドは単一のプラットフォームで新規、既存顧客の受発注を管理できる。小売店はFaireを利用することで、無料返品、60日間の支払いサイト、配送料の優遇などのメリットを得ることができる。2023年2月時点で展開しているのは北米、ヨーロッパ、オーストラリアのみで、残念ながら日本は対応国には入っていない。

資料: Faire

バイヤーの声
  • S氏
    パンデミックを通して、直接手に取らなくてもオーダーをすることに慣れ、BtoBプラットフォームでは特にFaireをよく活用している。私にとってはサイトのリサーチは苦ではないし、特にオーダーと支払いが簡単で安全な点が大変気に入っている。年に2回、展示会と同時期に期間限定でサイト全体のセール(オーダー金額に合わせて最大20%オフ)のサービスがある点もバイヤーにとっては大変魅力的だ。日本のブランドもいつか是非Faireに参加してほしい。

  • C氏
    Faireでは、数点、主にグリーティングカードを注文している。便利だとは思うが、既にその商品に精通しており、サイズや質感などがサンプルを直接確認しなくても、これまでの経験から想像ができる商品の場合にのみ利用することにしている。

Faire出展業者の声
Faireを通してビジネスを広げているソックスのブランドに内容を検証
Faireはプラットフォーム自体の使用料はかからず、最初のオーダーに25%、2回目以降は15%のコミッション(手数料)を取る。既にコンタクトのある取引先には、ダイレクトリンクを送付できて、その場合はコミッションは発生しない。以前SHOPPE OBJECTのプラットフォームも使っていたが、使用料が高いので、オーダーが少ない場合、負担になった。その点Faireはコミッション制なので、リスクが低い。プラットフォーム内でのプロモーションはほぼできないが、割と新規のアクセスがある。またオンラインストアのシステム(Shopify)と簡単にリンクできるので、商品登録の手間がなく、在庫も反映される点が大変便利だ。決済も事前に済んでいるので、売上回収面でも安心。Faire主催のセール期間は、Faireが5%OFF分負担してくれるが、残りはベンダーが負担する。セール期間外は、自分たちで自主的にセールが行える(設定金額やディスカウント%は自由に設定)。

まとめ

2023年冬の展示会場の視察を通して、バイヤーの活動が前年よりも活発になり、展示会にも以前の活気が戻ってきた様子が見受けられたが、主催者からも同様の声を聞いた。また会場にいた数名のバイヤーからは、「パンデミック中は会場回りを控えていたが、今年からは各展示会での買い付けに戻りたい」という声も聞かれた。特にSHOPPE OBJECTでは、カラフルなデザイン・日用品のブースが目を引いた。ジェネラルなギフト・日用品のブランドも出展するNY NOWでも、SHOPPE OBJECTほどではなかったが、やはり色彩で目立つブースがバイヤーの目を引いていたように思う。人気度で言えばSHOPPE OBJECTの方が人出は多かったが、インタビューしたバイヤーのコメントにもあったように、NY NOWはジェネラルなベンダーの中から新しいベンダーを発掘する面白さがある。筆者もかつてマンハッタンの大手ショップのバイイングでヘッドバイヤーと一緒に展示会を回った経験があるが、人気が集中するトレンディーなベンダーだけでなく、ジェネラルギフトのベンダーの中から、他店にはない新商品を発掘して、他店と差別化を図っていた。バイヤーはSHOPPE OBJECTではトレンドを、NY NOWでは既存のブランドの新商品チェックと他店での取り扱いがないベンダーを発掘というように、今後も展示会を使い分け、両方に足を運ぶように思う。Atlanta Marketも同じような観点でニューヨークからバイヤーが足を運ぶ展示会となっている。徐々に利用バイヤーが多くなっているBtoBプラットフォームでは、ベンダー側にとっても売上回収面で安心なことから、今後更にベンダー、バイヤー共に利用者が増えていくものと思われる。


作成
ジェトロ・ニューヨーク事務所
執筆
中小企業海外展開現地支援プラットフォームコーディネーター 上野朝子
レポートの利用についての注意・免責事項
本レポートは、日本貿易振興機構(ジェトロ)ニューヨーク事務所が委託先 上野朝子 に作成委託し、2023 年 2 月に入手した情報に基づき作成したものです。掲載した情報は作成委託先の判断によるものですが、一般的な情報・解釈がこのとおりであることを保証するものではありません。本レポートはあくまでも参考情報の提供を目的としており、提供した情報の正確性、完全性、目的適合性、最新性及び有用性の確認は、読者の責任と判断で行うものとし、ジェトロおよび 上野朝子 は一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロおよび 上野朝子 が係る損害の可能性を知らされていても同様とします。

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