海外発トレンドレポート
シンガポールにおける高齢者向けモビリティ関連製品市場の概要(シリーズ2)
(シンガポール発)
2023年3月13日
1. エグゼクティブサマリー
モビリティ関連製品とは、杖や車椅子、電動スクーター等、高齢者の移動を支援する製品を指す。シンガポールの高齢者向けモビリティ市場は拡大している。当該市場は、価格の安さだけではなく特長ある製品が受け入れられるため、日本企業の製品が浸透する可能性がある。現状においても高い認知度を持ち、受け入れられている日本製品が存在する。当該市場で日本企業が成功するためには、顧客のニーズを理解して市場に受け入れられる製品を展開し、また販路を持った現地の販売代理店と提携し市場に浸透していくことが鍵となる。
2. 市場概要
シンガポールのモビリティ市場は、高齢化社会の到来及び政府の高齢者支援により大きく成長している。多くの高齢者は節約志向が強く、安価な商品を好む傾向があるものの、モビリティ製品については、長期にわたり使用することを想定し、丈夫で快適性の高い商品を選択する傾向がある。そのため、高品質で信頼性が高い一方、高価と考えられている日本製品についても一定の地位を築いている。例えば、MiKiブランドの車椅子は、古くからシンガポール市場に信頼できるブランドとして浸透し高い認知度を有している。また、ヤマハ製の電動スクーターや日本製の車椅子用階段昇降機もシンガポールで認知を得ている。
一方で、シンガポールの人口は約600万人であり、高齢者数も100万人に満たないため、多くのメーカーは自社拠点や営業人員はおかず、販売代理店を通じて製品を販売している。シンガポールで高齢者向けモビリティ製品を取り扱う主な販売代理店は、Pharmex Healthcare、Assisted Living、Agis Mobility、Rehab Mart、Rainbow Care、Alphamed、DNR Wheels、Easy Wheel Services & Trading、Progress Healthcare、Zaoなどである。
3. 製品ニーズ
モビリティ製品カテゴリにおける主な製品は、杖、車椅子、移動用スクーターである。前述のとおり、モビリティ製品は長期的に使用するものであるため、一定の投資をする価値があると考えている高齢者もしくは高齢者家族が多い。モビリティ製品を取り扱う販売代理店へのヒアリングによると、人により重視する機能や特徴は異なるものの、以下製品の機能や特徴は多くのシンガポール人に支持されている。
製品 | 好まれる機能・特徴 |
---|---|
1. 杖 | 多機能性。例えば、傘と歩行補助機能を持った傘型杖が好まれる。また、ライトや転倒検知機能が付いた杖もニーズがある |
2. 車椅子 | 品質(使用材料の耐久性など)、軽量性、取り外し可能な肘掛けと足置き、リクライニング可能な背もたれ、ネックサポート、シートベルト、転倒防止機能、アシストブレーキ等 |
3. 移動用(電動)スクーター | 品質(耐久性のある素材)、アフターサービス、速度(規定速度の時速10kmが出ること)、長距離・長時間走行、コンパクトなサイズ |
4. その他モビリティ製品 | 歩行支援ロボットをはじめとする尖った特徴を有する製品は、病院での導入はあるものの、高価なため個人による購入はない |
4. 国内で流通する製品
販売代理店へのヒアリング及びウェブサイトの情報をもとに、シンガポールで流通している主な商品情報を整理した。なお、価格は消費者向けの販売価格であり、政府入札の単価や病院・介護施設向けの販売価格とは異なる点に留意が必要である。
メーカー | 商品名 | 特徴 | 価格 (SGD) | |
---|---|---|---|---|
杖 | Assure | ASSURE REHAB 4本脚 |
|
19.10 |
Rainbow Care | FS9208L歩行杖 |
|
27.00 | |
GE Gracefully | GE GRACEFULLY スマート折り畳み杖(手動アラーム付き) |
|
64.10 | |
車椅子 | ASSURE REHAB | ASSURE REHAB スタンダードクロム製車椅子 |
|
178.70 |
Rainbow Care | KY908 脱着式車椅子 |
|
300.00 | |
Miki | Mikiスタンダード車椅子(折り畳み・アシストブレーキ付き) |
|
480.00 | |
電動スクーター | Drive Medical | Phoenix HD 3-Wheelポータブルスクーター |
|
2,100.00 |
Zinger | Zinger 電動車椅子 |
|
2,400.00 |
5. 政府支援・助成プログラム
シンガポール政府は、高齢者の在宅での生活を支援する制度「Senior Mobility and Enabling Fund※1」を通じて、在宅高齢者に対し移動補助具費用の最大90%を補助金として支給している※2。政府支援も手伝い、比較的高額な電動スクーターを含めたモビリティ製品の購入にドライブがかかり、市場拡大を支えている。
6. 参入検討に際しての留意点
販売代理店へのヒアリングの中で、日本製品の中には現地のニーズを外しているものがあると指摘があった。例えば、日系メーカーの電動スクーターは、全般的にシンガポールで普及しているスクーターよりもサイズが大きく、国民の約8割が住む公団住宅(HDB)の廊下やエレベーターで利用できないケースがある。そのような製品はシンガポール市場での需要が期待できない。また、日系電動スクーターの取り扱いを検討したある販売代理店は、同社製品がオーバースペックであり(高価且つ高頻度で交換が必要になる高摩擦ホイールの利用等)シンガポールにおいて許容される価格ではなかったとコメントした。シンガポールに限ったことではないが、市場への参入や商品展開を検討する際には、製品が市場に受け入れられる可能性を見極めることが重要になる。
- 作成
- ジェトロ・シンガポール事務所
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- 本レポートは、日本貿易振興機構(ジェトロ)シンガポール事務所が委託先Nomura Research Institute Singapore Pte. Ltd.(NRISG)に作成委託し、2023年2月に入手した情報に基づき作成したものです。掲載した情報は作成委託先の判断によるものですが、一般的な情報・解釈がこのとおりであることを保証するものではありません。本レポートはあくまでも参考情報の提供を目的としており、提供した情報の正確性、完全性、目的適合性、最新性及び有用性の確認は、読者の責任と判断で行うものとし、ジェトロおよびNRISGは一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロおよびNRISGが係る損害の可能性を知らされていても同様とします。
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