海外発トレンドレポート

米国トレンド企業2社から見た マンガ、ゲーム業界の展望
(米国・サンフランシスコ発)

2023年3月10日

ゲーム、アニメ、マンガなどの日本発のコンテンツは、以前から米国で人気があったが、近年の成長は実に顕著である。また、最近では日本のドラマもその勢いに加わっている。統計調査会社のパロットアナリティクスによると、2021年の米国における外国語コンテンツのシェアは日本が最大で41.2%を占めている。そのニーズ拡大の大きな要因として、日本アニメへの関心の高まりがある。それが、マンガという日本文化の普及に繋がっている。

本レポートでは、マンガとゲームという2つの分野に焦点を当て、米国でのトレンドを解説する。さらに、日本のコンテンツを求めている当地大手コンテンツ配信会社2社を紹介し、その会社との協業について述べていく。

米国におけるマンガ

メディアニュースサイトICv2によると、2021年の米国におけるマンガの売上は2,000万冊、年成長率は約160%に達している。米国での書籍販売情報を提供するNPD ブックスキャンの調査では、2021年の大人向けグラフィックノーベル売上に占めるマンガの割合は76.71%で、アメリカン・コミックス(アメコミ)の割合をはるかに上回っている。米国でマンガを販売する日米の出版社はすべて著しい成長を遂げているのである。後半で詳しく紹介するハンブルバンドルの書籍ビジネス開発ディレクターであるダラス・ミドー氏は、「米国人のマンガへの関心は過去20年間で最も高い。日本のアニメコンテンツが増加し、配信の機会が増えたことが要因の一つであり、米国にアニメ関連の大きな市場が存在することを意味している」と述べている。現在、米国では第2次マンガブーム が到来している。同じく後半で詳しく紹介するダークホースコミックスの編集者、カール・ホーン氏は、「第1次マンガブームは2000年代に起き、ブームの終了は書籍量販店であるボーダーブックス(2011年廃業)が低調となったことと何かしらの関係があった。現在の第2次マンガブームは、米国においてマンガがただの一時的な流行ではなかったことを証明している」と話す。

マンガとアニメに関して

アニメコンテンツの増加は、マンガ市場に大きな影響を与えている。マンガの売上上位作品の多くは、フールー外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますネットフリックス外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますクランチロール外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますなどのSVOD(ビデオオンデマンド)プラットフォームで最もストリーミングされているアニメシリーズに関連したものである。「以前は、アニメ配信が少なかったが、配信の増加とともにアニメ業界がマンガ業界を牽引し、販売拡大に大いに貢献した。基本的にアニメは、マンガ業界にとって無料のマーケティングの役割も果たした」とダークホース社ライセンス出版物担当シニアディレクター、マイケル・ゴンボス氏は語る。

コロナ禍における出版社の動向

米国でマンガ市場が大きく成長している一方で、出版業界全体にコロナ禍がもたらしたサプライチェーンと出荷の問題は、すべてのマンガ出版に関連する印刷会社、製紙会社、その他の生産と流通を制約し、大手と中小出版社にデジタル化という課題を生み出している。これらの問題は、2023年以降も今回のような事態が起こりうると予想されるため、マンガプラス(マンガプラス,集英社)、コミソロジー(アマゾン)、マンガモ(マンガモ Inc.)などの出版社は、紙媒体での出版からデジタル出版への移行を進めている。また、韓国のウェブトゥーン外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(もともとはデジタルで作られた縦スクロールのマンガ)などのプラットフォームも人気を集めており、デジタルマンガ出版社への関心が高まっている。

米国のゲーム市場

米国のゲーム市場規模は2021年現在世界第2位で、1億9千万人以上のゲームプレイヤーがいると推定されている。 世界最大の市場は中国だが、米国のプレイヤー1人当たりの売上高は1位の中国に大幅に勝る。コロナ禍でゲーム市場が大きく成長した米国では、ビデオゲームの年間成長率(CAGR 2023-2027)が6.14%で、2027年には721.3億米ドルの市場規模になると調査会社スタティスタは予測しており、日本企業にとって大きな市場参入のチャンスがある。

ゲーム市場の将来と展望

2023年に発売される新世代のゲーム機は、より面白いユーザー体験を可能にするプラットフォームとして再設計されている。また、コロナの収束に伴いサプライチェーンの問題が解決されたことで、プラットフォームを誰もが利用できるようになると予想される。 それは、大企業による参入を促進するものではなく、インビジブルユニバース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますムーンバグエンターテインメント外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますのような独立系のコンテンツクリエイターの参入を促進するものである。米国の大手ゲーム配信会社ハンブルバンドルによると、「ゲーム業界で最も成長が著しいのは、PCゲームとインディーゲーム(独立系ゲームソフト)の2つのカテゴリー。PCゲーム市場の大きさに気づくコンテンツパブリッシャーが増えており、インディーゲームも過去最大の利益を上げている」という。

メタバースとゲーム

マイクロソフト、メタ(フェイスブック)、グーグルなどの企業がメタバースとゲームの分野に数十億ドルを投資しており、メタバースが注目されている。巨大な仮想現実の構築には膨大な投資が必要であり、間もなく流行すると思われたものの、実際は時間を要している。若いゲーマーは既に仮想現実で活発に活動しており、この分野のけん引役がゲームであることは間違いない。ゲーム空間での体験は、コンサート、スポーツイベント、学校、社会活動、そしてリモートワークなど、他のオンライン活動の基礎となりうる。また2022年末には、ナイキからデジタル版の「スウッシュ」ロゴ入りスニーカーや衣料品などがデビューした。スウッシュは、スニーカー収集家がナイキのバーチャル製品を収集、取引できるコラボレーションのメタバース空間である。

日本のゲームの人気度

ゲームソフト、ゲーム機を含めた日本のゲームは、以前から米国でも人気が高い。 日本の大手メーカーが米国で発売しているゲームだけでなく、米国未発売のゲームへの関心が特に高まっている。 例えば、日本のゲームに関するウェブサイトでは、ニンテンドーの「斬撃のレギンレイブ」やセガの「セガガガ」などが米国で発売されなかったことを嘆く投稿が数多く見られる。 また、現在は日本発のレトロゲームが大ブームで、コンソールやビンテージ版のフルサイズゲーム機、日本から輸出されなかった古いゲーム機が大流行している。 インターネットで検索すると、ファンサイトやSNS、小売店などがこういったチャンスに注目していることが分かる。

ここまでは、日本のマンガやゲームのトレンドについて紹介してきた。
以下に、日本のコンテンツ・サプライヤーにビジネスチャンスに関する情報を提供するため、ゲーム、書籍、ソフトウェアの革新的な配信を行うハンブルバンドルと、日本のマンガを取り扱う大手出版社であるダークホースマンガ、2社のユニークなディストリビューターについて紹介する。

ハンブルバンドル社について

ハンブルバンドル外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(本社:カリフォルニア州サンフランシスコ:以下ハンブル)は、ゲームの販売を通じてチャリティ団体を支援することをミッションとし、2010年に設立された。同社は今までにない、真に革新的なビジネスモデルを持つスタートアップ企業だ。ハンブルは、ゲームのセット商品を期間限定で購入者自身が決めた価格で販売(支払いたい金額を支払う方式)し、売上の一部をチャリティ団体に寄付し、残りをゲーム開発者とハンブルで分配する仕組みになっている。このシステムは使いやすく、透明性があり、顧客を引きつけ、「購入」というシンプルな行為を新しい魅力的な体験に変えてくれる。

ハンブルは、上記のゲームバンドルの事業を続ける一方で、電子書籍やソフトウェアバンドルも開始し、ゲーム定額配信サービス「ハンブルチョイス」、ゲーム専用ストア「ハンブルストア」、ゲーム出版 「ハンブルゲームス」を加え、よりデジタルな販売形態としてビジネスを発展させた。ハンブルは、消費者、開発者、チャリティ団体にとってゲーム市場の展望を変え、日本のコンテンツプロバイダーにとっても社会貢献に参加できるという素晴らしい機会を提供している。

ゲーム ハンブルバンドル(Humble Bundle外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

ハンブルは、旧作ゲームのコレクションであり、ハンブルの1200万人の顧客の目に触れることでその旧作ゲームに新しい命を与え、生涯売上に「ロングテール現象(ここでは、サービスが長期的に需要を維持する現象を示す)」を与えるものである。ハンブルは、ゲームなどを複数まとめてセットにしたものをバンドルと名付け販売しているが、カプコンの「バイオハザード」のバンドルは、26年前にリリースされた初回版や一年前にリリースされた最新版などが含まれ、13万本以上を売り上げた。また、業界紙が最新のバンドルについて好んで取り上げるため、宣伝効果も大きい。 例えば、2022年に発売されたインディーゲームの「ザベストオブブーマーシューター」は5万6千本以上を売り上げ、有名なPCゲーマーのアンディー・チョーク氏が「私が見た中で最高のFPS(一人称視点のシューティングゲーム)ゲームコレクションの1つ」として絶賛している。

提供:ハンブルバンドル社

このビジネスモデルは、ハンブルのブックバンドルにも顕著な利益をもたらしており、すでに販売中止となっている2年以上前に出版された本、あるいはマンガが、バンドルによって大きく売上を伸ばす可能性があることを示唆している。本の愛好家は発売直後に本を購入するが、2年後には本の売れ行きが大幅に鈍る、あるいは止まってしまうことが多い。ゲームソフトのバンドルと同様に、電子書籍のバンドルの効果により、出版社は新たに「最新作を手に入れることよりも、割引価格で書籍を購入することを望む読者層」を獲得することができる。

同社の2022年の売上トップは講談社の「アワードウィニングマンガ」で、6千本以上販売された。ハンブルの書籍ビジネス開発ディレクターであるダラス・ミドー氏は、「このようなブックバンドルが発売されると知ると、顧客は飛びつく。すでにシリーズものを数冊持っていても、お得なバンドルがあれば、まとめて購入するケースはよくあることです」と言っている。

ハンブルの顧客は、期間限定のバンドルを非常に気に入っている。後述するが、厳選されたゲームや書籍のバンドルが驚くほどお買い得で手に入るだけでなく、チャリティ団体への貢献をしている満足感も得ることができる。

ダラス・ミドー氏

提供:ハンブルバンドル社

ハンブルゲームス(Humble Games外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

2020年、ハンブルは、複数のプラットフォームにまたがるゲームパブリッシングサービスであるハンブルゲームスも開始した。これにより、ゲーム開発者はハンブルの多くのサービスを活用することができるようになった。ハンブルの顧客がインディーゲームをとても好んでいることと、インディースタジオがゲームの完成から発売までに必要な資金を支援したいという背景もあり、ハンブルゲームスは設立された。現在、ハンブルは30以上のタイトルを発行しており、さらに多くのタイトルを準備中である。その一例がウィッチビーム社の「アンパッキング」で、このゲームは2021年にブレイクし、2022年の英国アカデミー賞ゲーム部門で2つの賞を獲得している。

提供:ハンブルバンドル社

ハンブルチャリティ(Humble Charity外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

ハンブルについて語るなら、そのユニークな特徴の1つである、サイトでの売上の一定割合をチャリティ団体に寄付することについて触れなければならない。ハンブルの価値観とミッションの中核には、設立当初からチャリティ団体への貢献がある。 そのため、社名に "Humble (謙虚) "を使用している。

ハンブルのデジタルストアでバンドルやアイテムを購入すると、その売上金額の一部をハンブルが選択した、あるいは顧客自身が選択したチャリティ団体に割り当てることができる。子供病院におもちゃやゲームを寄付しているチャイルズプレイチャリティは選択肢の一例だ。ゲーマーは、ハンブルの顧客であることを誇りに思い、チャリティ団体に寄付することを大事にするようになる。また、コンテンツパブリッシャーにとっても、自社の書籍やゲームに関連するこの慈善活動によるメリットがあり、ハンブルに対してターゲットとするチャリティ団体への寄付を提案することがよくある。

提供:ハンブルバンドル社

ハンブルと働く

日本のコンテンツは、同社のサイトで大きな売れ行きを見せている。ハンブルは、多くの日本のゲームや書籍のプロバイダーと良好な関係を築いており、常に新コンテンツを探している。ハンブルと協業を希望するならば、彼らのターゲット顧客が10代半ばから30代前半のゲーマーであることを理解しておくとよい。このターゲット層には、ゲームはもちろん、書籍、ソフトウェア、その他ハンブル が販売するあらゆるものの購入者が含まれている。最大の市場は米国、次いでヨーロッパだが、世界中に顧客がいて、日本にも多数の顧客を抱えている。

バンドルへのゲーム登録をデベロッパーが希望する場合、ハンブルでは、発売から90日~18ヶ月以上経過し、スティーム外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます社でのレビュー評価が85%以上の人気ゲームであることが求められる。 (「スティームでの評価85%」 というのは、人気のないゲームにとって少し高く、逆に人気の高いゲームにとっては少し低い値になっている。)

ハンブルブックスは講談社、トーキョーポップ、うどんエンターテイメントなど多くの大手出版社と提携しているが、新しい出版社やコンテンツプロバイダーとの提携に常に関心を寄せている。ハンブルの顧客は、すでに知っている本、特にアニメで見たことのあるマンガの本を探しているゲーマーがほとんどだ。多くの顧客は、ゲームが好きで本もよく読むが、新巻をあまり購入しないタイプの人々である。「出版社にとっては、これまでにない属性のターゲットを取り込むことができ、旧作の販売期間の延長を可能にできるため、大きなメリットがある。私たちとバンドルした出版社で、次のバンドルにつながらないところはない」と、ダラス氏は言及している。

ハンブルゲームスは 資金調達、制作支援、マーケティング、リサーチ、そして30以上のインディータイトルのパブリッシャーとしてのガイダンスを提供し、今後さらに多くのタイトルを制作していく。ハンブルは、最近のトレンドとして、インディーゲーム市場が大幅に成長したことに非常に期待しており、開発パートナーシップを拡大し、2025年以降にリリースされるプロジェクトのために、日本からのアイデアを迎え入れることを検討している。

ハンブル全部門へのお問い合わせは、bizdev@humblebundle.com まで。デベロッパーは、同社のウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますから直接提案書を提出することも可能で、提案書のテンプレートも用意されている。

ダークホースマンガ出版社について

ダークホースマンガ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(本社:オレゴン州ミルウォーキー)は、1986年にマイケル・リチャードソン氏がコミック小売チェーンを経営しながら設立した出版社、ダークホースコミックス LLCの商号である。設立から30年以上が経ち、ダークホースコミックスは現在、米国第3位のコミック出版社として、業界屈指のアーティストや作家、そしてファンから厚い信頼を得ている。

ダークホースはマイク・ミニョーラの「ヘルボーイ」、フランク・ミラーの「シン・シティ」、そして「スターウォーズ」、「アバター」、「エイリアン」、「プレデター」、「ターミネーター」などの作品の刊行のために必要なライセンスを取得して出版していることで有名であり、現在は米国最大の独立マンガ出版社である(マンガのリリースごとのマーケットシェアが最大である)。また多くの日本人マンガ家が同社と共に活躍している。

ダークホースマンガ(Dark Horse Comics外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

いくつかの著名な作品を除けば、当時は米国のマンガ市場というものはほとんど存在していなかった。最初のマンガは「ゴジラ・キングオブモンスターズ」で、当時は米国で最も成功している日本のポップカルチャーの作品であった。 その後、米国での「オーマイゴッデス(ああっ女神さまっ)」のライセンス出版をし、米国で最も長く続いたマンガシリーズとなった。これらの作品の成功は、アメコミの左から右に読むスタイルから、日本の右から左に読む単行本への移行に寄与した。

ダークホースのマンガは、同社の出版物全体に占める割合は比較的小さいが、書籍部門の収益に占める割合は大きく、ビジネスの成功には欠かせないものである。 「マンガは全カタログのわずか2%だが、売上は70%を占めている。ベストセラーはすべて日本の作品だ。作品、販売冊数、収益、カテゴリーの全ての観点から見たベストセラーである」、ダークホース社ライセンス出版物担当シニアディレクター、マイケル・ゴンボス氏は語る。

最も象徴的なシリーズの1つが「ベルセルク」で、通常版とデラックス版、一部のデジタル版を含めると500万部以上売れている。 2021年だけでも、B&NやAmazonなどのマスマーケットでダークホースが販売した刊行物の50%(約100万部)は、ベルセルクが表紙を飾っている。

  1. 提供:ダークホースマンガ出版社

  2. ベルセルクデラックス版. 上: 1巻 下: 13巻
    撮影: カール・ホーン氏

出版、印刷に関して

ダークホースにはデジタル出版もあるが、マンガに関してはほとんど紙媒体で販売しており、コレクターズアイテムとしての紙媒体の魅力を重要視している。マイケル・ゴンボス氏は「デジタル版よりも高価な紙媒体で提供するのであれば、それを手に入れる理由がなければなりません。日本のマンガ市場は約50%が紙媒体で、デジタル版が普及している現在においても、とても重要な媒体となっています。そういった観点から、紙媒体に重きをおいているダークホースは非常に優れていると考えられています。ライセンス所持者からは、『紙媒体での販売は非常に重要であり、ダークホースが紙媒体に注力していることを嬉しく思っている』と日常的に言われています」と言及している。もうひとつの同社の紙媒体での大きな特徴は、単行本のサイズの多様性である。日本とは異なり米国では単行本のサイズがそれぞれ異なっているため、様々なデザインで読者を魅了している。

ダークホースマンガの各種サイズ例
撮影: カール・ホーン氏

翻訳の重要性

米国のマンガ業界の初期には、翻訳の精度が低く、単なる憶測を吹き出しに書き加えることさえ多かったが、最近は精度が向上してきている。ダークホースは 翻訳と翻案に関しては、妥協をしない。 翻訳というのは、成功のために絶対に必要な数少ない重要な要素のひとつだと考えている。翻訳者は、そのシリーズやジャンルに精通した優秀な人を採用している。例えば、近日公開の、坂本眞一氏によるフランス革命期の死刑執行人を描いた「イノサン」シリーズは、マイケル・ゴンボス氏が自社で翻訳を担当している。

マイケル・ゴンボス氏
描画: 寺田 克也氏

流通に関して

マンガは従来のアメコミで採用されていた直販モデルの販売よりも、いわゆる書店で販売されることが多いが、販売経路はその作品によって異なっている。「初音ミク」「ベルセルク」「サイコパス」などのマンガ作品は、書店で9割方売れるであろう。以前はアメコミ型の直接販売が一般的だったが、現在は圧倒的に書店が大きな流通経路になっている(場合によっては逆の現象が起きることもある)。 書店流通の成功例としてあげられるのが花澤健吾氏の「アイアムアヒーロー」というゾンビマンガだ。同じくゾンビを題材としたアメコミである「ウォーキング・デッド」は、販売当初アメコミで最も売り上げた。その一方で、「アイアムアヒーロー」はテレビアニメでの人気が高まることで、ポップカルチャーとして普及するようになり、直接販売よりも書店での売り上げを大いに伸ばしている。マンガは「米国の書店で、初めて新しいコーナーを作った外国のカテゴリー」だと言えるほどである。名編集者であり「博士」と名付けられているカール・ホーン氏は、「バーンズアンドノーブル外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますのような米国の大きな書店でマンガが一つのコーナーを占めるようになったのは、ビジネスがうまくいっていてお客に人気があったからだ 」と言及している。

バーンズアンドノーブル のマンガコーナー(日本のマンガが62坪を占める)

ダークホースと働く

ダークホースは「出版社そのものよりも作品に価値がある」という考え方で作品に敬意を払い、作品を誇りに思っている。あるクリエイターは、同社が出版したライセンス版の方が日本で出版されたオリジナル版より優れていると言い、同社からのオリジナル版の出版を選択することさえある。その特例として挙げられるのが、天野喜孝氏とミンク氏によるSF漫画の「SHINJUKU」である。日本人クリエイターの天野氏は「タイムボカン」のキャラクターデザインや「ファイナルファンタジー」シリーズのイラストを担当したことで有名であるが、本作品は日本で出版された既刊の翻訳ではなく、映画プロデューサーとしても有名なミンク氏と天野氏の共同制作でオリジナルマンガを作成している。天野氏は、同社の印刷技術を高く評価しており、同社と直接コンタクトをとったことで、米国のみでの絵入り小説のリリースに成功している。

ダークホースとの協業は、大企業の出版社との協業よりもはるかに簡単だ。ダークホースはオレゴン州ミルウォーキーの静かな通りの角に、高層ビルなどではなく、2階建ての小さなオフィスを構えている。長年の社員であるカール・ホーン氏、マイケル・ゴンボス氏、そして創業者であるマイケル・リチャードソン氏によって意思決定の大部分が行われているので、どの作品を出版するかの決定は、迅速かつ柔軟に執り行われている。決定権は取締役会をはじめとする会社の監督下にはないのである。

撮影:カール・ホーン氏

刊行する新規マンガの選定

同社はライセンス版、オリジナル版問わず、出版する全てのマンガを常に探している。定期的にスタッフとブレーンストーミングを行い、ファンからの提案を大切にし、最近日本で発売されたマンガのみならず、何年も前に日本で出版された、米国未発売のマンガまでも検討する。そう言った意味で、同社のビジネスは日本の漫画家、クリエイターにとって大きなチャンスになるであろう。「日本のファンでも知らないような作品ばかりなので、常にアンテナを張り、人の意見に耳を傾けています」とカール氏。

そして、彼らが考慮しなければならないのが、このマンガに十分な市場規模があるのかという点である。出版スケジュールに余裕はあるのか、資材はあるのかといった点も現実的な問題として挙がってくる。どんなマンガでも出版には労力がかかるので、その賭けに出るかどうかを十分に検討しなければならない。

次のステップとして、ライセンスを獲得しなければならない場合には、他の出版社と競合して獲得する必要がある。「マンガに対する敬意と熱意、そして最高の品質であるという私たちへの評価が、勝利につなげてくれることを願っています」と語る。

「最終的に、我々は読者が読んで楽しむことを誇りに思う作品を作る 」とマイケル・ゴンボス氏は言う。カール氏も「ダークホースは自社の作品に情熱を持っており、米国人にマンガを楽しんでもらいたいと考えている」と付け加えた。

ダークホースマンガ出版本社ビル
撮影:ディーン・ガッダ氏

ダークホースは連絡を歓迎しており、連絡はlicensing@darkhorse.comまで。


作成
ジェトロ・サンフランシスコ事務所 (2023年3月10日)
執筆
パシフィックビジョンパートナーズ パトリック・ブレイ、松村兼吾
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本レポートは、日本貿易振興機構(ジェトロ)サンフランシスコ事務所が委託先パシフィックビジョンパートナーズに作成委託し、2023年1月に入手した情報に基づき作成したものです。掲載した情報は作成委託先の判断によるものですが、一般的な情報・解釈がこのとおりであることを保証するものではありません。本レポートはあくまでも参考情報の提供を目的としており、提供した情報の正確性、完全性、目的適合性、最新性及び有用性の確認は、読者の責任と判断で行うものとし、ジェトロおよびパシフィックビジョンパートナーズは一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロおよびパシフィックビジョンパートナーズが係る損害の可能性を知らされていても同様とします。 

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