海外発トレンドレポート

高まる環境意識と迫る再生可能エネルギーの必要性
(フィリピン・マニラ発)

2023年1月30日

エネルギー産業への外資規制緩和の動きも

フィリピン政府が策定を進めている国家再生可能エネルギープログラム(NREP)2020-2040では、2030年までに再生可能エネルギーの設備容量を30,000MW以上にすることなどを目標に掲げている※1。CO2や温室効果ガス削減のため、新しい建物にエネルギー効率、節水、建材の選択に関する基準を満たすよう求め、建設業者に対しては減税や承認の迅速化などのインセンティブを与えるGreen Building Code of the Philippines (GBCP)の制定など、環境問題に対してフィリピン政府として様々な取り組みをしている。現在の電力源の代替として期待が高まる再生可能エネルギーはどのように有効活用していくことができるのか。また、事業者として現実的にどのような対応をとるべきなのか。今回は再生可能エネルギー分野に従事する3社に、それぞれの視点で話を聞いた。

様々な再生可能エネルギー普及に真摯に取り組む

A社は、フィリピンにおける再生可能エネルギー (RE) 事業者で大手電力グループの傘下企業。創業から100年以上にわたり蓄積したエネルギーに関する専門知識、シームレスな電力網の管理、実績ある安全管理を活かし、市場をリードする太陽光発電ソリューションを提供している。COO(最高執行責任者)に話を聞いた。

  • 質問:

    事業内容は。

    答え:

    エネルギー消費行動に対する深い理解と世界トップクラスの技術パートナーとの戦略的提携により、産業用、商業用、家庭用にテーラーメイド(個々に合わせた)のソリューションを提供している。主には、エネルギー規制委員会 (ERC) から認可を受け、個人が敷地内にソーラーパネルを設置することを認める制度であるネットメータリングを活用し、太陽光発電ビジネスを進めている。ネットメータリングとは、2008年に施行された再生可能エネルギー(RE)法に基づき、初めて本格的に導入された制度で、太陽光パネルで発電した電力のうち、未使用または余剰の電力を送電網に戻すことで、電気料金の削減に貢献することを目的としている。100kWまでの太陽光発電パネルを設置することで、住宅や商業施設は電力需要の一部を自分たちで賄うことができるようになる。また他の事業では、ある島でソーラーマイクログリッド(太陽光発電用小規模電力網)を設置し、電化率100%を目指している。

  • 質問:

    フィリピンにおける再生可能エネルギー市場の概況は。

    答え:

    電力市場における再生可能エネルギーの比率はまだまだ低い。その主な理由は利用しにくさとコストであるが、エネルギー効率は急速に向上している。人々の意識向上が必要で、そのためにインセンティブを設けることや、再生可能エネルギーの利用を義務付けるなどの政策が必要だろう。また、使用済の太陽光パネル等の産業廃棄物処理を行う地元企業が今のところ存在せず、海外に輸送されている。しかし、5-10年後には、地場でそのようなサービスを提供する企業が現れると見ている。

  • 質問:

    製品の仕入れ先、各国の状況は。

    答え:

    多くは中国製。米国や欧州から技術を導入し、中国で製造する。フィリピンにも製造施設はあるが、規模が小さく、競争力がない。タイ、ベトナムではすでにソーラーパネルが生産されている。日本製のパネルはおよそ2倍の価格で非常に高価だ。日本企業でさえも、価格が安い外国製パネルを採用しているのではないか。当社以外にも太陽光発電の施工会社はあるが、フィリピンの規格や電気工事法に則っているのか、不明な点もある。

  • 質問:

    今後取り組んでいく分野は。

    答え:

    バッテリーエネルギー貯蔵、小型風力発電、タイダルテック(=潮汐エネルギーは、潮の満ち引きに伴う海水の波動によって生み出される電力)。

  • 質問:

    なぜ現在は太陽光発電に注力しているのか?

    答え:

    現在普及が進んでおり、価格も手頃で、設置もシンプルであるため。太陽光発電所は60メガワット規模なら2年で建設可能(石炭は5年かかる)。総じて太陽光発電への投資コストは安い。一方、風力タービンは、障害物のない南の地方にしか設置できない。

フィリピン島しょ部へ電力を届けるにはディーゼル発電機が現実的

B社はディーゼルエンジン、マリンエンジン、オイルろ過装置、電気機器を扱うメーカーで、エンドユーザーが機器を設置するだけで発電が可能なパッケージを提供している。23年からソーラーパネルに参入し、小規模な住宅を対象に事業展開を図っている。

  • 質問:

    事業内容は。

    答え:

    ディーゼル発電機を製造販売している。フィリピンの電力は火力に頼り燃料も輸入しているため、国民の所得に比して非常に高額だ。さらに島しょ部では電力不足が課題となっている。ディーゼル発電機は島への送電で実現可能な唯一の技術だと思う。

  • 質問:

    主な顧客は。

    答え:

    以前はテクノパークが中心だったが、現在は、IPP(=Independent Power Producer、独立系発電事業者)が主な販売先になっている。顧客は当然、特定の製品が様々な企業でどの程度利用されているか、その製品がどのように機能するかなどの事例や背景を調べるため、当社は単に商品を販売するだけではなく、顧客とのコミュニケーションや販売後のアフターサービスに非常に力を入れている。以前はG7諸国のエンジンを好んで利用していたが、現在は中国製の安価なものでも受け入れる顧客も増えてきた。

  • 質問:

    御社の強み、今後の取り組みは

    答え:

    強みは、事業展開において常に柔軟性を持たせている点だろう。ディーゼルを主軸にしつつも、再生可能エネルギー、特にソーラーパネルに参入し、小規模な住宅顧客を対象にしたいと考えている。フィリピンで不足しているインフラである蓄電池も探している。

  • 質問:

    日系企業の印象は?

    答え:

    価格が他より高いが、日本企業は非常にきめ細かく、誠実である。コスト削減のため、直接取引できればベストだが、直接だとコミュニケーションが取りにくい(英語の通訳や翻訳者がいない)ため、通常は商社を通さざるを得ない。しかし大手商社は1億円規模の大きな案件しか扱わないので、それ以外は取り合ってもらえない現状がある。

観葉植物が救う環境問題

C社は、観葉植物の栽培と輸出を手掛ける企業で、当地で創業30数年となる歴史ある日系企業。昨今のグリーン政策の流れと相まって、建築、内装デザインの分野で観葉植物の需要が増えてきている。創業者に話を聞いた。

  • 質問:

    事業内容は。

    答え:

    観葉植物の栽培および輸出を行っている。植物の種類に応じて標高別に150メートルから1200メートルまで国内に5つの農場を所有し、様々な植物の栽培を可能にしている。フィリピンで栽培し、日本とアジア他国へ15%ずつ、残り70%を欧州に輸出している。

  • 質問:

    なぜフィリピンか。

    答え:

    観葉植物の栽培には高温多湿が適しており、フィリピンは最適である。これは他の赤道付近の地域にみられる傾向でもある。ベトナムでは切り花が有名であり、スリランカでも植物栽培が盛んだ。余談だが、コーヒー栽培が適している、いわゆるコーヒーベルトとの親和性もあり、コーヒー農園から園芸栽培に転換する栽培者もいるほど。栽培に適した環境が観葉植物とコーヒー豆で似通っており、広大な土地をそのまま転用できるためである。

  • 質問:

    フィリピンへ進出を希望する日本企業へのアドバイスは。

    答え:

    当地で事業を始めて30年余になるが、当時いた人はみんないなくなってしまった。どの国でも同じかもしれないが、相応な覚悟を持って来てほしい。自身の事業を振り返ってみると、心構えの1つはこの国の混沌に耐える事。2つ目は完全にフィリピンを生産地として捉え事業展開した事。1つ目は言わずもがなで、何かと事務処理や物理的な移動も非常に時間が掛かり事が進まない。渋滞で物流も滞り、島しょ部への発送は非常に厳しい。よってどうしても都市部へビジネスが集中してしまう。そういった障壁は多々ある。2つ目は結果論だが、弊社は日本人事業者がフィリピンで生産をし、日本を含めた海外に、特に欧州をメインに輸出をする珍しい企業だと思う。一部のオフショアを除けば、多くはフィリピンを消費市場と捉え展開を検討されていると思う。ただフィリピンの国内需要は刻々と変化し、英語も出来る事から情報の入り方も早く、分野によっては日本より先行しているのではないかと思う時もある。

C社が建築用に栽培した手入れが楽な観葉植物

C社が建築用に栽培した手入れが楽な観葉植物

執筆者総評

今回、エネルギー事業者2社と植物栽培の事業者に話を聞いた。

  • 総じて再生可能エネルギーに対するニーズは高く、特に地方や島しょ部でのエネルギー不足が課題である。政府も外資規制の緩和を実施し、参入障壁は下がり始めている。
  • 建設業界でのグリーン政策もあり、植物はじめ、省エネ化を促進する商材は必要とされている。

作成
ジェトロ・マニラ事務所
執筆
Visum Global Philippines Inc. 井谷 厳紀
レポートの利用についての注意・免責事項
本レポートは、日本貿易振興機構(ジェトロ)マニラ事務所が委託先Visum Global Philippines Inc.に作成委託し、2022年11月に入手した情報に基づき作成したものです。掲載した情報は作成委託先の判断によるものですが、一般的な情報・解釈がこのとおりであることを保証するものではありません。本レポートはあくまでも参考情報の提供を目的としており、提供した情報の正確性、完全性、目的適合性、最新性及び有用性の確認は、読者の責任と判断で行うものとし、ジェトロおよびVisum Global Philippines, Inc.は一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロおよびVisum Global Philippines, Inc.が係る損害の可能性を知らされていても同様とします。

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