海外発トレンドレポート

中国における日本伝統工芸品市場レポート(4)香港では「海外デザインで日本製」の工芸品が売れ筋
(香港発)

2023年2月14日

中国の日本伝統工芸品市場についてシリーズで紹介をする。第4回は香港に拠点を置き、工芸品を香港へ輸入・販売事業を手掛けるuniQueのカトリーナ・チャン氏(以下:チャン氏)と、MIDWAY STUDIO LIMITED(以下:MIDWAY)のパン・タン氏(以下:タン氏)を取材した。

2021年の香港市民一人当たりの名目GDPは49,727米ドルと、日本の39,340米ドルを上回り、香港市民12人に1人が1億円以上の資産を持つと言われる。消費購買力の高さから、多くの日系の飲食店や小売店が多数香港に進出しており、香港市民は日常的に日本食や日本製品に親しみ、日本文化が市民の生活に浸透している。伝統工芸品も例外ではない。香港は1,114平方キロメートルと東京都の約半分の狭い面積であるが、その狭い香港に、従来品と一線を画す日本産伝統工芸品店舗が多数存在する。

ワークショップが流行る香港

MIDWAYのタン氏曰く「中国人は工芸品を飾るものとして捉え、見た目の華やかさを重視する人が多い。対して香港人は工芸品を使うものとして捉えるため、香港人は見た目の華やかさよりも使い勝手の良さを重視する傾向が強い」と言う。消費者に商品の使いやすさを理解してもらうには、実際に商品を体験してもらうことが最適な方法である。タン氏は取り扱う焼物のお皿、ガラスの酒器等を実際に使用する食事会を開催して、香港の消費者に商品の使い勝手を体験してもらっている。参加者同士が「このお皿は〇〇が素晴らしいのでおすすめしたい」といった情報交換をしている。

MIDWAYのタン氏(ジェトロ撮影)

uniQueのチャン氏も同様に商品のティーカップを使用したコーヒー試飲イベントを実施している。uniQueはインスタグラム等のSNSによる情報発信にも力を入れているが、ワークショップの参加者は「実際に使ってみると、SNSの情報だけではわからない工芸品の触感、色まで感じられる」と好評だ。また、チャン氏は「こうしたワークショップは参加者に商品の魅力を伝えるだけでなく、参加者からの意見をヒアリングする重要な機会になっている」と話す。

uniQueのチャン氏(右)(ジェトロ撮影)

最近の香港ではワークショップがとても人気で、九龍地区の下町である深水埗は週末になると若者が集まり、様々なワークショップが開催されているという。コロナによるロックダウンも経験した香港は、日常のあらゆる活動がオンラインにシフトしてしまった。リアルな繋がり、実体験に餓えた若者を中心にこういった活動が活発になっている。消費者に商品の魅力を実体験してもらって購入に繋がると同時に、消費者からの声を聞くことで次の商品仕入れ・開発のヒントになる。今回取材した2社は今後も積極的にワークショップを実施していきたいと話す。

デザイン・イン・海外、メイド・イン・日本

MIDWAYの店舗に並ぶ商品の80%以上は日本産伝統工芸品であるが、店舗内を見渡すと、おしゃれな雑貨店に来店したかのような錯覚を覚える。典型的な渋い色合いの工芸品は少なく、クールなモダンデザインの工芸品が多数並ぶ。同社は香港人の求めるデザインを追求し、香港や北欧の著名デザイナーが考案したデザイン案を基に日本の工芸士に製造を委託するOEM製造の形態をとっている。タン氏自身もデザイナーであることから、自身がデザインした陶器、和紙、線香等も店頭に並ぶ。

タン氏は「香港人のライフスタイルが日々変化する中、ありのままの日本伝統工芸品を香港人に届けるだけでは、なかなか消費者の心に刺さらない。ライフスタイルの変化に合わせて、工芸品も進化していく必要がある」と話す。日本にない「香港オリジナルの日本産伝統工芸品」という希少性が消費者に特別な満足感を与える。伝統的な日本工芸品にこだわらず、香港の消費者のニーズに即した大胆な「和洋折衷」「和中折衷」の工芸品が香港市民の生活に浸透している。

北欧でデザインされ、日本で生産された鉄瓶(ジェトロ撮影)

商品探しはSNS、Japan Steetで

香港の消費者に常に新しい工芸品を届けるため、二社の商品探しの基本はSNS。フェイスブックやインスタグラムで日本の工芸士のアカウントをフォローし、工芸士が制作する作品に関する最新情報を隈なくチェックする。コロナによる日本・香港間の移動規制が緩和され、春先には日本各地の工房を訪問し、新たな工芸品を調達予定だと言う。また二社がSNSと並行して頻繁に利用するのが、ジェトロが展開するJapan Steetである。Japan Steetは海外輸出にチャレンジしたい日本各地のサプライヤー企業4,000社以上32,000種類の商品が登録されており、日本製品を調達したい海外バイヤーがJapan Steetを通じて商品を探し、引き合いがあればジェトロが商談サポートを行う。当レポートでは4回に分けて中国および香港の日本産伝統工芸品市場とバイヤーを紹介してきたが、同地に伝統工芸品の輸出にチャレンジしたい企業におかれては、これを機に、ぜひJapan Streetへ参加されたい。

Japan Streetの商品閲覧ページ(ジェトロ撮影)


作成
ジェトロ・成都事務所
執筆
寺田俊作
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本レポートは、日本貿易振興機構(ジェトロ)成都事務所が作成し、2023年2月に入手した情報に基づき作成したものです。掲載した情報は作成委託先の判断によるものですが、一般的な情報・解釈がこのとおりであることを保証するものではありません。本レポートはあくまでも参考情報の提供を目的としており、提供した情報の正確性、完全性、目的適合性、最新性及び有用性の確認は、読者の責任と判断で行うものとし、ジェトロは一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロが係る損害の可能性を知らされていても同様とします。

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