海外発トレンドレポート

フィリピンにおける省エネルギー分野の市場調査
(フィリピン・マニラ発)

2023年10月27日

1.サマリー

フィリピンでは、エネルギー省(Department of Energy, DOE)と大統領広報局(Presidential Communications Office, PCO)がショッピングモールで省エネキャンペーンを実施するなど、一般家庭・市民の省エネ意識を高める取り組みが進んでいる。エネルギー効率の高い電化製品の購入や省エネの実践、再生可能エネルギー(RE)の導入等により、増大するエネルギー需要を緩和することを目指している。「省エネ」の意識付けは消費者マインドに直結し、QOLの向上に影響を与える。本稿では政府主導の施策から民間企業の取り組み、それが生活者に与える影響を述べ、市場参入のヒントを提供する。

2.市場概要

「省エネロードマップ2023-2050」(National Energy Efficiency and Conservation Plan and Roadmap 2023-2050)は、フィリピンにおけるエネルギー資源の効率的かつ持続可能な利用を確保するために作成され、フィリピンのエネルギー問題に対処するため、フィリピン政府が実施する重要なイニシアティブである。

2019年までのエネルギー効率化活動は、基本的には企業や市民の自発的なものであり、普及を支援する政府のインセンティブは殆どなかった。2019年初頭、待望のエネルギー効率・節約法(EEC法)が制定され、エネルギー効率に特化した国内初の法律が施行された。インセンティブだけでなく罰金を導入したことで、自主的な活動から義務的な活動へ移行し、エネルギー効率化行動に大きな影響を与えている。この変化はまた、投資家に対して、政府がエネルギー効率向上を拡大するというコミットメントを明確に示すものでもある。

この政策の中では、短期(2023-2024年)、中期(2025-2028年)、長期(2029-2050年)の各セクターとプログラムについて、炭素排出削減量と目標値を算出している。

主要政策

  1. フィリピン・エネルギー・ラベリング・プログラム(PELP)

    PELPは、電化製品や機器について、消費者が十分な情報を得た上で選択できるようにすることを目的とした取り組みである。エネルギー性能に基づくエネルギー消費製品(Energy Consuming Products, ECP)の国家ラベリング制度を規定し、(1)エネルギー効率と省エネの制度化、(2)エネルギーの効率的利用の促進、(3)エネルギー効率および省エネプロジェクトに対する奨励金の付与を目的としている。対象となる製品はエアコン、テレビ、冷蔵庫、照明器具など一般家電である。通常、これらのラベルは、標準化されたフォーマットで主要な情報を提供し、消費者が製品を比較しやすくし、よりエネルギー効率の高い製品を選択しやすくすることで、エネルギー消費量と電気代の削減が期待出来る。

  2. 自動車燃費ラベリング・プログラム(VFELP)

    自動車燃費ラベリング・プログラム(VFELP)は、運輸部門の燃費性能評価を対象としており、道路運送車両を対象とする。輸送車両の製造業者、輸入業者、販売業者、再製造業者は、DOEが定めた燃費表示要件を遵守しなければならない。

3.分野別エネルギー需要

フィリピンの総最終エネルギー消費量(Total Final Energy Consumption, TFEC)は年々増加を続け、2018年には34.31MTOE(石油換算メガトン)に達し、過去5年間で年平均約6%の増加となった。

運輸部門は、フィリピンのTFECの中で最大のシェアを占めており、特に2014年以降急増している。世帯所得の増加と、それまで人口規模に対する自動車保有率が低かったという2つの要因が重なり、自動車保有数が急増したためと思われる。この部門の特徴は、エネルギー消費に占める石油製品の割合が圧倒的に高い(96%)ことである。

図:分野別エネルギー消費

産業24.3%、サービス13.7%、住宅21.9%、輸送38.4%、農業1.6%

出所:「省エネロードマップ2023-2050」フィリピンエネルギー省 (DOE)よりジェトロ作成

4. 政府の取り組みと政策

  1. エネルギー効率・節約法(共和国法第11285号):2019年に制定されたこの法律は、あらゆる部門におけるエネルギー効率と節約を促進するための政策枠組みを提供する。国家エネルギー効率・保全計画の策定を義務付けている。
  2. 公共交通車両近代化プログラム(PUBLIC UTILITY VEHICLE MODERNIZATION PROGRAM, PUVMP):2017年に運輸省(Department of Transportation, DOT)が、燃費の悪い古い公共交通機関の車両を、よりクリーンでエネルギー効率の高いモデルに置き換えることを奨励する目的で導入した。この取り組みは、エネルギー効率を高めるだけでなく、都市部の大気汚染も削減している。
  3. エネルギー効率優秀賞(Energy Efficiency Excellence (EEE) Awards):Energy Efficiency and Conservation(EEC)法に基づくDOEの公式表彰制度であり、各施設でEECを実践する個人、グループ、産業界、政府機関、建物によって実施された、卓越した業績と称賛に値する戦略を表彰することを目的としている。毎年12月に発表される。
  4. エネルギー監査:エネルギー集約型の産業や事業所に対し、エネルギー省はエネルギー監査などの助言サービスを提供している。この活動は、企業がエネルギー使用パターンを決定し、エネルギー効率化の機会を特定するのに役立つ。操業施設の複雑さや企業のニーズに応じて、ボイラー効率試験、予備監査、詳細監査、電気系統監査が実施されるほか、特定の省エネ勧告を追求するためのプロジェクト・エンジニアリング作業も行われる。

5.各産業における企業の取り組み

住宅・建設:エネルギー省(DOE)は、住宅・商業ビルのエネルギー効率基準を盛り込んだフィリピン建築基準法を導入した。これにより、建設部門がエネルギー効率の高い設計や材料を採用することを奨励している。

現場の意見をヒアリング

マニラで内装デザイン会社を経営し、有名コーヒーチェーンやレストラン、オフィス設計を手掛けるCEO兼インテリアデザイナーのF氏にヒアリングをした(2023年9月実施)。

  • 質問:

    最近の傾向は?

    答え:

    ここ数年で省エネ・グリーンの需要は確実に高まっている。店内の壁一面やオフィスのエントランスの壁が緑で埋め尽くされているのを見た事がある人も多いのではないか。壁の面積の何パーセントを緑で、といった依頼もある。また極力エアコンを使用しなくて済むように、日光の入り方を考慮したり、室内を風が通り易く設計したりもした。

  • 質問:

    現場からのニーズは?

    答え:

    壁の緑といっても、人工植物を使用するケースが多い。理想は生きた植物だが、人工でも本物と見紛う、かつ丈夫な素材は望ましい。省エネに役立つ内装材(壁・床)やガラスなども、選択肢が少ないこの国ではニーズがあるのではないか。

サービス・小売:
ショッピングモール、スーパーマーケットや飲食店では、電力消費量を削減するため、エネルギー効率の高い照明、冷蔵、空調システムを導入している。ある有名モールでは、LED照明システムを採用し50%の省エネ、さらにセンサー付きエスカレーターで30%の省エネを実現している。また、自然光を最大限に活用するために天窓を設置、グリーンウォールも取り入れている。
製造:
利便性と費用対効果、環境面の利点から、電動自転車(e-Bike)の需要が急速に高まっている。フィリピン運輸省(DOTr)によると、フィリピンには約14,000台の電気自動車(四輪自動車、トライシクル=三輪車、オートバイ等)があると推定しているが、四輪電気自動車はコストと市場受容性の観点からその内わずか1%に過ぎない。充電ステーションは約400カ所あり、そのうち、電気自動車に必要な電源とコネクターを備えているのは約80カ所のみである。これらは主にショッピングモールや駐車場、ガソリンスタンドに設置されている。フィリピン電気自動車サミット(Philippine Electric Vehicle Summit, PEVS)も今年で11回目を数え、普及に励んでいる。
電動トライシクル

電動トライシクル

6.中小企業の参入チャンスとアドバイス

「省エネ」がカバーする範囲は広く、政府・自治体レベルで取り組むインフラ寄りのものから、個人が使用するガジェットの類まで様々である。政府の政策での積極的な後押しや、近年のパンデミックによる社会構造の変化で、省エネに対する消費者意識は確実に高まっている。その意味では物やサービスを選別する「目」は養われて来ていると言え、日本が誇る技術力、高付加価値なものへの視線は熱いと考えられる。


作成
ジェトロ・マニラ事務所
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本レポートは、日本貿易振興機構(ジェトロ)マニラ事務所が委託先Visum Global Philippines Inc.に作成委託し、2023年10月に入手した情報に基づき作成したものです。掲載した情報は作成委託先の判断によるものですが、一般的な情報・解釈がこのとおりであることを保証するものではありません。本レポートはあくまでも参考情報の提供を目的としており、提供した情報の正確性、完全性、目的適合性、最新性及び有用性の確認は、読者の責任と判断で行うものとし、ジェトロおよびVisum Global Philippines, Inc.は一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロおよびVisum Global Philippines, Inc.が係る損害の可能性を知らされていても同様とします。

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