海外発トレンドレポート

中国における日本伝統工芸品市場レポート(2) 大連の富裕層に人気の南部鉄器、ライブ配信で売り込め
(中国・大連発)

2023年2月14日

中国の日本伝統工芸品市場についてシリーズで紹介をする。第2 回は遼寧省大連市に拠点を置く「星遠(大連)商貿有限公司」(以下:星遠)の王宇総経理を取材し、同社事業と大連を中心とした中国東北地域の日本産伝統工芸品市場について話を聞いた。

富裕層を中心とした贈答品としての工芸品

星遠は2020年設立の新しい会社である。日本から伝統工芸品、食品、日本酒を輸入して大連市内の百貨店や日本商品を専門に扱う小売チェーン店に卸している。加えて大連市内の自社店舗、ECサイトでの一般消費者向けの販売も行っている。王宇総経理が工芸品事業を始めたきっかけは、星遠を起業する前の会社に在籍していた2010年、上海万博を参観した際、会場に岩手県産の南部鉄器が展示されており、一緒にいた中国人の友人が南部鉄器に見とれる様子を見て、今後、中国では南部鉄器が流行るだろうと感じたことだった。当時、岩手県大連事務所と繋がりがあったため、同所のサポートを受けながら、南部鉄器の輸入を開始し、現在でも主力商品となっている。

前述の岩手県大連事務所のように、日本の各都道府県庁の出先機関が大連市に拠点を設置しており、その後も富山県、宮城県、神奈川県、新潟県、北九州市等の在大連自治体事務所からの支援、水沢鋳物工業協同組合に所属する工芸士との交流を経て、漆器、銅器、陶磁器等も取り扱い始め、現在は約150品目の工芸品を取り扱っている。

大連市は地理的に日本と近く、古くから対日貿易が盛んで、日本産の食品や日用品は大連市民の生活に溶け込んでいた。一方で工芸品はその高価さ故に、贈答品としての需要が高まった。大連市内の役所や企業、一般家庭においても応接間には飾り物として日本産の焼物や人形等の工芸品が飾られている様子をよく目にする。星遠が販売する南部鉄器も大連市内の富裕層を中心によく売れた。

南部鉄器を販売する星遠の自社店舗(ジェトロ撮影)

冷え込む東北経済、ライブ配信を活用して中国全土を販路に

近年東北3省は人口減少が止まらず、2010~2020年の10年間で合計1,100万人も人口が減少した。中国の中でも極端な少子高齢化が危惧される地域だ。2022年の中国のGDP成長率は3.0%。東北3省においては黒竜江省2.7%、遼寧省2.1%、吉林省に至っては-1.7%と、全国平均を下回る低い成長率に終わった。星遠がある大連市の社会消費品小売り総額も前年比-3.3%の1,847億元と、中国全体の-0.2%を大きく下回る。特に直近ではコロナによる経済への打撃によって工芸品の売れ行きは芳しくない。東北地域の百貨店の日本産伝統工芸品の売り場面積は年々縮小を余儀なくされている。

星遠はこうした東北地域の工芸品市場の現状を危惧し、これまでの東北地域主体の販路から、ECを活用した中国全土への販路拡大に取り組んでいる。しかし、ただ商品情報をECサイト上に掲載しているだけでは、自社製品は他社の低価格商品に埋もれてしまい、簡単には購入してもらえない。そこで同社が重視するのがライブ配信である。王宇総経理は多くの日本の自治体事務所や工芸士と直接繋がっている強みを活かし、彼らとの交流から学んだ工芸品の歴史・ストーリー、特徴等の知識をライブ配信を通じて紹介することで、他社にはできない情報発信で差別化を試みている。

例えば、岩手県では古くから鉄器が日常生活に浸透していた。お茶を飲むために鉄器でお湯を沸かす際、鉄器の鉄分がお湯に染み出して、そのお茶を飲むことで自然に鉄分を補給することができ、健康な生活を送ることができた。大切に使えば50年も100年も使い続けられる。こうして何世代も大切に受け継がれる鉄器はまさに生き物と言える。中国人である王宇総経理が面白いと感じたストーリーを発信すれば、多くの中国人消費者にも面白いと感じてもらえて購入に繋がる。ライブ配信は大変効果的なツールとなる。

また、上海で開催される中国国際輸入博覧会等の中国各地の展示会に出展する際にもライブ配信を行ったり、自社ECサイト登録者以外の消費者にもアプローチするため、在外公館のWeChat公式アカウントと自社ECサイトをつないだ同時ライブ配信にも取り組んでいる。こうしたオンラインによる情報発信に積極的に取り組むことで、徐々に東北地域以外の消費者からの購入も増えている。

コロナ規制が緩和され、2023年は日中間の往来再開が期待される。年内には日本の工芸士のもとへ訪問し、工芸士の製造現場からのライブ配信といった質の高いライブ情報発信に挑戦していく。工芸品は実際に使用してこそ真の価値を発揮する。飾り物ではなく、日常生活で実際に使ってみたいと思ってもらえるようなライブ配信を心がけるという。

ライブ配信の様子(ジェトロ撮影)


作成
ジェトロ・成都事務所
執筆
寺田俊作
レポートの利用についての注意・免責事項
本レポートは、日本貿易振興機構(ジェトロ)成都事務所が作成し、2023年2月に入手した情報に基づき作成したものです。掲載した情報は作成委託先の判断によるものですが、一般的な情報・解釈がこのとおりであることを保証するものではありません。本レポートはあくまでも参考情報の提供を目的としており、提供した情報の正確性、完全性、目的適合性、最新性及び有用性の確認は、読者の責任と判断で行うものとし、ジェトロは一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロが係る損害の可能性を知らされていても同様とします。

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