海外発トレンドレポート

高齢者用品(BtoC)の市場概要およびバイヤーへのインタビュー報告高齢社会を支える製品需要が拡大
(香港発)

2023年2月15日

香港では急速な高齢化の進行に伴い、高齢者やその介護者をサポートする高齢者用品のマーケットが拡大しつつある。特に一人暮らしの高齢者が増えていることから、自立した生活を容易にするための製品が求められている。本レポートでは、B2Cの高齢者介護市場の状況を把握するとともに、現地企業2社へのインタビュー結果を基に香港市場に関心を持つ日本の中小企業への実用的なアドバイスを取り上げる。

シルバー経済が拡大する香港

図表1:

出典:国勢調査統計局(香港)

香港では、高齢化がますます懸念されている。香港の全人口に占める高齢者※1の割合は、2011年時点で13.4%(94万人)であったが、10年後の2021年には19.6%(145万人)に達し、現在では5人に1人が高齢者である。最新の政府統計人口予測※2によると、高齢者割合は今後15年間で急速に増加し、2037年には30%(245万人)に達する見込みである。

※1
「高齢者」の一貫した定義は香港にはないが、本レポートでは香港の高齢者カード発行要件である65歳以上を高齢者と定義する
※2
香港国勢調査統計局による香港人口予測PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1MB)

図表2:

出典:香港社会指標※3

とりわけ香港では居住スペースが狭いことから、一人暮らしの高齢者が増えている。香港の社会指標の最新データによると、一人暮らしの高齢者の割合は、2002年の13%から2018年の16%に増え、過去約20年間で着実に増加していることが分かる。

また加齢とともに有病率が増加する認知症※4もまた課題の一つである。香港における認知症の有病率※5は、65歳以上で6.5%、80歳以上で25%と推定されるが、これが2037年には、香港の高齢者のうち約21万1千人(高齢者全体の10%程度)、とりわけ80歳以上では10万6千人(同5%程度)が認知症になると予測されている。認知症高齢者の増加は今後、高齢者施設への負担に拍車をかける上に、家庭で介護を担う子どもたちの負担も大きくなる。

※4
香港衛生署による定義では、認知症は神経病理による脳機能の低下によって引き起こされる疾患である。記憶力、理解力、言語力、学習能力、計算力、判断力などが影響を受けたり、感情や行動、感覚に異常を感じる人もいる。
※5
Jockey Club「認知症ケアプログラムにおける診断後のサポートについて」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (香港醫院管理局の原典は開示なし)

政府助成金によりジェロンテクノロジー※6製品の利用促進

香港政府は、高齢者介護施設のサービス事業者にテクノロジー・ソリューションを導入して効率化を促すだけでなく、高齢者個人に対してもテクノロジー製品の利用を推奨している。社会福祉局は、2023年第3四半期から、高齢者向け地域介護サービス券の対象をテクノロジー製品のレンタルにも拡大することを決定し、関連するリソースを割り当てた。このサービス券は2013年9月に初めて導入され、現在は中度または重度の障害を持つ高齢者が申請可能となっている。対象者は基本的に、リハビリ運動、食事の配達、付き添いサービス、介護者向けオンサイトトレーニング※7など、各種地域介護サービスとの引き換えにのみサービス券を利用できる。

※6
ジェロンテクノロジー(GeronTechnology)とは、ジェロンテックとも呼ばれ、Gerontology(老年学)とTechnology(技術)を組み合わせた造語。テクノロジーによって高齢者が直面する問題解決を図る
※7
介護者の介護スキルを高め、また介護によるストレスを軽減させるため、専門トレーナーから介護者に提供されるサポートやトレーニングのこと。オンサイトとは、トレーナーが介護現場(自宅など)に出向いて教えることを意味する

インタビュー調査結果

【A社】(所在地:香港、面談者:取締役および営業部長)

  • 質問:

    香港のB2C高齢者介護市場におけるターゲット顧客層は。

    回答:

    当社は20年前から事業を展開している。最初の10年間は、高齢者が自分自身で買い物に来ていた。しかし今は、買いに来るのは介護者や比較的若い高齢者がほとんどである。かなり稀に85歳以上の高齢者も来るが、製品の技術が高度化するにつれ85歳以上の高齢者にとって製品を理解することは簡単ではないため、介護者が代わりに買い物をするケースが多い。当社の顧客は老老介護※8のケースが多く、65歳以上の介護者が、85~90歳の両親のために購入、もしくは、自分自身も65歳以上で高齢者であるため自分用に購入する。また、40~50歳くらいの介護者が、介護する高齢者のため買いに来ることもある。当社の主な顧客層はまとめると、40〜65歳くらいである。

    顧客の購入の意思決定において、小売店(販売業者)のサービスは非常に重要である。顧客の中には、高齢者(65歳以上)になったばかりの人や介護を始めたばかりの人で、自分が何を必要としているのかよく分かっていない人が多い。そのため店舗の販売員が顧客と知識を共有し、適切な商品を勧めてくれることを頼りにしている。また、顧客は多数のブランドを扱う店を好む。ショッピング体験を楽しむことを重視しているためだ。さまざまなブランドの製品を比較検討することは、自分のニーズをより深く理解することに繋がる。商品価格も重要な要素ではあるが、それらはサービスの質やブランドの多様性に次ぐものである。

※8
65歳以上の高齢者を65歳以上の高齢者が介護すること
  • 質問:

    売れ筋製品とその理由は。

    回答:

    消耗品としては、大人用紙おむつ、プルアップパンツ、栄養補助食品、粉ミルク、各種ミルクなどが常に売れ筋である。2番目に人気なのは、杖など移動に必要な道具。3番目は高齢者介護用の家具で、上記のような必需品を購入した後、予算に余裕がある場合にのみ、自宅家具のアップグレードを検討することが多い。

    また、介護食の販売も好調である。比較的新しい製品カテゴリーではあるが、介護者がソフト食をつくる時間を大幅に節約できるため伸びている。まだまだ商品の選択肢が少ない香港で、当社は競合他社に比べると、多くの選択肢を顧客に提供できていると考える。

  • 質問:

    B2C高齢者介護市場のトレンドとその理由は。

    回答:

    香港の介護者は、高齢者の見守りに非常に神経質であるため、在宅監視システムに一定のニーズがあると考える。監視システムがあれば、夜間も高齢者の状態を介護者に知らせることができるので、介護者は安心でき、負担軽減が可能である。また、若い世代の介護者は高齢者との関係がうまくいかないこともあるが、遠隔地から高齢者の状態を把握することも可能であるため、その懸念も回避できる。監視システムに求められる機能としては、B2B市場が求めるものと同じで、オールインワンのシステムである。失神・転倒検出、バイタルサインモニタリングが可能で、家庭用に特化したシステムの需要が高い。

    また、香港では今後20〜30年の間に、高齢者の認知症がますます増加すると予測される。かなり先のことではあるが軽視すべきではなく、このようないわゆる「高齢者の病気」を患う人たちに優しい製品が、市場には求められている。

  • 質問:

    今後、日本からどのような製品を購入したいと思うか。

    回答:

    上述したように、監視システムの調達には興味があるが、いかに製品をローカライズし、現地に適応させるかについては、サプライヤーとさらに話し合う必要がある。現時点では、市場にあまり選択肢がないのが現状だ。

    なお、新たな製品カテゴリーを商材とすることは当面考えていない。すでに幅広い製品を扱っているため、製品カテゴリーごとにブランドの選択肢を増やしたいと考えている。

    B2Cエンドユーザー向けに、高齢者介護用家具をこれまでより多く調達したいと考えている。機能性ベッド、リクライニングチェア、ダイニングチェアなど、どんなものでも構わないが、中高年層をターゲットにしているので、病院臭さのない、自宅のほかの家具にマッチするような素敵なデザインであれば、価格は少し高くても構わない。日本のブランドは、デザインがとても繊細で、かつ実用的であるため、高齢者介護用家具の企画・製造において優位性があると思う。例えば、掃除がしやすいデザインだったり、キャスターを付けることができるなど、柔軟に対応できるものがほとんどである。

    また、日本で見かけるショッピングカートの形をした特殊な移動補助器具(いわゆるシルバーカー)にも興味がある。多くの香港の高齢者は、毎日近所を散策し、途中で食料品を買うのが好きである。このショッピングカートは、食料品を運ぶだけでなく、必要なときに休むことができる椅子も付いており、高齢者の日常生活を効果的にサポートできるのが魅力である。

インタビュー調査結果

【B社】(所在地:香港、面談者:営業担当者)

  • 質問:

    香港のB2C高齢者介護市場におけるターゲット顧客層は。

    回答:

    当社では、介護者が高齢者のために商品を購入することがほとんどである。介護者はブランド名にはあまりこだわらないため、正直なところ当社の取扱い商品には有名ブランドというものが存在しない。介護者が重視するのは、その製品が自分にとって必要な機能を備えているかどうか、そしてその機能がどの程度役立つものであるかということだけである。

    介護者は通常、自分が欲しい機能や製品の種類をインターネットで調べ、情報収集する。そのため、我々販売店側は、検索エンジンの最適化によって、すべての製品情報をインターネット上で公開することが重要である。顧客はまず、インターネット上で情報を確認し、その上で実店舗に足を運んで商品を確認する。したがって、オンラインとオフラインの両方のチャネルが同じように重要である。

  • 質問:

    売れ筋製品とその理由は。

    回答:

    売れ筋は、血圧計と手首サポーターである。

    血圧計が売れるのは、医師が診察時に携帯型血圧計を買うように勧めたからというのが主な理由である。オムロンとメディサナは、医師やクリニックから勧められることが多いブランドで、顧客はブランドを特定して買いに来る。

    サポーター製品に関しては当社が専門とするところで、そのうち手首サポーターは特に売れ筋である。当社製品はインターネット検索で上位に表示されるようになっている。

  • 質問:

    B2C高齢者介護市場のトレンドとその理由は。

    回答:

    高齢者が安全に自立できるようなスマート製品が求められていると思う。

    例えば、コンロの火を一定時間経過後に自動で消してくれる装置。高齢者は自分で料理をするのが好きなため、このようなツールがあれば安全性を確保できる。

    また、転倒検出機能を備えたトラッカー(GPSで取得した位置情報をインターネット経由でスマホやパソコンに表示する端末)もまたトレンドになっている。介護者の多くは、24時間365日、高齢者と一緒にいることができないため、一人暮らしの高齢者が元気かどうか、確認するのに便利なツールである。ただし、これらのデバイスのサプライヤーは、香港消費者向けに中国語版※9のアプリを作る必要があるが、当社ではそれに加えて香港でGPS機能が正常に動作するかどうかのテストを販売開始前に行っている。グーグルマップをベースにした端末・システムであれば、大きな問題にはならないはずだ。

※9
できれば繁体字中国語(香港で通常使われる字体体系)での表記が好ましい。なお、音声ガイド機能を搭載する場合には広東語(香港で通常話される言葉で、標準語(北京語)と区別される)による音声案内が好ましい
  • 質問:

    今後、日本からどのような製品を購入したいと思うか。

    回答:

    現在、血糖値測定器を調達している。というのも、血圧計を買いに来る人からは必ずと言っていいほど、血糖値測定器のニーズがあるためだ。ただし、当社は香港ですでに人気のあるブランドの製品(オムロン、コンタープラスなど)のみを調達予定。血糖値測定器は、テストストリップと一緒に使用するため、テストストリップの在庫を確保しやすい大手ブランドが好まれることが背景にある。

    また、高齢者の介護に役立つ製品、高齢者が安全で自立した生活を送るための製品など、新しいもの、面白いものなら何でもOK。具体的にどのような製品ということを考えているわけではないが、例えば日本ではすでに広く使われているけれども、香港ではまだ紹介されていないような面白い製品があればいいと思う。

まとめ:今後参入を検討する日本企業に向けて

高齢化に伴い、拡大すると予想される高齢者介護のB2C市場では、高齢者の一人暮らしが当たり前になったことで、高齢者が自立して安全に生活するのを補助したり、高齢者の子どもが遠方から親の様子を見たりできるような高齢者介護用品の需要が高まっている。上記のような機能を果たす製品であれば、テクノロジー製品かどうかに関わらず需要がある。より具体的には、総合的な在宅監視システムや、インタビュー結果で紹介したショッピングカートの形をしたシルバーカーのような、便利で新しい製品が求められている。

また、大人用紙おむつや栄養補助食品などの消耗品は、常に安定した需要がある。香港の消費者は、予算に余裕があれば、介護用家具を導入して自宅環境のアップグレードを検討するという。現在、市場にはデザイン性の高い介護用家具が不足しており、日本の中小企業にとっては市場参入チャンスといえるだろう。さらに、介護食品は成長分野と考えられているが、市場には製品の選択肢が多くない。この分野では日本はすでに、多岐に渡る選択肢(例えば柔らかさの度合ごとに異なるソフト食など)と成熟した技術を有しており、日本の関連企業にとって大きな市場機会となる。

香港への輸入に関して、通常高齢者介護用品の輸出入には制限がないが(米国FDA規格や欧州CE規格などを必要とする産業用医療機器を除く)、製品の安全性を証明する関連証明書を申請することが望ましい。香港の顧客は日本のブランド名にあまり馴染みがないため、機能説明や安全性認証に大きく依存して購入を決定する。そのため、パッケージにすべての認証を表示し、顧客に認知してもらう必要がある。香港では、国際規格ISO、台湾のCNS規格、日本のSG規格などがよく知られているが、認証取得済の製品は、取得していない製品と比較して、より高い価格で販売できる可能性がある。

最後に、日本のブランドが初めて香港市場に参入する場合、強力な販売チームのサポートを受けられる現地の販売業者・流通業者と提携するのも一案である。現地のサポートがあれば、日本企業が必要とする顧客に必要とする商品を紹介でき、まだ市場であまり(全く)知名度のないブランドにとっては、付加価値を高めるのに役立つだろう。


作成
ジェトロ・香港事務所
執筆
ジェトロ・香港事務所プラットフォームコーディネーター 吉澤麻美
高齢者用品(BtoB)の市場概要およびバイヤーへのインタビュー報告
高齢者施設負担減へ、ジェロンテクノロジー製品を推進(香港発)
レポートの利用についての注意・免責事項
本レポートは、日本貿易振興機構(ジェトロ)香港事務所が委託先YCP Solidiance Limitedに作成委託し、2023年2月に入手した情報に基づき作成したものである。掲載した情報は作成委託先の判断によるものであるが、一般的な情報・解釈がこのとおりであることを保証するものではない。本レポートはあくまでも参考情報の提供を目的としており、提供した情報の正確性、完全性、目的適合性、最新性及び有用性の確認は、読者の責任と判断で行うものとし、ジェトロおよびYCP Solidiance Limitedは一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロおよびYCP Solidiance Limitedが係る損害の可能性を知らされていても同様とする。

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