海外発トレンドレポート

オンリーワンと高精度でメイドインジャパン堅持
(フィリピン・マニラ発)

2023年1月30日

薄れつつある日本の存在感、新・日本ものづくりへのテーマは?

「ものづくり日本」、「おもてなし日本」は過去のものになってしまうのか。今回の調査を通して痛感した対諸外国との差、メイドインジャパンの立ち位置。しかし課題を浮き彫りにし、得意分野を伸ばすことでまだまだ戦いの余地はあろう。本レポートでは日系建機メーカー大手、工作機械その他関連産業機械のローカル大手サプライヤー、日本贔屓で長く日本製機械部品を仕入れているディストリビューターの3社に話を聞き、現場のリアルなナマの声から透けて見えてくる日本の課題と今後の対応策、勝機へのヒントをお伝えする。

高性能、高精度、模倣不能の建機は売れている

A社は日系クレーンメーカーで、当地では米国大手重機メーカーなどの製品を扱うローカル代理店を通して販売している。22年より日本人を派遣し販売を強化。

  • 質問:

    市場の概況は。

    答え:

    クレーンには大きく分けてサイズ別に3種、オールテレーン(AT)、ラフテレーン(RT)、TC(トラッククレーン)とあり、弊社が主力としているところはRTである。その他の種類では、最も大型のATは日本及び欧州のメーカーが強く、小型のTC(専用または汎用トラックに架装したクレーン。トラック同様に一般道を自走可能)はメンテナンスの容易性、構造が最も単純なところから、日本メーカーから中国メーカーに取って代わられている状況である。

  • 質問:

    日本メーカーの強みは。

    答え:

    前述したように小型クレーンの分野では、既に中国メーカーも技術を習得し日本や欧米メーカーと遜色ない機械を製造し、国内需要の大きさから大量生産によるコストダウンや技術の進歩を図り存在感を増しているが、その他の弊社が得意とするRTやATでは、まだまだ日本ブランドが存在感を維持している。またATでは日本並びに欧州メーカーも強いが、例えば特に重量の大きいものを扱う現場など、ここ一番の重要な局面では、信頼感のある日本メーカーのものを、といった風潮もあるように感じる。実際ニーズも確実にある。よって日本の技術力はまだまだ強みとして健在であると思っている。

  • 質問:

    当地の代理店やユーザーが日本製品に求めることは。

    答え:

    難度の高い建機や現場では、日本企業が持つ技術力が高く評価され、ニーズもある。逆に言うと、汎用性が高くコスパを求めるような場面では、技術・ブランド・価格競争力などは勝負が難しい局面に来ていると感じている。これは建機に関わらず日本製品の率直な立ち位置なのではないか。

  • 質問:

    日本メーカーは今後どう取り組むべきか。

    答え:

    日本のメーカーはさらなる技術革新やオンリーワンを目指す意識が必要と感じる。良いものをより良く、難度の高い現場やユーザーのニーズに応える技術と信頼、これにきめ細かなアフターサービスも含めた、使い古された言葉になるが、ものづくり精神やおもてなしの心が、結局求められていると思う。またこれらの要素は一朝一夕で他国が真似できるものではないので、我々日本企業が持っている強みをますます研ぎ澄ませていく努力と鍛錬が重要と考える。

日本人に対する信頼があるからこそ弊社は日本製品の取扱いを継続する

B社は1969年設立の機械部品の総代理店。80%の仕入れ先と顧客が日本という、自他ともに認める日本贔屓ディストリビューターである。取扱い製品は機械・部品業界を幅広くカバーし、付属部品やメンテナンスも充実させ、他社と一線を画している。日本製品の良さを誰よりも熟知し実践している企業からの言葉には、多くのヒントが含まれていた。

  • 質問:

    取扱いの中心が日本製品だというが、その理由は。

    答え:

    会社の創設から一貫して日本製品を扱っている。近年は中国を始め他国製品の品質も上がり日本製品以外への需要もあるのは認識しているが、日本製品の品質とニーズはブレない。日本製品の品質に対するニーズは安定しているし、そのような製品を扱う自社の信頼にも繋がる。そこを突き詰めていたら結果的に顧客の多くが日系企業になったとも考えている。ただ徐々にシェアが縮小しているのも事実で、扱う商品のラインナップを増やすか、他国製品でも日本製品に劣らない品質のものがあれば、当社として取り入れていく柔軟性は持っているつもりだ。

  • 質問:

    日本製品と他国製品の違いは?

    答え:

    容易に想像できると思うが、まずは価格である。同種の製品を比較すると価格訴求力は圧倒的に中国はじめ新興メーカーに分がある。また、これらの新興メーカーは発注から発送までのスパンも短い。ただ機械や部品は売って終わりと考えておらず、製品の品質やメンテナンス、アフターケア、周辺製品のアクセサリーから買い替えまで、“Under One Roof”、すなわち一気通貫で一元管理した方が結果的に効率が良いと考えており、日本製品(メーカー)はそういった我々の考えを実行する上で適している。

  • 質問:

    日本製品の強み及び扱うことの利点は

    答え:

    高価格で良い品質、さらにそれに付随するアフターケア、全てが整っている体制と考える。弊社では新製品を購入する際、エンジニアを日本のメーカーに派遣し研修を受けさせ、日本と同様のメンテナンスや新しい提案ができる人員を育てている。“To see is to believe”の精神を大事にしている。またそれを可能にしてくれるのが日本製の品質や、日本人のロイヤリティ・信頼だと思う。

  • 質問:

    現在、探している商品は。

    答え:

    新しい分野として、医療機器や航空機産業に注目しており、それらに対応する高精度な洗浄機器を探している。

  • 質問:

    業界全体で売れている国の製品は。

    答え:

    中国を筆頭に、台湾、日本、アメリカ、欧州といった順番のイメージ。

  • 質問:

    どのように新製品を調達しているか。

    答え:

    リファーラル(紹介・推薦)も多いが、特に展示会をしっかりチェックしている。やはりエンドユーザーが一堂に会する機会であり、他社の動向も探ることができ、ポジショニングを検討するヒントにもなる。よいチェーンリアクション(連鎖反応)が図れる最良の機会と捉え、弊社も積極的に参加している。

B社社内。日本との深い繋がりが感じられる。

セカンドジェネレーションは価格重視!?かつては日本、今は

C社は、1986年に設立された、工作機械、板金加工機、工作機械付属品およびその他の関連産業機械の大手サプライヤーの1つ。設立当初は中古の日本製品の輸入から始まり、以来中国製品に徐々にシフト、現在は中国製品に加え主に台湾製品を扱い、トルコのメーカーなども扱う。非常に競争力のある価格で、高品質の製品を供給することにコミットしている。

  • 質問:

    現在扱っている製品とその理由は。

    答え:

    1968年の創業当初からしばらくは日本製品中心だった。この頃は日本製品と他国の製品との質の差が顕著で他に選択肢が無かったが、現在は他国も技術を身に付け、弊社は徐々に中国製品と台湾製品中心にシフトしていった。すみ分けとしては、日本製に及ばないものの近いクオリティを求めるなら台湾製、価格重視なら中国製と絞って製品を仕入れている。また納期についても日本と差があり、例えば中国・台湾製であれば4~7日で届くものが、日本製だと倍以上掛かることもある。

  • 質問:

    業界全体のトレンドは?

    答え:

    我々世代の第一世代は“メイドインジャパン”に憧れを持っていた世代で、インターネットに疎い。しかし子供たちの世代であるセカンドジェネレーションはより効率を求める傾向があり、例えば日本製をメンテナンスしながら20~25年使うくらいなら、低価格の中国製を10~15年で壊れたら買い換えれば良い、という感覚になって来ている。またSNSでエンドユーザーとの繋がりが容易になったことで、より早く手軽に調達ができる。よって弊社でも自社サイトの充実を図り、数年前に費用と時間を掛けてサイトの更新をし、情報を充実させている。今日では当たり前のことだが、私の世代では対応できないことである(笑)。

  • 質問:

    業界全体の問題点は。

    答え:

    前述したようにSNS等の普及で顧客と接点を持つことは容易になったが、これが同時にエンドユーザーとサプライヤーを直接繋ぐツールにもなってしまい、弊社の様な“ミドルマン”が飛ばされて取引がクローズしてしまう事態も発生している。しかし、そのような経緯で販売した製品に対してサプライヤーはメンテナンスの対応が出来ないため、エンドユーザーが修理だけ依頼してくるケースもあり、悩みの種にもなっている。

執筆者総評

今回、日系のメーカー、日本贔屓のディストリビューター、日本製品をあまり扱わないディストリビューターと、立ち位置の異なる3社に話を聞いた。ヒアリングを通して見えてきた共通点を要約すると下記である。

  • メイドインジャパンのクオリティはまだまだ健在。ただ競合相手が増え、パイが小さくなっている。
  • 高い技術を要する製品は、他国メーカーが真似出来ず、オンリーワンとして存在感を示すことができている。
  • 消費者マインドが「安く調達して壊れたら買い換える」になっている節もあり、「良い物を作れば売れる」という過度の思いに頼るのは危険である。逆に言うとマインドを覆すかニーズを的確に捉えられれば、高価格高品質の日本製の良さが選択される余地も十分に見いだせる。そのために展示会出展や商談会に参加し、顧客と直接コミュニケーションを取ることを通して丁寧な啓蒙、説明、マーケティング等が必要である。

作成
ジェトロ・マニラ事務所
執筆
Visum Global Philippines Inc. 井谷 厳紀
レポートの利用についての注意・免責事項
本レポートは、日本貿易振興機構(ジェトロ)マニラ事務所が委託先Visum Global Philippines Inc.に作成委託し、2022年11月に入手した情報に基づき作成したものです。掲載した情報は作成委託先の判断によるものですが、一般的な情報・解釈がこのとおりであることを保証するものではありません。本レポートはあくまでも参考情報の提供を目的としており、提供した情報の正確性、完全性、目的適合性、最新性及び有用性の確認は、読者の責任と判断で行うものとし、ジェトロおよびVisum Global Philippines, Inc.は一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロおよびVisum Global Philippines, Inc.が係る損害の可能性を知らされていても同様とします。

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