海外発トレンドレポート

中国における日本伝統工芸品市場レポート(1)マーケットイン(現地仕様)で日本の伝産品に商機
(中国・上海発)

2023年2月14日

日本の伝統工芸品産業は生活習慣、国民の生活用品に対する意識の変化によって徐々に衰退している。一般財団法人伝統的工芸品産業振興協会のデータによると、業界従事者数は1979(昭和54)年の288,000人から2016(平成28)年には62,690人へ、生産額も1983(昭和58)年度の5,400億円から2016(平成28)年960億円へと減少している。こうした日本の工芸品市場の縮小が避けられない一方、海外では日本産工芸品に魅力を感じる消費者からの人気が高まっており、中国においても富裕層を中心に購入を希望する者が増えている。

当レポートは中国における日本伝統工芸品市場および中国各地の工芸品バイヤーの取り組みに焦点を当ててシリーズで紹介をする。中国で日本産伝統工芸品を輸入販売する企業の数は明確にされていないが、業界関係者の話によると中国全体で100社を超える輸入業者が存在し、多くが上海を中心とした華東地域に集中しているという。第1回は上海の外灘に拠点を置き、京都産の工芸品を中心に取り扱う「京都ハウス」を取材し、同社事業と上海の日本産伝統工芸品市場について話を聞いた。

店内の様子(ジェトロ撮影)

マーケットインが浸透する上海工芸品市場

京都ハウスは店名のとおり、京都産の工芸品を中心に中国への輸入・販売業務を行っている。取り扱う商品の9割以上は京都産品だが、九州等の他地域の商品も一部取り扱っている。品数は陶器、漆器、鉄器、線香等を中心に合計200品目を超える。箸、皿、ティーカップといった食器が多い。

食器にも様々なデザインのものがあるが、京都ハウスの来店客はカラフルな色合いのものや、和柄が描かれているものを好む傾向がある。上海には多くの日本人が暮らし、日系小売店も多数進出している。こうした日本の暮らしが浸透している土地柄故に、日本産伝統工芸品も早くから上海に流通していたが、その多くがシンプルで地味なデザインのものばかりであった。京都ハウスの来場客は30代の女性客が多い。普段使いとしてシンプルなデザインのお皿に飽き、同店に訪れてカラフルなお皿を購入していく。また来客をもてなす場面で、ありふれたデザインのティーカップよりも和柄が描かれたティーカップの方が会話のきっかけになるということで購入していく。こうした日本産伝統工芸品の食器は関税や輸送費等が加算され、中国では高価な価格帯で販売されているが、それでも飾り物やプレゼントとしてではなく、日常使いのために購入されているという。

カラフル、和柄のものが人気(ジェトロ撮影)

近年の中国では老若男女問わず、多くの消費者がスマートフォンを片手に様々な商品をECサイト上で購入する。2021年の中国のEC小売り総額は13.1兆元で、社会消費品小売額におけるEC消費の割合は約1/4を占めた。EC消費が当たり前のように浸透する時代にも関わらず、京都ハウスはECでの販売を極力控え、店頭販売を重視している。来店客に対して商品ニーズのヒアリングを行うためである。消費者から聞き取った商品ニーズを京都在住の3名の工芸士に伝え、上海市民に受け入れられやすい作品を製造してもらい、それを調達している。彼らが作る食器は色鮮やかで、西洋のモダンアートを連想させるような作品が多い。中国では京都ハウスでのみ販売されているため、その希少性から上海以外の都市からわざわざ来店して購入していく客もいる。

また、取り扱う工芸品を使用した茶道教室、和菓子教室、日本酒体験講座といったイベントも定期的に開催し、来店客と直に交流して、工芸品に対するニーズを汲み取り、工芸品の製造に繋げる努力を欠かさない。こうしたマーケットインの発想で製造した工芸品を調達することは、上海の工芸品業者の間では既に主流なやり方であると言う。伝統工芸品と言えど、昔ながらのデザイン、スタイルに固執し、作り手が作りたいものを流通させるだけでは、やがて消費者に手に取ってもらえなくなる。中国人消費者のニーズに応じて変化を加えるからこそ、現地消費者に受け入れられるのだと言う。

契約する工芸士の作品(ジェトロ撮影)

巨大な日本食市場の上海、日本食店への販路拡大が商機

中国人には京都ファンが多く、特に上海は日本と距離が近いため、京都への旅行経験がある上海人は多い。とは言うものの、京都が好きというだけで高価な工芸品を簡単に購入してくれるわけではない。同業者も増え競争が激化している。そこで京都ハウスが模索するのが上海の日本食店への販路開拓である。取材日には日本食店オーナーが来店しており、コース料理に使用する焼物を品定めしていた。上海には日本人の板前が調理する本格的な割烹料理店も存在し、中には客単価5,000元(1元=19.3円)を超えるような高級店も存在する。これら高級店では調理する食材のみならず食器にもこだわり、料理に合わせて食器の形、大きさ、色に変化を加える店も多いという。来店していた日本食店オーナーA氏に話を聞いたところ、「お客さんに美味しい日本料理を食べてもらおうと思えば、その料理にあう食器にこだわることは当然である」と話してくれた。

2022年3月時点で上海には3,774店の日本食店があり、これは中国都市別日本食店舗数ランキングで1位である。ラーメン、回転寿司といったお手頃な価格で食べられるチェーン店はもちろん、上述のような高級日本料理店の数も増えている。中国随一の日本食市場がある特性を活かし、一般客のみならず、こうした日本食店からのニーズを引き出すことは、華東地域で食器を中心とした日本産伝統工芸品を広める上で重要な鍵となる。

2022年中国主要都市の日本料理店舗数(単位:店)

中国における2022年の日本料理店舗数は、最多が上海で3774軒、次いで広州2437軒、北京2399軒、深セン1824軒、成都1482軒、杭州1377軒、重慶1214軒、蘇州1191軒、天津1140軒、瀋陽1108軒、東莞 1049軒、武漢 1021軒、 大連 1020 軒となっている。

出所:ジェトロ「海外有望市場商流調査(中国)」


作成
ジェトロ・成都事務所
執筆
寺田俊作
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本レポートは、日本貿易振興機構(ジェトロ)成都事務所が作成し、2023年2月に入手した情報に基づき作成したものです。掲載した情報は作成委託先の判断によるものですが、一般的な情報・解釈がこのとおりであることを保証するものではありません。本レポートはあくまでも参考情報の提供を目的としており、提供した情報の正確性、完全性、目的適合性、最新性及び有用性の確認は、読者の責任と判断で行うものとし、ジェトロは一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロが係る損害の可能性を知らされていても同様とします。

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