海外発トレンドレポート

中国における高齢者サービス市場の概要(シリーズ1)
(中国・大連発)

2023年11月30日

1.サマリー

中国の65歳以上の高齢者人口は、2022年の時点で2億978万人に達し、総人口の14.9%を占めている(注1)。すでに高齢社会(65歳以上の高齢者の割合が人口の14%を超えた社会)に入っている。中国政府は「高齢化への積極的対応に関する国家戦略の実施」を政策に掲げ、高齢者ケアの促進、介護保険の整備、医療と介護の融合などを推進している。中国では高齢化の進行に伴い、今後は高齢者向けサービスに対する需要がさらに高まると見込まれている。本レポートでは、4回にわたり中国における高齢者サービス市場の現状、課題、展望を取りまとめる。

2.市場規模と成長の見通し

中国における65歳以上の高齢者人口の割合は、2035年には総人口の23.7%に達し、その前後に超高齢社会(65歳以上の高齢者の割合が人口の21%を超えた社会)に入ると予想されている(図1)。高齢者人口の増加に伴い、高齢者向けのサービスに対するニーズの増加が見込まれている。

図1.2018~2050年の中国の人口構成比と推移

2018~2050年の中国の人口構成比と推移 0~65歳未満の人口(億人) :2018年12.4億人、2019年12.3億人、2020年12.2億人、2021年12.1億人、2022年12.0億人;2023年12.0億人(予測)、2024年11.9億人(予測)、2025年11.9億人(予測)、2030年11.3億人(予測)、2035年10.6億人(予測)、2040年10.0億人(予測)、2050年度9.1億人(予測)。 65歳以上の人口(億人) :2018年1.7億人、2019年1.8億人、2020年1.9億人、2021年2.0億人、2022年2.1億人;2023年度2.1億人(予測)、2024年2.2億人(予測)、2025年2.2億人(予測)、2030年2.7億人(予測)、2035年3.3億人(予測)、2040年3.7億人(予測)、2050年4.0億人(予測)。 65歳以上が総人口に占める割合(%) :2018年11.9%、2019年12.6%、2020年13.5%、2021年14.2%、2022年14.9%;2023年15.2%(予測)、2024年15.3%(予測)、2025年15.5%(予測)、2030年19.3%(予測)、2035年23.7%(予測)、2040年27.0%(予測)、2050年30.7%(予測)。

出所:国家統計局、社会学輯刊「中国の人口マイナス成長と高齢化トレンドの予測」(2022年10月発表)

iiMedia Research(艾媒諮詢)のデータによると、2022年の中国高齢者サービス産業の市場規模は10兆3,000億元(約206兆円、1元=約20円)で、2028年には24兆2,000億元(約484兆 円、1元=約20円)に達すると見込まれている(図2)。中国の高齢者サービス産業は大きな発展の可能性を秘めている。

図2.2018~2028年 中国の高齢者サービス産業の市場規模

中国の高齢者サービス産業の市場規模:2018年6.6兆人民元、2019年6.9兆人民元、2020年7.2兆人民元、2021年8.8兆人民元、2022年10.3兆人民元;2023年度12.0兆人民元(予測)、2024年13.9兆人民元(予測)、2025年16.1兆人民元(予測)、2026年18.5兆人民元(予測)、2027年21.1兆人民元(予測)、2028年24.2兆人民元(予測)。 成長率:2019年4.5%、2020年4.3%、2021年22.2%、2022年17.0%;2023年16.5%(予測)、2024年度15.8%(予測)、2025度15.8%(予測)、2026年14.9%(予測)、2027年14.1%(予測)、2028年14.7%(予測)。

出所:艾媒諮詢「2022~2023年世界の高齢者サービス産業の発展と中国市場トレンド研究報告」(2022年7月発表)

中国の高齢者の主な収入源は、年金、家族からの経済的援助、労働収入で、2020年時点の3つの収入源の割合はそれぞれ34.7%、32.7%、22.0%となっている(図3)。2010年と比較すると、年金が10.6ポイント増加したのに対し、家族からの経済的援助は8ポイント減、労働収入は7.1ポイント減となっている。

図3. 2010年と2020年の中国の高齢者の収入源

2010年と2020年の中国の高齢者の収入源:2010年 年金24.1% 家族からの援助40.7% 労働収入29.1% 最低生活保障3.9% 財産所得0.4% その他 1.8% 2020年 年金34.7% 家族からの援助32.7% 労働収入22.0% 最低生活保障4.3% 財産所得0.9% その他 5.5%

出所:中国社会保障学会「社会保障評論」(2023年5月)

また、国家人的資源・社会保障局によると、中国の企業退職者の年金額(月額)は、2012年の1,686元(3万3,720 円、1元=約20円)から2021年に2,987元(5万9,740 円、1元=約20円)にまで上昇(注2)。高齢者の収入は社会保障により安定的に増加しており、今後は高齢者サービス産業における消費増も見込まれている。

3.発展の状況

中国全体において高齢化が急速に進展する中、中央政府は高齢者サービス業の整備、発展を推進している。まず、2011年には「9064モデル」を確立した。同モデルは、90%の高齢者を在宅で、6%の高齢者を社区と呼ばれるコミュニティで、残りの4%にあたる高齢者を施設でケアしていくとするモデルであり、同方針は現在も続いている。

一方で、親孝行など伝統的な社会通念も根強く残っており、北京市民政局の2023年5月の調査によると、実際には北京市に在住する高齢者の約99%が自宅で過ごし、コミュニティや高齢者施設でケアされている人の割合は1%未満に止まっている(注3)。ただし、今後は少子化とともに一人または夫婦のみで生活する高齢者の増加が見込まれる中、在宅ケアのみだと限界が懸念されている。

なお、これから高齢期に入る中高年齢層では、コミュニティや高齢者施設でのケアが受け入れられつつあるとの調査結果もみられる。2021年に清華大学などが行った高齢者ケアサービスの需要に関する調査によると、30~59歳の都市居住者では、コミュニティや高齢者施設でのケアを希望する人の割合がそれぞれ26.5%と20.6%に達した(図4)。

図4.中国の中高年齢層の高齢者ケアモデルに対する需要(2021年)

中国の中高年齢層の高齢者ケアモデルに対する需要(2021年) 在宅ケア 52.9% 地域ケア 26.5% 施設ケア20.6%

出所:中国老年学・老年医学学会、清華大学、大家保険集団「中国都市部の高齢者サービス需要報告(2021)」(2021年12月発表)

中国では一人っ子政策世代の親がすでに60歳を超えており、10〜20年後には1950年代や1960年代生まれが高齢者関連ビジネスの主要顧客層となる。この層は品質重視の志向が強く、家庭外において提供される高齢者向けのサービスや商品を求めるニーズも高まる見通しだ。

4.政策動向

中央政府は2013年に「高齢者サービス産業の発展加速に関する若干の意見」を公布した。同意見において、外資系企業を含む民間資本の参入を奨励する方針が示された。これを機に、異業種を含む多くの企業が同分野に参入したことから、中国では同年を「高齢者産業元年」と称している。

この流れを受けて、「高齢者ケアサービス」、「介護保険」、「医療と介護の融合」、「スマート技術の導入」、「リハビリ・福祉用具のレンタル」、「高齢者用品」、「リハビリ」、「介護人材の育成」など、さまざまな分野で関連政策が公布・実施されている。以下では主として「高齢者ケアサービス」に関する政策を取りまとめた(表)。

表 中国の高齢者ケアサービスに関する主な政策
政策名 公布部門 公布時期 概要
高齢者サービス産業の発展加速に関する若干の意見 国務院 2013年9月 平等な参加と公正な競争が可能な市場環境を整備し、社会的な力が高齢者サービス産業の柱となることを目指す。
高齢者サービスの発展を推進するための意見 国務院弁公室 2019年4月 外資系の養老機構が公設民営形式、政府調達、政府と社会資本との合作等の形式で高齢者サービス業に参入した場合、中国国内資本の企業と同等の優遇を受けるとした。
長期介護保険制度試行拠点の拡大に関する指導意見 国家医療保障局
国家財政部
2020年9月 中国の国情に即した長期介護保険制度を模索し、より公平で持続可能な社会保障制度の確立を目指す。
「第14次5カ年(2021~2025年)規画」期間の国家高齢者事業の発展と高齢者サービス体系に関する規画」 国務院 2022年2月 高齢者ケアサービスの対象範囲を拡大し、在宅及び地域での高齢者ケアサービスの強化を図ることで、高齢者の健康サポートシステムを改善し、シニアエコノミーの発展を促進する。
高齢者ケアサービスの基本システム構築に関する意見 国務院 2023年5月 基本的な高齢者ケア制度の整備推進を、高齢化に関する国家政策に積極的に対応し、基本的な公共サービスの均等化を目指すための重要任務と位置付けた。

5.課題

現在、中国の高齢者サービス産業の主な課題は以下の通りである。

(1)高齢者施設の不足

2022年時点で、中国の高齢者施設の数は40,587ヶ所、ベッド数は518万床に達した。中央政府は「第14次5カ年国家老齢事業発展・高齢者サービス体系規画」において、2025年までに900万床以上にする目標を掲げており、今後の発展ポテンシャルは大きい。一方で、高価格帯の施設を中心に空床率が高いのが現状であり、良質なサービスを手頃な価格で受けられる施設が不足している。

(2)専門人材の不足

中国の高齢者サービス産業では、体系的な研修制度が確立されておらず、専門知識を有するヘルパー、リハビリスタッフなどが大幅に不足している。

(3)高品質なケアサービスの不足

一部の高齢者施設では、サービスの質の低さや価格の不透明性、管理体制の不備、スタッフの能力向上などが課題となっており、全体的に質の高いサービスが不足している。

(4)監督管理・評価システムの不備

政府による有効な監督管理やサービスに対する統一基準の整備が求められている。

(5)消費層の意識の欠如

高齢者やその家族の高齢者施設に対する否定的なイメージが存在するのが実状であり、高齢者施設に対する認知度や受容度が比較的低い。また、認知症やリハビリサービスなどに対する知識の周知も遅れている。

(6)介護保険制度の不備及び高齢者の購買力不足

中国の介護保険制度は天津市、山東省、上海市、重慶市など計49都市・区・自治州で試験的に導入されているのみで、全土には行き渡っていない。また、高齢者やその家族の介護サービス料の支払い能力が市場拡大の大きな壁になっている。


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ジェトロ・大連事務所
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本レポートは、日本貿易振興機構(ジェトロ)大連事務所が委託先キャストグローバルコンサルティング株式会社に作成委託し、2023年11月に入手した情報に基づき作成したものです。掲載した情報は作成委託先の判断によるものですが、一般的な情報・解釈がこのとおりであることを保証するものではありません。本レポートはあくまでも参考情報の提供を目的としており、提供した情報の正確性、完全性、目的適合性、最新性及び有用性の確認は、読者の責任と判断で行うものとし、ジェトロおよびキャストグローバルコンサルティングは一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロおよびキャストグローバルコンサルティングが係る損害の可能性を知らされていても同様とします。

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