海外発トレンドレポート

市場概要およびバイヤーへのインタビュー報告環境意識の高い消費者は手頃な価格のサステナブル製品を追求
(香港発)

2023年3月2日

サステナブル消費とは、「製品のライフサイクルにおいて天然資源や有害物質の使用、廃棄物や汚染物質の排出を最小限に抑えながら、基本的なニーズに応え、より良い生活の質をもたらす製品やサービスを利用すること」※1と定義される。その需要は主に、人々がサステナブル消費の概念をどの程度意識しているかに大きく左右される。本レポートでは、香港の人々がサステナブル消費の概念をどの程度受け入れ、実践しているかを検証することから始め、香港のサステナブル消費トレンドの状況について紹介する。また現地のエコショップへのインタビュー結果を基に、香港市場参入に関心のある日本の中小企業への実用的なアドバイスを報告する。

香港の消費者は一定の環境意識があるも、意識とその行動にギャップあり

香港の消費者委員会※2は、香港の消費者のサステナブル消費に対する意識について経年比較を行う追跡調査※3(以下、本調査)を実施している。これによると、香港の消費者は2015年の時点でもサステナブル消費について一定の意識を示しており、2020年にはサステナブル消費についての意識と関連知識が若干向上していることが分かった。サステナブル消費指数(SCI)は、「消費者の意識・態度」と「消費者の行動・心構え」の2つの主要指数をカバーしており、各指数100を基準とした場合のトレンドを示している。

※1
サステナブル開発目標ナレッジプラットフォーム「サステナブル消費と生産」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
※2
消費者委員会は香港の独立法定機関であり、消費者の福祉を向上させ、消費者自身による消費者保護を推進・支援する
※3
香港消費者委員会(2021年6月)「幸せな暮らしにサステナブル消費を取り入れるー消費者行動に関する追跡調査」PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(23MB)

図表1:

出典:幸せな暮らしにサステナブル消費を取り入れる─消費者行動に関する追跡調査(香港消費者委員会)

図表1※4によると「消費者の意識・態度」のスコアは、2015年の74から2020年には77に上昇しており、消費者はすでに一定レベルの環境配慮意識を持ち、製品の製造過程や使用時に生じる環境負荷に関連した製品情報への関心が高まっていることが分かる。

同様に、「消費者の行動・心構え」のスコアも2015年の67から2020年には71に上昇しており、より多くの人が購入時にサステナブル消費を実践し、サステナブル製品に価格プレミアムを払うことを望んでいることが分かる。サステナブル製品は通常、原材料費が高いため、従来の製品よりも高価である※5

しかし、「消費者の意識・態度」(スコア77)に比べて「消費者の行動・心構え」(スコア71)が低いということは、消費者の意識と実際の行動の間にまだギャップがあることを反映している。つまり、サステナブル製品の価格プレミアムの存在によって、サステナブル消費の実践を妨げている場合があると言えよう。

本調査の中で2020年に実施されたアンケート(図表2)によると、サステナブル製品を購入する際に価格プレミアム(上乗せ価格)を払うことが許容できるという消費者は87%にのぼる。一方で、具体的な価格プレミアムとして+20%以上を上乗せしても良いという消費者は21%に過ぎない。今回我々のインタビュー調査では、香港のサステナブル製品は通常、従来の製品よりも2~3割高いということが分かったが、つまり香港の消費者はサステナブル製品に興味があり価格プレミアムを払う意思があるにもかかわらず、消費者が適切だと考える価格帯の製品を見つけるのに苦労しているということがうかがえる。

※4
2015年度は「消費者の行動」と「消費者の心構え」の2指標に分かれていたが、その後2020年度に両指標が統合され「消費者の行動と心構え」の1指標に変更された
※5
SaveMoneyCutCarbon.com「サステナブルな製品は高いのか」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

図表2:

出典:幸せな暮らしにサステナブル消費の実践─消費者行動に関する追跡調査(香港消費者委員会)

世界的なトレンドが香港のサステナブル消費を後押しするも、政府の政策は前近代的

サステナブル消費に向けた世界的なトレンドは、消費者各人の意識と購買行動の向上に大きく寄与している。本調査を実施した専門家によると、「世界市場でサステナブル製品が入手しやすくなったのに伴い、販売コストも低くなっている。同時に、香港の消費者は近年、サステナブル製品に対する支出に前向きで、関連する専門店も出てきている。専門店が増えたことで人々のグリーンコンセプトはさらに高まっている」。本レポートでインタビューに協力したA社(後述)も同様の見解を示していた。

香港におけるサステナブル製品や専門店の増加、また消費者各人の意識向上の努力とは別に、政府は関連政策や法令を制定して意識や行動の変化を促し、サステナブル消費を促進する上で不可欠な役割を担っている。例えば、スイスではゴミ処理の有料化、日本では1990年代にゴミの分別義務化が実施されている。これらの政策によって、スイスでは缶の94%、日本ではアルミ缶の85%※6がリサイクルされるなど、目に見える成果を生み出すだけではなく、消費者が日常的にリサイクルや廃棄物管理を行うことで、サステナビリティに対する概念が消費者への意識づけにつながっている。

香港におけるサステナブル消費の主要関連政策は2009年に導入されたレジ袋の環境賦課金スキームで、レジ袋有料化は日本より11年も早かった。ただし、このときのスキームでは商材によってレジ袋の料金徴収が免除されるケースが多く、消費者は長らく無料でレジ袋が入手できる状態であった。政府は、スキーム開始から13年後の2022年にようやくレジ袋有料免除の範囲を厳格化し、料金もレジ袋1枚1香港ドル(約17円※7)に引き上げられた。サステナブル消費を促すため実施できる政府の政策は少なくないはずであるが、香港政府はこうした施策の調整に遅れが目立つ。本調査ではまた、サステナブル開発に関して遅れをとる香港が世界の潮流に追いつく必要性があることを強調している。

インタビュー調査結果

【A社】(所在地:香港、面談者:日本製品調達マネージャーおよび担当者)

  • 質問:

    現在取扱中の主な製品とその販売動向は。

    回答:

    まず、食品および非食品を含む日用品に、環境に配慮した選択肢を提供する「ゼロウェイスト生活百貨店」と位置づけている。

    食品カテゴリーでは、「袋入り食品」と「量り売り食品」の両方を販売しており、一般的には「量り売り食品」の方が販売は好調である。その理由のひとつに、香港の人々が子どもの頃よく経験した、量り売りという昔ながらの買い物の面白さがある。客は自分で容器を持参して、好きな量を好きなだけ買うことができる。

    香港ではサステナブル消費の高まりに伴い「量り売り食品」を扱う店が少しずつ増えているが、当店はその代表の一つといえる。最低購入量の決まりがないので、少量ずつ買って新しいものを試したいという人にも使ってもらいやすい。また、香港では比較的入手が難しいグルテンフリー食品も豊富に取り揃えている。

    ライフスタイルのカテゴリーでは、アロマ製品やキャンドルが売れ筋となっている。香港の人々は近年、「自分の時間」を持つことを重視するようになっている。アロマ製品やキャンドルは、香港で最も人気のあるセルフケア製品である。当店は、これらの製品を多様な選択肢で提供し、財布に優しい価格を設定している。私たちの使命は、エコ製品を手頃な価格で提供し、「少しお金を多く払うだけで、好きな製品を買いながら環境保護に貢献できる」と伝えることである。また当店は独占的なブランドを数多く提供し競争力を維持している。

  • 質問:

    ターゲット顧客層は。

    回答:

    特に特定のターゲット顧客はなく、さまざまな年代の顧客がいる。しかし、90年代以降に生まれた若い世代には、若いうちからゼロウェイストの概念を取り入れてもらえるようにしていきたいと考えている。また、70~80年代生まれの世代は収入が高く、比較的高価なエコ製品を購入できる層なのでターゲットにしている。

    年齢層によって売れ筋は若干異なる。学生や90年代以降生まれはスナック菓子が人気で、70~80年代生まれはシリアルなどの日用品や生活雑貨が人気である。

  • 質問:

    顧客の特徴は。

    回答:

    若い世代(学生や90年代以降生まれ)は、購買力が限られているため、価格設定にこだわっている。また製品の外観を大事にしており見栄えの良い製品や流行の製品を求めている。一方で、それよりも上の世代(80年代以前生まれ)については、製品の成分やリサイクル性をより重視する。サステナブル製品は通常、プレミアム価格で販売されるため、どの顧客も概して製品の寿命を気にする。

    当店は年齢に関係なく、マーケット知識の観点で2種類のタイプの顧客がいる。一方は、エコ製品やそのコンセプト自体が初めてという人で、当店に立ち寄りランダムに製品を試す。中には当店のコンセプトに触発され、エコ製品にハマり始める人もいる。もう一方は、サステナブルなライフスタイルを真剣に実践し、時には私たちよりもサステナブル製品について詳しく知っている人もいる。こうした人たちは、自分たちが何を必要としているのかをよく理解した上でこの店にやってくる。

  • 質問:

    市場環境はどのようになっているのか。

    回答:

    5年前と比べると、香港ではより多くのサステナブル製品が販売されるようになり、かつ価格は安くなってきている。サステナブル製品の世界的なトレンドにより、これらの製品を製造・販売する企業が増え、より多くの製品が入手可能になった結果、競争によって価格が下がっている。

    さらに、香港では近年、環境に配慮した店舗が増え市場競争が激しくなっているが、競合他社と当社が一体となってサステナブル消費に対する社会の意識を高めているとも言うことができ、健全な競争だと考えている。環境に配慮した企業が増えれば、人々はサステナブルなライフスタイルについて学び、それを採用する人はさらに増えるだろう。

    なお、サステナブル製品はエコショップだけでなく最近では香港のどこにでもあり、従来の食料品店やスーパーマーケットでも購入できる。しかし、製品にはエコラベルが貼られていないこともあり、従来の小売店では通常の製品と一緒に並べられているのが普通である。消費者はこうした製品を区別することが難しく、知らないうちにサステナブル製品を買っていることもある。

  • 質問:

    市場の製品トレンドは。

    回答:

    新しい素材が出てくれば、それがトレンドになると思う。例えば、シリコンは以前は高すぎて販売することができなかったが、今では材料価格が下がり、シリコンがサステナブル製品の新素材として新しくトレンドになった。新素材を好むトレンドは、香港だけでなく、どこの国でも同じである。

    香港市場に関しては、明確なトレンドがあるわけではないが、一般的に香港は常に欧米より一歩遅れていて、欧米で人気の製品はたいてい1〜2年後に香港市場に持ち込まれる形だ。

    また、政府の政策も香港の製品トレンドに影響を与えている。例えば、レジ袋有料化が実施され、再利用可能なエコバッグの人気が高まっている。

    さらに、インフルエンサー(KOL)によるプロモーションは、サステナブル製品を若者に広める効果的な手段である。彼らが発信するコメントは香港の製品トレンドの重要なドライバーとなり得る。

  • 質問:

    日本発のサステナブル製品に対する消費者の一般的なイメージは。

    回答:

    日本発でサステナブル製品、という印象はあまり強くない。日本製品といえば、見た目や最先端技術、細部まで配慮されたデザインという印象が強い。一方、欧米の製品は、環境に配慮した製品であることがより評価されている。例えば香港の人々は、ある製品がニュージーランド製だと聞けば、「サステナブルな方法で作られているのでは」と連想したりする。日本の製品であれば、サステナブル製品かどうかのダイレクトなイメージはなく、ラベルにある製品詳細を確認した上で判断される。

  • 質問:

    製品の調達基準と調達時に考慮する主な要素は。

    回答:

    新製品の市場導入を検討する際には、まずその製品カテゴリーの店頭でのランキングや、ブランドイメージに合っているかどうかをチェックする。そして原材料の環境配慮を調べる。エコラベルのついた製品が望ましいが、なくてもサプライヤーが環境に配慮した製品であることをきちんと説明できれば問題ない。

    ひとつだけ強調しておきたいことは、当社はゼロウェイストの店だということである。したがって製品自体はリサイクル可能でも、パッケージがそうでない場合は仕入れることが難しい。

  • 質問:

    日本からどのような製品を調達したいと思うか。

    回答:

    特に日本のホームケア製品は、欧米諸国の製品よりもアジアの人の好みに合うので、ぜひ調達したいと思っている。例えば、欧米の酵素洗剤の中には香港の消費者が苦手とするような強い匂いのものがあるが、日本の酵素洗剤はそのようなことはなく心地よい香りのものが多い。その他、アロマ製品やキャンドルなどの生活雑貨にも興味がある。

    日本からのOEM製品も積極的に開拓していきたい。しかしこれまでの経験からするとコストが高すぎるため、小売価格は高くなる。私たちの市場では、同じ小売価格ならOEM製品よりも定評あるブランド製品の方が競争力がある。

    もちろん、価格がリーズナブルで上述の調達基準をクリアできるものは何でも検討対象である。

  • 質問:

    日本から製品を調達する際に苦労した点はあるか。

    回答:

    日本から製品を調達する際には、いくつかの困難があった。日本のブランドは製品に付随するパッケージが多い。当社はゼロウェイストの店を標榜しているので、パッケージも含めてリサイクルできない部分があると、製品を仕入れることが難しい。

    香港と異なり、日本ではゴミの分別システムが非常に発達しており、自治体によって程度は異なるが全住民にゴミの分別が義務付けられている。日本の人々は普段からリサイクルできるものを分別しており、パッケージがリサイクル可能な素材でできていれば、それに応じてリサイクルされることになる。一方香港に関して言えば、ゴミの分別は任意で分別システムも体系化されていない。このため日本の製品に付随する過剰な包装は、その素材がリサイクル可能かどうかにかかわらず、香港ではそのまま埋め立てられることになる。当店のゼロウェイストのコンセプトにそぐわないのだが、当社が調達したいと思う日本製品の多くはこの問題があると思う。日本のサプライヤーから仕入れるときは、不要な包装をなくすよう交渉を試みているが、少量で調達することが多い当店の要求には応じてもらえないことが多い。

    また、日本のサプライヤーは通常、1つか2つの製品タイプに焦点を当てており、多くの種類を提供してくれない。例えば、欧米のブランドは通常30~50のSKU(在庫管理上の最小品目数を数える単位)を取り扱うが、日本のサプライヤーは3~5のSKUしか扱っていないことがある。そのため、最初の段階では各SKUを少量ずつしか発注できず、SKU数が少ないが故に出荷量も極端に少なくなり出荷コストが高くつく。このような理由で、調達プロジェクトの多くが中止となった。こうした問題を解消するため、日本の卸業者から輸入することもある。

まとめ:今後参入を検討する日本企業に向けて

香港の消費者は、サステナブル消費というコンセプトを認識してきており、そのようなライフスタイルを送ることを望んでいるといえる。しかし、サステナブル製品の価格プレミアムは、意識と行動のギャップを生む主な要因の一つである。さらに、前近代的な政府の政策がサステナブル消費の文化をあまり促進していないことも、香港がサステナブル消費を含む全体的な持続可能性の発展という点で常に諸外国から一歩遅れている理由の一つである。

香港の消費者はサステナブル製品に意欲的だが、従来の製品と比べて価格プレミアムがあまり高くないものを求めている。具体的には、通常の製品に対して1.2倍を上回らない程度の価格プレミアムであれば興味を持つだろう。また日本のサステナブル製品は、一般的にアジアの人の好みに合うデザインであるため、香港市場では欧米の同製品よりも優位性が高い。

香港市場への参入を考えている日本の中小企業は、パッケージデザインの改善やエコラベルの取得により、製品のエコイメージを強化すると良いだろう。グリーンイメージの強化は、サステナブル消費に真剣に取り組んでいる香港の消費者を惹きつけ、特に日本製品であれば人間中心のデザインや見栄えだけでなく、環境にも配慮した製品であることを理解してもらうことができるだろう。また、香港の一般的な食料品店やスーパーで販売する場合、従来の製品との差別化に役立つ。補足情報だが、香港で特段認知度の高い特定のラベルは存在せず、消費者やバイヤーが認識できる形で製品に何らかのラベルが貼ってあれば十分である。

また、香港の多くのエコショップがゼロウェイストのコンセプトを採用しているため、不要なパッケージを減らすことが重要である。最小限のパッケージデザインは、香港のバイヤーや真剣にサステナブル消費を実践している人々にとって、より魅力的な製品に映るはずである。

なお、日本側のウェブサイトには英語で製品情報一式を整備することを強く推奨する。香港のエコショップの多くは、日本の小規模なサプライヤーの製品に興味を持っているものの、日本語が分からない場合がほとんどである。

ほかに言語の問題を解決する方法として、香港のバイヤーと強いコネクションを持つ日本の卸売業者と協力することが挙げられる。言葉の問題を解決するだけでなく、バイヤーが製品調達にあたり卸売業者を通して他の製品と一緒に発送できるため、インタビュー結果で挙げられたような「送料が高い」という問題の解決にもつながる。

最後になるが、環境に関するB2C製品では一般的に注意が必要な特定の輸出入規制はないため、標準的な手続きで製品を輸出することが可能である。


作成
ジェトロ・香港事務所
執筆
ジェトロ・香港事務所プラットフォームコーディネーター 吉澤麻美
市場概要およびバイヤーへのインタビュー報告
グリーンビルディング市場、緩やかに成長見込み(香港発)
レポートの利用についての注意・免責事項
本レポートは、日本貿易振興機構(ジェトロ)香港事務所が委託先YCP Solidiance Limitedに作成委託し、2023年2月に入手した情報に基づき作成したものである。掲載した情報は作成委託先の判断によるものであるが、一般的な情報・解釈がこのとおりであることを保証するものではありません。本レポートはあくまでも参考情報の提供を目的としており、提供した情報の正確性、完全性、目的適合性、最新性及び有用性の確認は、読者の責任と判断で行うものとし、ジェトロおよびYCP Solidiance Limitedは一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロおよびYCP Solidiance Limitedが係る損害の可能性を知らされていても同様とする。

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