海外発トレンドレポート

中国におけるリハビリサービスの現状と課題(シリーズ3)
(中国・大連発)

2023年11月30日

1.サマリー

中国における身体機能喪失や認知障害のある高齢者数は4,500万人超となる。85歳以上の約半数が、何らかの機能障害を抱えている。高齢化に伴うリハビリサービスの需要増を背景に、中国政府も医療改革を推進している。3段階のリハビリ医療制度を導入しているが、リハビリ医療施設や病床数、専門ケア人材の不足が深刻だ。中国で行われているリハビリは病後の機能回復が中心だが、一部の高級高齢者施設などでは、予防型のリハビリにも注目が高まっている。今後はリハビリサービスならびに関連の人材育成に対する需要の増加が見込まれる。

2.市場の概況

中国国家衛生健康委員会によると、中国では4,500万人超の高齢者が機能喪失・認知障害を抱えている(注1)。中国の調査会社・智研諮詢が実施した60歳以上の高齢者に占める要介護者の割合の調査では、60〜64歳では軽度の要介護者の割合が全体の8.0%、中・重度では5.8%となっている。しかし、85歳以上になると、それぞれ20.9%と24.9%にまで上昇し、合わせると全体の半数近くに上っている(図1)(注2)。

図1.中国における60歳以上の高齢者の健康状態(2021年)

中国における60歳以上の高齢者の健康状態(2021年):60-64歳:完全自立 86.2% 、軽度の要介護者8.0% 、中・重度の要介護者5.8%、65-69歳:完全自立 71.7% 、軽度の要介護者14.7%、中・重度の要介護者13.6%、70-74歳:完全自立 70.3% 、軽度の要介護者18.2%、中・重度の要介護者11.5%、75-79歳:完全自立 62.8% 、軽度の要介護者19.1%、中・重度の要介護者18.1%、80-84歳:完全自立 62.1% 、軽度の要介護者15.9% 、中・重度の要介護者22.0%、85歳以上:完全自立 54.2% 、軽度の要介護者20.9%、 中・重度の要介護者24.9%

出所:智研諮詢「2023-2029年中国リハビリ医療業界市場全景調査及び投資策略研究報告」(2023年2月公表)

現在、中国のリハビリ医療制度は、「三級総合病院リハビリ科+二級リハビリ専門病院+地域衛生サービス機関」の3段階で構成され、患者のリハビリ期間や症状の重さに応じて、対応する施設が分かれている(表1)。

表1 中国のリハビリ医療制度
施設(*) 現状 機能 対象 期間 介入時期
三級病院リハビリ科 ベッド数が不足。経済的に未発達な地域では特に供給不足が深刻 早期のリハビリケアが中心。回復後は下級施設に転院 疾病や急な治療を要する急性期患者 3~4週間 早期
・二級病院リハビリ科
・リハビリ専門病院
リハビリ専門人材やリソースが不足 専門的なリハビリケアを提供 治療を受けたが依然として入院してリハビリケアを受ける必要のある患者 3ヶ月 中期
・社区衛生センターリハビリ科
・デイケアセンター
・在宅リハビリ
基礎医療機関の設備不足。専門人材不足 基礎的なリハビリサポートを提供 入院の必要がない 回復期の患者 長期 後期

医療と介護ケアを連携させるコンセプトの広がりを背景に、リハビリサービスを導入する高齢者施設も増えつつある。民間の商業養老保険を扱う大手保険会社のなかには、自社で高齢者施設やリハビリ病院の運営またはリハビリ士によるサービスを提供しており、保険商品と高齢者向けサービスをリンクさせる動きも見られる。その他、介護施設が医療機関と提携し、施設の高齢者向けの医療サービスを提供するところも増えており、一部にはリハビリサービスも含まれている。

高齢者向けリハビリサービス施設の一例として、創心会(岡山県)は、中国提携先企業と共同で重慶市にリハビリ型のデイケアセンターを設立した。2021年10月から運営を開始し、現在は主に脳卒中患者や病後の高齢者、認知症高齢者、一般高齢者を対象にサービスを提供している。日本式のリハビリ理念を取り入れ、高齢者の自立生活能力の強化を目標に掲げ、グループ形式でリハビリ訓練を実施している。グループ形式は、高齢者一人あたりのコストを削減すると同時に、高齢者の社交ニーズにも応えられるのがメリットといえる。現時点で約800名の利用者が、平均週1〜3回サービスを利用している。

3.医療保険と介護保険のリハビリにおける運営状況

現在、中国のリハビリは主に医療保険の還付制度に頼っている。適用範囲は医療機関のリハビリ科、医療保険の適用が可能な一部のリハビリ専門病院、社区衛生中心(コミュニティ保健センター)のリハビリ科での治療に限定されており、高齢者施設や民間のデイケア施設でのリハビリには適用されない。

リハビリの医療保険適用率は低く、都市によって方針も異なるのが現状である。主に29項目(日常生活能力評価や総合リハビリ評価など9つの評価型項目と、運動療法や片側麻痺肢体総合訓練など20の治療項目)が医療保険の適用対象項目となっている。また、当該地域の戸籍がない他地域からの患者の場合、病院での治療費は医療保険の対象となるが、リハビリは対象外となるケースが多い。

中国では2016年から一部の都市で試験的に介護保険を導入しており、現在では計49都市・区・自治州で実施されている。試験実施地域では、各地域の実情に合わせて独自のプランで実施していることから、サービスの利用者、利用可能なサービスなどの点でばらつきが見られる。比較的共通する点として、要介護度が重度の高齢者を対象にしているところが多いこと、利用可能なサービスは施設サービスに集中していることが挙げられる。試験実施地域でリハビリサービスが介護サービスの一環として提供される場合は、介護保険が適用される。上海市などデイケアにも介護保険が利用可能な地域では、日本の生活リハビリの内容をデイケアの一環として導入している日系の介護施設もみられる。

4.リハビリ関連政策動向

中国政府は、リハビリ産業の発展促進のため、リハビリケア、リハビリ補助具、医療・ケアの連携、健康知識の普及、機能喪失した高齢者への経済的サポートなどの政策を打ち出している(表2)。

表2 中国のリハビリ関連政策
政策名 公布部門 公布時期 概要
リハビリ医療施設、護理施設の基本標準と管理規範(試行)に関する通知 国家衛生計生委員会 2017年10月 リハビリ医療施設や護理施設の設置・管理基準について制定。
リハビリ・医療分野の発展の促進を加速化する意見 国家衛生計生委員会 2021年6月 2022年と2025年までの10万人あたりのリハビリ医師とリハビリ治療士の人数を規定し、人材育成の目標を明確化。また、リハビリ病院や総合病院におけるリハビリサービスの整備も求めた。
高齢者向け保健サービスの全面的強化に関する通知 国家衛生健康委員会、全国老齢弁公室、国家中医薬局 2021年12月 高齢者のケガ予防、疾病予防、リハビリなどの分野におけるケアサービスの強化。
医療・ケア連携の更なる推進に関する指導意見 国家衛生健康委員会
発展改革委員会、教育部など
2022年7月 医療資源が豊富な地域の二級医療機関や下級医療機関の変革により、リハビリ、介護、医療とケアの連携などのサービスを提供。
高齢者事業の強化・推進の実施状況に関する報告 国務院 2022年8月 リハビリ病院やリハビリ施設の改築・拡張、業務転換などにより、その機能強化を実現。訪問医療サービスの高齢者施設への拡張を推進。
内需拡大戦略プラン(2022~2035年)の概要 中共中央
国務院
2022年12月 家庭と地域型施設との連携強化により、医療、ケア、リハビリを組み合わせた高齢者ケアシステムの整備を急ぐ。
介護施設におけるリハビリサービスの規範 民政部 2023年11月 養老施設のリハビリサービスのサービスフロー、サービス内容・要求、サービス評価・改善などを規範。
在宅におけるリハビリサービスの規範 民政部 2023年11月 在宅のリハビリサービス内容、サービス提供組織に対する要求、サービスフローなどを規範。

5.市場のニーズ

中国でのリハビリに対する認識は、主に病後や術後のリハビリ治療にとどまっている。理学療法とほぼ同一視され、理学療法の機械治療や漢方の灸などと同様に、受け身のものと捉えられている。高齢者の機能維持や予防リハビリに対する意識はまだ高くない。

日本の介護施設で導入されている生活リハビリのように、基礎体力や筋持久力、平衡感覚の強化を主とする運動リハビリや、着替え、トイレ、入浴などの日常生活訓練、視覚・大脳の認知訓練などに重点を置いたやり方は、中国人の考えるリハビリとは大きく異なっている。

一方で、中国で日本の生活リハビリの理念とノウハウの導入に取り組んでいる関係者によると、実際に日本式のリハビリサービスを受けた高齢者の多くが、身体機能が向上したと感じ、サービスに対する大きな満足感を表明しているという。今後、宣伝をさらに強化すれば、市場のニーズを発掘することは十分可能と指摘している。特に認知症や80歳以上の高齢者のリハビリには大きな需要が期待できる。

近年、中国では認知症に関する社会の注目が高まり、関連報道も増えている中、高齢者の認知症予防に対する意識や対策に対する関心も高まっている。また身体能力を維持し、衰えを遅らせて、自立した生活能力を保ち、家族の負担を軽減したいと考える高齢者も増えている。

課題は高齢者の予防対策費用への支払意思と支払能力である。中国人の多くが、無形のサービスにお金を払うことにあまり積極的ではなく、有形の商品や効果が目に見える治療を好む傾向がみられる。医療保険や介護保険が機能維持型・予防型のリハビリに適用されないことも、中国におけるリハビリの発展を制限する大きな要因となっている。

6.日本企業の参入時の注意点

中国では、要介護の高齢者、認知症患者、障害者の多くが自宅で生活しており、施設でリハビリケアを受けている人は少数に限られている。介護サービスを行う日本企業が中国のリハビリ市場の開拓を望む際には、以下の点に注意する必要がある。

(1)現地化

中国におけるリハビリ概念は相対的に遅れており、また地域によっても大きな差が存在する。日本企業は高齢者ケアに関する豊富な経験を有しているが、それを直接中国に導入できるとは限らない。現地の状況をよく理解し、現地化すべきところと日本のノウハウを導入すべきところの融合が必要である。

(2)習慣の違い

中国人はリハビリよりも治療に重点を置く傾向があり、生活リハビリなど早期予防対策に対する意識が乏しい。 参入の際は、市場の啓蒙を重要視し、高齢者や家族側の認知度を向上させる取り組みが求められている。

(3)支払能力

中国の高齢者はサービスへの支出に消極的であり、政府の保護措置や優遇政策を求める傾向が強い。一部の高所得層を除き、多くの一般市民は価格に敏感であるため、自己負担が重い有料のデイケアや訪問リハビリサービスへの受容度は高いとはいえない。

(4)人材育成

中国ではリハビリ専門人材が不足している。日本企業は提携ニーズのある中国企業と提携し、日本式の研修システムを導入すると同時に、人材を日本に派遣し、日本式の介護を肌で感じさせることも一考に値する。


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ジェトロ・大連事務所
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本レポートは、日本貿易振興機構(ジェトロ)大連事務所が委託先キャストグローバルコンサルティング株式会社に作成委託し、2023年11月に入手した情報に基づき作成したものです。掲載した情報は作成委託先の判断によるものですが、一般的な情報・解釈がこのとおりであることを保証するものではありません。本レポートはあくまでも参考情報の提供を目的としており、提供した情報の正確性、完全性、目的適合性、最新性及び有用性の確認は、読者の責任と判断で行うものとし、ジェトロおよびキャストグローバルコンサルティングは一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロおよびキャストグローバルコンサルティングが係る損害の可能性を知らされていても同様とします。

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