海外発トレンドレポート

ドイツにおける太陽光発電の「いま」
―見本市「Intersolar Europe」から見る業界最新動向―
(ドイツ・デュッセルドルフ発)

2024年3月13日

ドイツの再生可能エネルギー法(EEG)では、2030年までに電力消費量に占める再生可能エネルギーの割合を80%に高める目標が掲げられている※1。ドイツ連邦経済・気候保護省は中でも、太陽光発電を再生可能エネルギー(再エネ)の中で最も安価なエネルギー源の一つで、将来的にも最重要発電源の一つと明確に位置付けている※2。実際、ドイツでは2023年に電力消費量に占める再生可能エネルギーの割合が初めて50%超となった中、太陽光は陸上風力に次ぐ電源となっている※3。このように、ドイツでは太陽光発電の重要性はますます高まっている。本レポートでは、「Intersolar Europe」での企業へのインタビュー調査を含めた太陽光発電産業の市場概要を報告する。

大盛況を収めた「Intersolar Europe」

南部バイエルン州の州都ミュンヘンにある展示会場メッセ・ミュンヘンで毎年開催される「Intersolar Europe」は、太陽光発電、太陽熱発電、太陽光発電所の分野に焦点を当てた、世界有数の太陽光発電産業の見本市である。“Connecting Solar Business(ソーラービジネスをつなぐ)”をモットーに、メーカー、サプライヤー、販売業者、サービスプロバイダー、デベロッパー、プロジェクトプランナー、そしてスタートアップが世界中から集まるため、業界の最新技術や動向、トレンドなどを掴むことができる。

2023年は6月14日~16日の3日間にわたり開催された。欧州最大のエネルギー産業プラットフォームの枠組み「The smarter E Europe」の中で、「Intersolar Europe」は、エネルギー貯蔵、エレクトロモビリティ(Eモビリティ)およびエネルギーマネージメント、ネットワーク化されたエネルギーソリューションの3つのエネルギー見本市と共に、記録的な盛況となった。「The smarter E Europe」全体のテーマは、再生可能エネルギー産業およびEモビリティにおける革新、ビジネスモデル、トレンドである。特に、電力、熱、モビリティの各分野をインテリジェントに結びつけるためのソリューション、例えば、太陽光発電、蓄電池、ヒートポンプ、Eモビリティの組み合わせの可能性や、インテリジェントな電力網への統合に焦点が当てられた。

会期後の主催者のメッセ・ミュンヘンの発表によると※4、「Intersolar Europe」含む「The smarter E Europe」全体の出展社数は、47カ国から2,469社、来場者数は164カ国から10万6千人以上となり、過去最大規模且つ最も国際色豊かなものとなった。この数字の伸びは、エネルギーとモビリティの世界の変革にますます注目が集まっていることを顕著に示しており、電気、熱、輸送のいずれにおいても、24時間持続可能なエネルギー供給のための再生可能エネルギーへの需要の高まりが伺える。

展示会出展者へのヒアリング調査

(1)大手モジュールメーカー

このメーカーは、米国、韓国、マレーシア、中国に生産拠点を置き、R&Dの拠点をドイツ、韓国、マレーシア、中国に有している。品質マネジメントシステムとして、生産拠点で製造した製品をドイツの拠点で定期的に試験する仕組みを取ることで、高品質を維持している。中国で生産を行ってはいるものの、他国にも生産拠点を持っているため、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って生じたサプライチェーンの寸断による影響は少なかった。同社ではモジュール・システムの製造・販売だけではなく、蓄電システムや太陽光発電を利用した充電インフラ(充電スタンドやウォールボックス)の拡充等も事業領域として取り扱うなど事業拡大も行われている。コーポレートコミュニケーション部長によれば「業界としては需要が右肩上がりのため、売り上げは好況だ。あえて業界としての課題を挙げるのであれば、施工業者の不足である」という。今後、さらなる太陽光発電の導入数増加を見込む中、人材不足は業界として取り組むべき課題のようである。

(2)大手デベロッパー

グローバルにサービスを展開するこのデベロッパーは、コントロールセンターをドイツ、タイ、米国に置き、365日24時間体制で管理をしている。話を聞いた同社の経営戦略・エネルギー政策&サステナビリティ部長は、「アジアは重要な牽引役であり、良きパートナーを持つことが鍵である」と言う。同社は日本にも拠点を持つが、ソーラーパークの事業参入の際には、用地取得や電力買取制度、その他の許認可申請手続き等で困難な場面もあったようである。引き続き同氏によれば、「太陽光パネルは中国企業のシェアが圧倒的であり、その理由は価格であるが、価格だけではなく品質も良い」という。出力クラスやメーカーによって価格は異なるものの、中国企業と欧州企業のモジュール価格差はおよそ20%~30%程度である。ドイツのモジュールメーカーのさらなる競争力強化のため、業界団体ソーラーパワー・ヨーロッパの副会長も務める同氏は、「政治家への働きかけを行っている」という。最後に、施工業者の不足についても聞いてみると、「各工程における役割の最適化・分担が必要である」との回答があった。太陽光発電システムの設置は資格のある電気技術者のみが行う必要があるものの、モジュールを屋根に運ぶ作業や基礎部分への取り付け等は必ずしも電気技術者である必要はないことから、改善の余地があるとの意見。一方で、技術者の養成および外国人技能労働者の受入れも積極的に行っていかなければならないとの見方であった。

Intersolar Europeに出展する太陽光発電関連企業のブースの様子

出所:筆者撮影

出展者へのヒアリングを通じて、太陽光発電分野はドイツにおいて成長産業であり、各社が恩恵を受けている様子が伺えた。一方、熟練労働者の不足に関しては、複数の企業から言及があった。実際、ドイツでは複数メディアが、ドイツソーラー産業連盟(BSW)のケーニッヒ・カルステン会長の試算によると、「連邦政府が計画しているドイツでの太陽光発電の拡大には、さらに約10万人の労働者が必要だ」という発言を報じている。サプライチェーンの中国への依存においては、ある大手インバーターメーカーは「大きな影響を受けた」と言い、サプライチェーンの見直しを迫られたという。影響の有無は様々であるが、サプライチェーンの多様化という課題認識は持っている様子であった。日本企業や日本製品について具体的な要望などは挙がらなかったものの、革新的な技術や製品などがあれば紹介を希望する企業がほとんどであった。

ドイツにおける太陽光発電戦略

ドイツでは、EEGにより太陽光発電の設備容量を2030年までに215ギガワット(GW)とすることを法律で定めており※5、エネルギー転換において重要な貢献を果たすと期待されている。連邦ネットワーク庁の発表※6によると、太陽光発電の設備容量は2023年に14.1GW増となりドイツ全体で81.7GWになったという。2026年以降は、年間22GWもの容量増加が予定され、その半分は地上設置型、もう半分は屋根設置型になる見込みだ。

さらなる太陽光発電の拡大を大幅に加速させ、これまでペースアップを妨げてきた障壁を取り除くために、2023年5月、連邦経済・気候保護省は、各連邦州や業界団体と協議の上で策定した包括的な太陽光発電戦略を発表した※7。本戦略では、計11の分野における対策が掲げられている。例えば、地上設置型システムの計画・認可手続きの迅速化、商業施設や集合住宅における屋上設置型の促進、自治体や市民の参画強化などが予定されている。また、バルコニーに設置する太陽光発電システムの設置登録手続きも簡素化され、導入が促進される見通しである。この太陽光発電戦略は、2つの「ソーラー・パッケージ」として、実行される予定であり、8月16日に太陽光発電の普及拡大に関する法律案として第一弾の「ソーラー・パッケージ I 」が閣議決定された※8。多くの措置により、煩雑な行政事務が緩和されることで太陽光発電システムの建設と運用がより簡単になり、太陽光発電の拡大が加速されることが期待される。

おわりに

太陽光発電において、日本メーカーは2000年代前半頃まではシャープが太陽電池生産量で世界1位となり、他企業も上位を占めたように世界市場を牽引していた※9。しかしながら、その後は価格競争に敗れ、撤退を余儀なくされる企業が相次いだ。国際エネルギー機関(IEA)の「太陽光発電のグローバルサプライチェーンに関する報告書」※10によると、2022時点において、ソーラーパネルの全製造工程(ポリシリコン、インゴット、ウェハー、セル、モジュールなど)における中国のシェアは80%を超え、中国が世界市場を独占している。加えて、2025年までに、世界のポリシリコン、インゴット、ウェハーの生産における中国のシェアはほぼ95%に達するとの分析を示している。同報告書ではサプライチェーンの集中はエネルギー転換に潜在的な課題をもたらすとし、解決策としてサプライチェーンの多様化を挙げ、そのためには各国政府の政策による後押しが必要不可欠だとした。また、IEAの「再生可能エネルギー2022」では、米国やインドでは、製造拠点に対する補助金に加え、太陽光発電システムへの輸入関税と現地調達に対する税額控除などにより、デベロッパーの国産製品購入が奨励されていることを紹介しており、このような中国企業への牽制措置および自国企業の優遇措置による生産の地理的分散が進むことにより、世界のソーラーパネルの製造における中国のシェアは2027年までに、製造分野によっては、現在の80~95%から60~75%へと大幅に縮小する可能性があると報告している※11

ドイツの太陽光発電のサプライチェーンの現状は、依然として中国に大きく依存している。連邦統計局の発表※12によると、2022年にドイツが輸入した太陽光発電システムのうち、36億ユーロ相当、実に87%が中国からの輸入であった。しかしながら、モジュールのドイツでの生産量も急増しており、2022年1月から9月までの期間には前年同期比44%増の290万システムが製造された。ドイツのソーラー産業が太陽光ブームから恩恵を受けるためには、エネルギー政策と産業政策の同時支援策が必要という業界の声は強く、今後の具体的な政策に注目が集まる。


作成
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所
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本レポートは、日本貿易振興機構(ジェトロ)デュッセルドルフ事務所が委託先EE エナジー・エンジニアーズに作成委託し、2024年3月に入手した情報に基づき作成したものです。掲載した情報は作成委託先の判断によるものですが、一般的な情報・解釈がこのとおりであることを保証するものではありません。本レポートはあくまでも参考情報の提供を目的としており、提供した情報の正確性、完全性、目的適合性、最新性及び有用性の確認は、読者の責任と判断で行うものとし、ジェトロおよびEE エナジー・エンジニアーズは一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロおよびEE エナジー・エンジニアーズが係る損害の可能性を知らされていても同様とします。

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