海外発トレンドレポート

フィリピンにおけるコンテンツ産業市場調査
(フィリピン・マニラ発)

2023年10月27日

1.サマリー

エンターテインメント産業が盛んなフィリピンは、日本のアニメ・音楽コンテンツが最も浸透している市場の一つである。70年代に始まった「ボルテスV(ファイブ)」の爆発的なヒットにより、日本のアニメは身近なものになった。近年もワンピース(実写版)やマリオブラザーズ、ドラマ「First Love」など、日本産コンテンツが益々勢いを増している。

フィリピン市場の特徴は、人々の英語の習熟度が高く、歴史的に欧米諸外国の影響を受けているため、海外のコンテンツに対する抵抗が低いことだ。近年はKポップも市場に強い影響を与えている。本レポートは、フィリピン国内で人気のアニメや音楽の特徴や傾向を捉え、今後日本の事業者が取るべき考え方、行動の指針を与える事を目的にまとめた。

2.市場規模

フィリピンのアニメ・ゲーム開発業界は質の高い雇用の源泉として注目されている。2022年、アニメーションとゲーム開発を含むデジタル・インタラクティブ商品・サービスは、3,250億ペソ(約8,760億円)以上、国内総生産の20%以上を生み出した。この分野の雇用成長率は4.5%で、従業員数は388,838人だった。

3.フィリピン産アニメ(ピノイアニメーション)の歴史・特徴

ピノイアニメーションの歴史は古く、1950年代まで遡る。産業として認識されるようになったのは1980年代からで、オリジナルコンテンツのアニメ制作は、1990年代後半にスタートした。学校の授業の題材としても扱われる「Ibong Adarna (1997)」を始め、「Urduja (2008)」、「Dayo- Sa Mundong Elementalia (2008)」、「RPG Metanoia (2010)」、「Saving Sally (2016)」などが有名だ。産業全体の特筆すべき点は、フィリピンのアニメーションスタジオがウォルト・ディズニー・スタジオやカートゥーンネットワークなどの制作パートナーとして、世界的なアニメーション産業でその名を轟かせていることだ。個人としても著名なアニメーションスタジオに所属するクリエーターを多数輩出し、ピクサー アニメーション スタジオの作品などでその才能を発揮している。

フィリピン国内の主なアニメーションスタジオ(ゲームディベロッパーも含む)
  • Definite Studios
  • Keyword Studios
  • Top Peg Animation & Creative Studio Inc
  • Taktyl Studios
  • Animation Vertigo Asia, Inc.
  • Polywick Studio
  • Zeenoh
  • Job and Esther Technologies
  • ThinkBIT Solutions
  • Kooapps
  • UWORKS INTERACTIVE LABS, INC.
  • Artistryware, Inc.
  • Assistasia Philippines, Inc.
  • Neun Farben Corporation

出典:BOIの資料から抜粋

業界団体
  • Game Development Association of the Philippines
  • Animation Council of Philippines, Inc.

出典:BOIの資料から抜粋

フィリピンで制作されているローカルアニメの多くの作品はNetflixなどで配信されている。「Trese」はフィリピン人クリエーターのBudjette Tan、Kajo Baldisimo作のホラー漫画で、フィリピン初の漫画原作のアニメーションである。Shay Mitchell、Liza Soberanoなど国内外で活躍する人気俳優を声優に起用している。「Hayop Ka!」はマニラ首都圏のカラフルな世界を背景に、古典的な三角関係の物語を描きながら、階級というテーマに取り組んだ魅力的な作品である。この作品は、2020年10月からNetflixで上映された初のフィリピン産アニメであり、制作に3年以上を費やしたことから、フィリピンアニメ業界では偉業とされている。フィリピンのブティックプロダクションであり、受賞歴もある「Rocketsheep Studio」が制作をしている。

4.トレンドの分析

フィリピンにおいて日本のアニメを語る上で外せないのは、「ボルテスV」だろう。1978年に大手テレビ局、GMAで放送が始まった同アニメは、テレビの普及などの時代背景も含め、国民的アニメとなり、主題歌の知名度は国歌に次ぐとさえ言われている。その後90年代にフィリピン語吹き替え版の日本アニメブームが到来し、「犬夜叉」「幽☆遊☆白書」「スラムダンク」「ドラゴンボール」「るろうに剣心」などが人気を博した。「るろうに剣心」の実写版が上映された際には、アジアプレミアがフィリピンで行われ、主要キャストや監督が訪れた。音楽においても、スラムダンクの主題歌「世界が終わるまでは」が人気となった。

5.市場の構造

フィリピンは古くから海外のアニメ業界へ人材を輩出し続けてきた。フィリピンのアニメーターが海外のスタジオから好まれるのは、東洋と西洋双方の文化的理解度があり、高い芸術性を持っている事に加え、英語でのコミュニケーションが容易で、その上サービスが低価格なためである。またフィリピン人アニメーターは、熟練したクリエイティブなアーティストとして、広告やゲーム開発の分野でも活躍している。

6.ターゲット層の最近のトレンド

10代の若者の間ではウェブトゥーンが人気を博している。ウェブトゥーンは韓国発のデジタルマンガのプラットフォームである。フルカラーで画面を縦にスクロールしながら読めるなど、スマホで閲覧しやすい仕組みとなっている点が特徴的で、さまざまなジャンルの作品が生み出されている。フィリピン国内では、WebNovelやWattpadなどのコミックアプリ・サービスがよく使われている。

また、フィリピンでは一つの成功したコンテンツを拡大させ、異なるジャンルのコンテンツを結びつけることで、効果的に売れる作品を生み出す戦略が展開されている。この戦略は、小説から始まり、それをウェブトゥーンに展開し、その後ドラマや映画へと拡大し、更にはゲームやキャラクターへとIP領域を発展させている。

連鎖的なアプローチ

小説→ウェブトゥーン→映像+サウンドトラック→ゲーム→キャラクター

出典:筆者作成

2021年に約5,800億円だった世界のウェブトゥーン市場は、2028年には3兆円を超えるとされている。韓国で生まれた、縦スクロールで読むウェブマンガ「ウェブトゥーン」は、今グローバル市場で急速な成長を遂げている。

7. フィリピン音楽のジャンル・特徴

OPM:
フィリピンの音楽は、スペインとアメリカの植民地支配の影響を受けながら、独自の進化を遂げてきた。その結果、マニラ・サウンドやオリジナル・ピリピーノ・ミュージック(OPM)といったローカル・ジャンルが生まれた。マニラ・サウンドは1970年代半ばにマニラ首都圏で始まり、フィリピンの戒厳令時代に人気を博した。このジャンルはOPMへの道を開き、もともとは70年代のポップ・ミュージックを指す言葉だったが、現在ではフィリピン人が作曲し演奏するポピュラー・ミュージックすべてを包括している。
P-Pop:
フィリピン発祥のコンテンポラリー・ポップ・ミュージックであるピノイ・ポップ(P-Pop)は、近年著しい変貌を遂げている。投資、質の向上、多様化により、P-Popはフィリピンの急速な経済成長とアジア的アイデンティティの復活にマッチしている。この進化はK-POPやJ-POPの影響を大きく受けており、アジアン・スタイルのバラードやアイドル・グループが増加し、欧米のポップスから受ける影響は小さいのが特徴だ。P-POPは、ミレニアル世代以下のフィリピン人にとって、K-POPやJ-POPに並び人気を博しているジャンルだ。MNL48、SB19、BGYO、BINIなどのP-POPグループは、国内外でこのジャンルを広める事に貢献している。
ヒップホップ:
フィリピンは、アジアで初めてヒップホップ・ミュージック・シーンを確立した国として知られており、その歴史は1980年代初頭まで遡ることができる。これは、ヒップホップ発祥の地であるアメリカとの歴史的な繋がりに起因している。
ビルボード:
音楽を語る上で外せないのが米国音楽チャートのビルボードである。多角的に展開する中で、2016年にフィリピンに進出、この10月に別のオーナーの下で再ローンチした。
音楽で描く世界観:

フィリピンの音楽は愛をテーマにしたものが多い。西洋文化に多大な影響を受けているが、ローカル・サウンドの注入と人々の心に響くストーリーテリングが、フィリピン音楽を独自なものにしている。音楽で奏でる愛の形を体現しているのが、「ハラナ」と呼ばれる伝統文化だ。「ハラナ」はセレナーデという意味のフィリピン語で、フィリピンの植民地時代以前からの男性から女性に対する求婚の儀式で、女性の家の前でラブソングを歌う。

またハラナはテレビドラマや映画のストーリー作りにおいても影響を与えている。ロマンチックな物語に深みを与え、時代を超越した文化的に重要な要素として機能し、現代の観客を自分たちの文化遺産や歴史に結びつけている。

9.市場参入に関するアドバイス・まとめ

作品のコンテンツそのものとプラットフォームの両面からアプローチする事が重要と考える。 コンテンツの側面では、フィリピン市場は独自のクリエイティブな傾向やテーマ性、趣向、文化的背景を持っている。その点を尊重し、適合するコンテンツを提供する事がカギとなる。

プラットフォームについては、フィリピンでは現在数多くのデジタルプラットフォームが流通しており、高い英語力や文化的背景からも、新しいものへの抵抗がなく、取り入れるのが早い。これらの要因を考慮に入れながら、フィリピン市場への参入に取り組むことで成功の可能性が高まるだろう。


作成
ジェトロ・マニラ事務所
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本レポートは、日本貿易振興機構(ジェトロ)マニラ事務所が委託先Visum Global Philippines Inc.に作成委託し、2023年10月に入手した情報に基づき作成したものです。掲載した情報は作成委託先の判断によるものですが、一般的な情報・解釈がこのとおりであることを保証するものではありません。本レポートはあくまでも参考情報の提供を目的としており、提供した情報の正確性、完全性、目的適合性、最新性及び有用性の確認は、読者の責任と判断で行うものとし、ジェトロおよびVisum Global Philippines, Inc.は一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロおよびVisum Global Philippines, Inc.が係る損害の可能性を知らされていても同様とします。

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