海外発トレンドレポート

新素材に光明、SDGsやトレンド創出等付加価値に商機
(フィリピン・マニラ発)

2023年2月14日

隆盛を誇ったフィリピン繊維産業。復興の道筋は。

誰もが知る世界的大手企業のジーンズが生産されるなど、アパレルの一大産地とも言われていたフィリピン。現在では、主な産地が中国、ベトナム、さらには周辺諸国などに移っている。その状況に日本のテキスタイルメーカーの参入の余地はあるのか。テキスタイルの可能性を探るべく、フィリピンに拠点を構え30余年のアパレル企業を含め、異なる分野の事業者に話を伺った。

繊維と言えばフィリピンだった

A社は、当地で30年以上事業を続けるアパレルOEM会社。日本のアパレルメーカーとフィリピンの縫製会社の間に入り、日本のメーカーから受注して現地の工場で委託生産し、完成品を輸出している。自社工場は持たず、製品の特性に応じて数社ある提携縫製工場を使い分け、生地や糸などもアレンジする、いわば商社機能を果たしている。

  • 質問:

    事業内容は。

    答え:

    日本のメーカーのOEM生産をしている。かつては自社工場を持っていたが、現在はクライアントのニーズに合わせ、必要な縫製技術を持つ委託先の工場に振り分け、きめ細かい生産をしている。商品は日本を含め、ASEAN各国に輸出している。クライアントは日本の大手紳士服メーカーやレディースブランドなど、高価格帯の衣類の製造が多い。フィリピンの縫製技術は高く、日本の1/20程度の市場規模であるフィリピンで弊社が成り立っているのは、高価格帯の製品の生産を受注し、それに応える技術がフィリピンにあるからに他ならない。

  • 質問:

    市場の概況は。

    答え:

    90年代までは、フィリピンは米国のアパレルメーカーの一大生産地で、繊維産業が有名だった。しかし繊維製品におけるクオータ制(輸入数量規制)が廃止された2000年代半ば以降自由競争の波にさらされ、縫製の仕事はあっという間に中国に持っていかれた。

    その後ここ20年くらいのチャイナ・プラスワンの流れを受けて、縫製の仕事が中国からベトナムに移り、さらにはその周辺国のラオス、ミャンマー、バングラデシュなどに移っている。フィリピン市場が縮小した理由はクオータ制廃止の影響も大きいが、加えて当時のフィリピンでの人件費の高騰と、労働組合が強くストライキが多いといった幾つかの要因が重なったからだと思う。

  • 質問:

    素材の仕入れ先は。

    答え:

    中国を筆頭に、ベトナム、その他ASEAN諸国、一部日本もある。また当地で偶然見つけた自然素材が、非常に質が良く、ジャケットの中綿としての使用に適しており、多少ポリエステルと混ぜるなどの加工は必要ではあるが、綿に代わる新しい素材としての可能性を感じ、製品化に向け取り組んでいる。

  • 質問:

    日本企業にとっての進出可能性についてどう考えるか。

    答え:

    日本で生産している生地をそのままこちらで販売するという考え方は捨てた方が良い。伝統品的な織物なども含めて、ほぼニーズが無い。可能性があるとすれば、フィリピンは縫製技術が高いという意味で生産拠点として非常に魅力的なので、SDGsに則った素材、例えば農薬を極力使わない天然繊維を日本がフィリピンで開発するなどして、新素材を用いた製品をフィリピンで作り、日本や諸外国に輸出するといった方法が考えられる。他の案としては、バロンタガログ(フィリピンの伝統衣装)に使われる繊維の中でもパイナップルの葉を用いた高級品は、イタリアの超高級ブランドも一部採用しているほどなので、そういった高級素材を日本のメーカーが出資して開発できたら面白いと思う。

ローカル製造会社での率直なニーズ

B社は、オーダーメイド、カスタムデザインのシャツ、ポロシャツ、ジャケット、ジョギングパンツ、ショーツを製造販売しているローカル企業である。また企業のノベルティとしてTシャツやジャージ類、学校・レストランなどのユニフォームも製造している。

  • 質問:

    素材の調達先とその理由は。

    答え:

    ほとんどの素材をフィリピン国内と中国から調達し、製品によってすみ分けている。ユニフォーム(学校の制服、作業服など)は国内調達の素材で、企業のノベルティ用のTシャツやジャージなどは中国製を使用している。その理由は用途の違いである。ユニフォームは使用頻度も高く、着用期間も長い。その他一般販売用の商品はクオリティが求められるため、国内の信頼できる業者から品質重視で仕入れている。一方、企業のノベルティは基本的に無料で配布するものであり、顧客もコストを抑えたいという要望があるため、許容範囲内で中国から安価なものを調達している。

  • 質問:

    業界の概況は。

    答え:

    コロナ禍で衣類の需要は減り、同時に縫製の技術者も減ってしまった。徐々に回復してきているので、技術者の確保が急務となっている。

  • 質問:

    日本製品の印象は?

    答え:

    総合的にみて一流だと思っているが、私共が扱う商品では値段が合わず、使用したことが無い。高級品の製造会社なら別だと思うが、国内でそういった需要はほとんどないと思う。

建築業界におけるテキスタイルの可能性

20数年の経験を持つインテリアデザイナーのF氏と施工会社経営のN氏に、建築の視点からテキスタイル利用の現状や可能性を伺った。

  • 質問:

    建築におけるテキスタイルの有用性は。

    答え:

    日本ではテキスタイルデザイナーが存在し、インテリアデザインとしてのテキスタイルは空間を仕切り彩ることなどに寄与している。分かり易い例では、カーテン、壁紙、カーペットなどは新しい空間を演出する手段として使われる。ただ、フィリピンでは建築デザインにおいて、例えば天井を敢えて閉じないスケルトン天井や、コンクリート打ちっぱなしなどのいわゆる「引き算のデザイン」の発想がまだ少なく、空間を彩るといったデザイン需要も限られる。また適した素材も調達しにくい。そういったトレンドは刻々と変化していくものなので、近い将来ニーズが来て欲しいと思っている。

  • 質問:

    現実的な建築利用の可能性は。

    答え:

    建築やデザイン分野におけるグリーン政策が盛んになっているため、グリーンにまつわるテキスタイル、繊維の需要は高まって来るかもしれない。例えば観葉植物の鉢カバーや、壁などに飾る観葉植物の栽培用土の代替物としての利用(布に水分を含ませ植物を育てる等)は考えられる。植物の栽培、維持は大変なため予算が限られる現場では人工植物が利用されるが、生きた植物が良いことには間違いない。またプリントの質が上がれば、壁材、天井に利用する事も可能だろう。

執筆者総評

日本企業と関係がある、ローカルのアパレル製造会社と建築業界の方から、異なる視点でテキスタイルの可能性を探った。

  • 一般的なアパレル業界での日本製テキスタイルの需要は、高くないと言わざるを得ない。
  • アパレル・建築業界共に、世界的な課題であるSDGsに配慮した生分解性ポリエステルのような新しい価値観を与えられる新素材を、日本企業が開発し提供できれば、需要の掘り起こしの余地はある。

作成
ジェトロ・マニラ事務所
執筆
Visum Global Philippines Inc. 井谷 厳紀
レポートの利用についての注意・免責事項
本レポートは、日本貿易振興機構(ジェトロ)マニラ事務所が委託先Visum Global Philippines Inc.に作成委託し、2022年11月に入手した情報に基づき作成したものです。掲載した情報は作成委託先の判断によるものですが、一般的な情報・解釈がこのとおりであることを保証するものではありません。本レポートはあくまでも参考情報の提供を目的としており、提供した情報の正確性、完全性、目的適合性、最新性及び有用性の確認は、読者の責任と判断で行うものとし、ジェトロおよびVisum Global Philippines, Inc.は一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロおよびVisum Global Philippines, Inc.が係る損害の可能性を知らされていても同様とします。

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