海外発トレンドレポート

欧州鋳造業界の動向と日本企業のビジネス・チャンス
(ドイツ・デュッセルドルフ発)

2023年7月14日

ドイツを中心とした欧州鋳造業界の動向と日本企業のビジネス・チャンスについて、展示会における調査および同業界企業へのヒヤリングを中心として得られた結果を以下にまとめる。

1.4年ぶりの開催となった4つの展示会(GIFA、METEC、THERMPROCESS、NEWCAST)のレポート

展示会期間
:2023年6月12日~16日
開催場所
:デュッセルドルフ(Duesseldorf)展示会場/ドイツ

展示会主催者のメッセ・デュッセルドルフからの最終報告※1によると、2023年のGIFA、METEC、THERMPROCESS、NEWCAST展示会は4年ぶりの開催となり、世界各国から業界に携わる約2,200社が出展した。

展示会の内容

GIFA
:鋳造機械、溶接プラント・設備、模型、金型等
METEC
:製鉄、鉄鋼生産、非鉄金属製造プラント・設備等
THERMPROCESS
:工業炉、熱処理、特殊用途向け装備等
NEWCAST
:鉄鋳物、非鉄金属鋳物等

各展示会では、世界の鋳物、機械、鉄鋼、非鉄金属製造産業の中核をなす原料メーカー、機械メーカー、鋳物加工業者が循環経済、資源保護、気候保護を実現するために提示した新技術開発をもって来場者に強いインパクトを与えていた。

主な国別の出展者

開催国ドイツを初めとして56か国から約2,200の出展者(出展企業の76%が海外から)が12の展示ホールで機械、プラント、ソリューションで将来を見据えた冶金産業の推進力を打ち出した。

ドイツ536社、中国603社、イタリア211社、インド163社、トルコ117社、フランス46社、USA42社、スペイン41社、イギリス40社、チェコ39社、日本34社、オーストリア33社、スロベニア27社、オランダ25社、台湾20社、スイス18社とアジアからの出展者が際立ち、全体の約40%を占めた。

各展示会への日本からの主な出展企業は、以下のとおり。

GIFA 2023
  • Hishinuma Machinery
  • ITOCHU Ceratech Corporation
  • Daido Steel
  • Morimura Bros
  • Hirado Kinzoku Kogyo
METEC 2023
  • NSD Corporation
  • RIX Corporation
THERMPROCESS 2023
  • Japan Industrial Furnace Manufacturers Association(Azbil Corporation、Chugai Ro、Kanto Yakin Kogyo、NAKANIHON-RO KOGYO、Tanabe Corporation)
  • Tokai Konetsu Kogyo
  • Fuji Electronics Industry
  • Dowa Thermotech
NEWCAST 2023
  • Kimura Foundry
  • The Japan Foundry engineering Society (JFS)(Akashi Gohdoh、ASAGOE INDUSTRY、CAST、GOIDOU INDUSTRY、Ishikawa Malleable、KURITA INDUSTRIAL、KUSANO、Osaka Special Alloy、Sapporo Kokyu Imono、Sato Chuko、Taiyo Machinery、Tominaga、TOMOTETSU Kogyo、TSUCHIYOSHI INDUSTRY、Umezawa Cyuko、Yanagimoto

来場者

一方、5日間の来場者はGIFA、METEC、THERMPROCESS、NEWCASTの予想を上回り、114か国から63,300人にものぼった。(そのうち58%が意思決定者であった。)来場者の出身内訳もアジアからが大部分を占め、69%であった。

GIFA-Messe会場の様子(筆者撮影)

GIFA 2023における4つの主要テーマ

GIFAをはじめ、METEC、THERMPROCESS、NEWCASTはエネルギー多消費の業界の展示会。EUの2050年気候保護計画に伴い、現在の業界を取り巻く環境を考慮し、将来を見据え早急に対処する必要に迫られている。そのような中、主催者であるメッセ・デュッセルドルフは今後の主要テーマとして持続可能性、デジタル化、循環経済、革新的な技術(新素材や新たな生産技術)の4つを挙げている※2展示ホールの出展者はこれらのテーマを踏まえた製品や技術を披露していた他、セミナーやカンファレンスでは関連した講義や議論が行われた。また、環境負荷の少ない製品や技術を持つ企業を表彰するサイドイベントも開催された。なお、4つのテーマの詳細や背景情報は以下のとおりとされている。

(1)SUSTAINABILITY=持続可能性
エネルギー転換と気候変動は鋳造業界に対して大規模な再編を迫っている。再生可能エネルギーと脱炭素化技術は、鋳造工場や鋳造技術が使用される機械やプラントのメーカーからますます注目を集めている。鋳造工場は金属を溶かし、保温し、注湯することに加え、その後の熱処理の必要性などから、大量のエネルギーを消費する。
現在求められているのは、新たな燃料、溶解技術、加熱方法だ。石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料は、移行期を経て終焉を迎えつつあり、バイオガスやバイオコークス燃料のほか、風力や太陽光発電由来のグリーン電力と、同電力から生成される水素が注目されている。
(2)DIGITALISATION=デジタル化
製錬プロセスのデジタル化、人工知能(AI)技術を用いた鋳造の最適化など、デジタル化は鋳造業界にとって非常に重要な課題となっている。鉄鋼、軽金属、非鉄金属の鋳造工場は、デジタル化によってもたらされる機会を認識している。エネルギーの節約、資源の効率的な利用、脱炭素化といった持続可能性の問題は一層重要となっている。AI技術を活用した高度なセンサーやクラウドコンピューティング技術の活用により、廃棄物やエネルギーコストの削減、生産量の増加、二酸化炭素排出量(CO2)を削減することが期待される。
(3)CIRCULAR ECONOMY=循環経済
鉄、軽金属、非鉄金属の鋳物工場にとってリサイクルや循環経済は極めて重要なテーマだ。再生可能エネルギーと組み合わせた循環経済に向けたリサイクルの発展は、資源の確保と気候目標達成の双方にとって極めて重要である。目指すのは、持続可能かつ環境に低負荷な生産と使用を通じて、製品寿命を延ばすことだ。市場に流通する材料や製品は限りなく長く流通し続ける必要がある。鋳物工場はデジタル化と連携する新たなビジネスモデルの可能性に挑戦している。
(4)INNOVATIVE TECHNOLOGIES=革新的な技術(新素材や新たな生産技術)
新素材と革新的な生産技術はこれまでの業界をさらに強化させるものである。特に重要なのは生産工程におけるデジタル化であり、ほぼ理想的なモデルが3Dプリンティングだ。特に限られた生産数、複雑な形状、高度なカスタマイズが必要な場合に、3Dプリンティングが競争力のある生産技術として重要性を増している。たとえば砂から作られた鋳造用の型や中子を3Dプリントで積層造形する方法を使用すると、迅速なツールのおかげで、コストを節約しながら短時間でプロトタイプを鋳造することができる。

(注)次回のGIFAデュッセルドルフは、2027年に開催予定

2.ヒヤリング結果(1):アメリカ、ヨーロッパ、アジアで展開する3Dプリンティング機械メーカー

(2023年6月15日訪問・インタビュー形式で実施)

  1. 社歴及び業務内容
    1995年創業者が3Dプリンティングの新技術に着目し、現在はアメリカ、ヨーロッパ、アジア地域に夫々の本社を構える世界的なメーカーに発展。主な客先としてはSIEMENS、BMW Group、DAIMLER、Rexroth(Bosch)、Ford等がある。強みは金属、砂、またはセラミック材料を使用して、3D CADファイルからカスタム完成品を作成すること。
  2. 「持続可能性、デジタル化、循環経済、革新的な技術(新素材や新たな生産技術)という4つの主要テーマ」を中心に質問を行い以下の回答が得られた。(3Dプリンターを使うメリットという観点からの回答)
    1. 材料の無駄を省ける。
    2. 設計変更は3D CADファイル上で瞬時に行うことができ、複雑で費用のかかる変更をすることなく再印刷が可能。
    3. 1個からでも対応可能。
    4. 注文量によってはわずか数週間で、金属、砂型、ウォッシュアウトツーリング部品をカスタム印刷できる。
    5. 短い納期で、砂型を使用して溶融金属合金を製品に成形するサンドキャスティングのアプリケーションをサポート。従来の製法のようなコストとリードタイムを費やすことなく、複雑な中子と金型を生産。
    6. ハードツールの必要性を排除することで、鋳物工場やパターンショップによるサンドキャスティングの変革を支援し、デジタル鋳造によって、従来のツールに時間や投資をすることなく、これまで不可能だった形状を製造したり、複雑なコアを統合して組み立てを削減したり、設計変更を繰り返したりすることができる。
    7. 鉄と非鉄の両方の鋳造向けに、砂と結合剤のさまざまな組み合わせを提供。
    8. オンデマンドで金属、プラスチック、複合材、発泡部品など様々な素材向けの加工のためのソリューションを提供。独自の形状を作成し、迅速に反復し、機能的なプロトタイプをテストして、製品を改良しながら、より早く、より安価に市場に投入。
  3. 課題
    1. より効果的な作業を行うための新素材、結合剤の開発。

3.ヒヤリング結果(2):ドイツのフュルト(Fürth)に拠点を置くドイツを代表する研究機関

(2023年6月13日訪問・インタビュー形式で実施)

  1. 社歴及び業務内容
    ドイツに本拠を置くこの研究機構は、応用指向型研究における世界有数の組織で、その傘下には、ドイツ国内に76の研究所や研究施設がある。約30,800人の研究員等が年間約30億ユーロもの費用を費やし研究を行っている。
  2. 「持続可能性、デジタル化、循環経済、革新的な技術(新素材や新たな生産技術)という4つの主要テーマ」を中心に、今後の鉄鋼製造、ガラス製造、アルミニウム生産、鋳物の製造、発電所、炉の建設等、この産業の将来性及びCO2削減、カーボンニュートラルについて質問を行い以下の回答が得られた。
    対応してくれた2名の担当者は「コロナ禍で全ての海外活動が止まっており、今後活動を再開していきたい」とのこと。
    また「自分たちの研究機関では製造現場での不良品の比率を下げ生産性を向上すること、自分たちの研究所と実際の生産会社が連携すること、材料、熱の排出を抑えることにより、CO2削減、カーボンニュートラルのテーマに対応している」とのこと。
  3. 日本企業との連携
    日本の車産業の将来性(EV、水素エンジン)について興味があるとのことで逆に先方よりEVや燃料電池車の日本における市場性や、普及するのであればどのような時間軸で普及していく予測なのか、などの質問があった。

4.ヒヤリング結果(3):ドイツのハーゲン(Hagen)に本社をおく工業炉企業

(2023年6月13日訪問・インタビュー形式で実施)

  1. 社歴及び業務内容
    中規模企業であり、1980年以来、ルール地方のハーゲンで製品の開発、設計、製造を行っている。工業炉や装置の建設・設置において実績を有する。主力製品はガスストーブおよび電気ストーブ用の断熱システムなど。
  2. 「持続可能性、デジタル化、循環経済、革新的な技術(新素材や新たな生産技術)という4つの主要テーマ」を中心に質問を行い以下の回答が得られた。
    対応した担当者(肩書は総務担当)によると「如何に効率的に熱を伝えるかで、無駄なエネルギーの使用、熱の排出を抑える努力、製品作りをしている」とのこと。
  3. 日本との取引に関して
    現在、アジア向けのビジネスは中国、韓国への販売。
    一方で「部品はEU内であろうとアジアからであろうと品質が良く、価格競合力があれば購入に問題は無い」とのこと(特に暖房油、絶縁版、チューブなど)。

5.ヒヤリング結果(4):ドイツのプルハイム(Pulheim)に本社を置く断熱材、耐熱製品製造企業

(2023年6月13日訪問・インタビュー形式で実施)

  1. 社歴及び業務内容
    創業者から数え現在の経営は3代目となり、断熱材や耐熱製品を製造する企業に発展。現在の目標は高温および熱の密封技術の分野における技術的問題に対し、適切な解決策を見つけ、顧客に適切なアドバイスを提供すること。欧州で初めてセラミックファイバーの断熱材を市場に投入した。セラミックファイバーによる健康被害の可能性が発表された直後、1993年にはそれまで販売していた製品の代替品を開発し市場に投入した。
    鉄鋼製造、ガラス製造、アルミニウム生産、鋳造部品の製造、発電所、炉の建設には高温が発生し、断熱材や耐熱製品の需要があることから、パック、ツイストコード、ファイバーロープ、テープ、ストリング、プレート、熱保護布、コード、パッキン、ネファリットガスケット、リボン、マット、糸カーテン、耐熱生地等を製造し製品として供給。
  2. 「持続可能性、デジタル化、循環経済、革新的な技術(新素材や新たな生産技術)という4つの主要テーマ」を中心に質問を行い以下の回答が得られた。
    「環境と健康の保護は当社の最優先事項。環境に配慮した生産方法は当たり前。これには、環境に優しいパッケージも含まれ、再利用可能またはリサイクル可能な梱包材を使用。」
    「また、鋳物製造において熱をキープすることは重要であり、そのために保温性の良い材質、繊維の開発に挑戦している。」
  3. 日本との取引に関して
    面談したセールスマネージャー曰く、「中国から部材を購入したこともあり、部材(特にシリカや断熱材等)はEU内であろうとアジアからであろうと品質が良く、値段的に競合力があるものであれば購入に問題は無い」とのこと。

6.総論

GIFA 2023で掲げられた4つの主要テーマ(持続可能性、デジタル化、循環経済、革新的な技術(新素材や新たな生産技術))及び展示会に参加していた企業、研究所へのヒヤリング、その後の調査から、日本企業がこの業界に参画及び生き残っていくためには、今後はこの4つのテーマに沿った製品開発および市場への投入をしなければ、ドイツを含めた欧州市場、更には世界全体でのビジネス展開は難しいと言っても過言ではない。

具体的には、物作りは中国、インド、トルコ、イタリア等が中心となっており、日本企業の役割は、その物作りをサポート・省力化や効率化に貢献できる部品、原材料、化学品、デジタル関連製品(ソフトを含む)の供給が重要と思われる。具体的な例としては以下のとおり。

  1. CO2削減に寄与する部品及び製品
  2. 使用する材料やエネルギーなどの削減、効率化をはかるデジタル(ソフト)関連
  3. 新材料及び化学品(接着剤)
  4. リサイクルに役立つ製品
  5. 3Dプリンティング関連機器(未だ世界的に活躍している企業は数社であり、日本の特技を生かして進出できるチャンスは残されている)

作成
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所
レポートの利用についての注意・免責事項
本レポートは、日本貿易振興機構(ジェトロ)ジェトロ・デュッセルドルフ事務所がHaus Be.Lenaの原田 晃氏に作成委託し、2023年6月に入手した情報に基づき作成したものです。掲載した情報は作成委託先の判断によるものですが、一般的な情報・解釈がこのとおりであることを保証するものではありません。本レポートはあくまでも参考情報の提供を目的としており、提供した情報の正確性、完全性、目的適合性、最新性及び有用性の確認は、読者の責任と判断で行うものとし、ジェトロおよびHaus Be.Lenaは一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロおよびHaus Be.Lenaが係る損害の可能性を知らされていても同様とします。

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