海外発トレンドレポート

ベトナムで拡大する医薬品市場および現地ニーズ
(ベトナム・ホーチミン発)

2022年10月26日

市場概況およびバイヤーへのインタビュー報告

経済成長著しいベトナムでは、医療保険加入者増や高齢者増等を背景に医薬品市場が拡大している。ただし、医薬品は薬事登録申請が煩雑であり、当地のディストリビューターによれば「サプリメント」の方が市場参入のハードルが低そうだ。以下、医薬品市場の概況と、現地企業2社へのインタビュー結果を報告する。

拡大するベトナム医薬品市場

2022年5月7日に、ホーチミン市で開催された薬学・医療分野のインド・ベトナム・ビジネスコネクション・カンファレンスにて、ホーチミン市保健局薬局部副部長のLe Ngoc Danh氏の発表によると、2021年の医薬品市場規模は、年間約62億~64億USDの規模に成長しており、その中でも、ホーチミン市の医薬品市場規模は全体の30~40%を占め、約20億USDの規模となっている事を明かした。

ベトナムにおいて、GMP認証取得コンサルティングを行っている、GMPs Joint Stock Companyによると、BMI(Business Monitor International)の統計では、2017年の医薬品の市場規模は約52億USDという事であった為、2021年までの4年間で約23%拡大した事になる。

医療保険加入者数も年々増加

ベトナムにおいては日本と同様、政府が運営する医療保険制度があり、基本的にほとんどの国民が加入対象となっている。医療保険の対象となるのは、病気診療、治療、リハビリ、各種検診、医薬品、医療用品、病院への輸送費となっており、指定医療機関での医療費の85~100%が保険で賄われる事となっているが、指定医療機関での医療費上限が決まっている為、指定医療機関外で診療を受け上限金額を超えた場合、超えた金額は自己負担となり、料金の高い私立病院などでは自己負担額が大きくなるのが現状である。

医療保険加入者率推移:ベトナムにおける医療保険加入者比率は、2004年に21.10%、2006年43.90%、 2008年43.76%、2010年60.92%、2012年66.44%、2014年71.0%、 2016年81.80%、2018年86.80%、2020年90.85%と年々増加している。

出所:保健省

上記の図は、保健省のデータを参考に作成した、医療保険加入者率の推移であり、2004年時点では21.10%だったのに対し、2020年時点では90.85%と多くの国民が医療保険を利用できる環境になっている事がわかる。

国の医療支出額も今後さらに増加の予測

保健省によると、2019年の医療支出額は331.3兆VND(約144億USD)と年々増え続けているが、その内、政府支出額は50%程度に過ぎず、財源が限られているのが現状である。

ベトナムにおける医療費支出額推移と予測:ベトナムにおける医療費支出額は2017年の294兆ベトナムドン から、2019年は331兆ドンに増加。2024年には468兆ドンに 達すると予測されている。

出所:保健省

前述したように、ベトナムでは医療保険加入率が90%を超えているものの、保険でカバーできる範囲が限定的である事から、この様な構図となっており自己負担率は43%となっており、先進諸国の14~20%と比較して2~3倍と大変高い水準になっており、政府は2025年までに患者の自己負担率を35%、2030年までに30%まで引き下げる事を目標として掲げている。

また、レ・バン・カム保健省医療保険部長は対策として、医療保険の適用範囲を拡大して受診者の権利を向上させるために保険料率を引き上げるべきとし、引き上げ幅については慎重に検討する必要があると2021年4月6日に保健省医療保険部の代表者が開催したセミナーで指摘した。
(なお、2022年10月現在の保険料率は基本給の4.5%となっている。)

今後迎えると予測される高齢化社会

前述した、GMPs Joint Stock Companyによると、一人当たりの医薬品支出額は、2005年9.85USD、2010年22.25USD、2015年37.97USD、2017年56USD、2019年75USDと順調に金額を伸ばしており、これは近年の経済成長以外、今後迎えると予測されている、急速な高齢化社会化も一因となっていると言われている。

統計総局が2019年12月に発表した、「2019年4月1日0時の時点での主要20指標」によると、ベトナム国民の年齢別構成比は、15歳以下が24.3%、15歳以上64歳以下が68%、65歳以上が7.7%となっており、比較的若年層の多い人口構成となっているが、IMFの予測によると、ベトナムの人口は今後数十年で急速に高齢化し、60歳以上の人口を15〜59歳と比較する老齢率は、今後25年間で2倍になると予想されている。

出生率に関して、1989年は3.8であったところ、30年後の2019年は2.09と低下しており、地域別にみると、中部高原地域および北部山岳地域が最も高く2.43、ハノイ市を含む北部ホン河地域が2.35、ダナン市を含む中部地域が2.32であるのに対して、ホーチミン市を含む南部は1.56%、南西部メコンデルタ地域が1.80と低くなっている。

ベトナム政府も近年、ホーチミン市等の出生率の低い21省・市で、35歳までに子供を2人出産した女性には現金等を支給するなど、様々な少子化対策が導入されており、2020年4月28日、フック首相(当時)は、2030年までの地域・対象別の出生率調整プログラムを定めた「決定588/QD-TTg」を公布し、保健省より、「通達01/2021/TT-BYT」が施行されている。

ヒアリング調査

ベトナムで医薬品、サプリメント、化粧品等の輸入販売を行うローカル企業2社にそれぞれヒアリングを行った。

A社

住所:ハノイ市、ドンダー区
面談者:代表取締役社長

  • 質問:

    現在取扱中の主な製品と、その販売動向は。

    答え:

    当社は化粧品、サプリメント、医薬品(ある日本大手家庭薬メーカーの商品を薬事申請中)を販売している。また、日本でも有名な化粧品ブランドのベトナム市場における販売代理店として活動している。医薬品に関しては、薬事申請の難易度が高く、日本側でACTDの内容に沿った書類を準備できる場合は申請可能だが、申請から許可取得まで2年以上かかることも多く、比較的申請が早いサプリメントに注目している。サプリメントに関しては、ブランド認知度が重要であるため、日本の大手有名ブランドの商品に関心がある。また、現在、当社は日本の健康食品メーカーにOEM委託生産を依頼しており、ベトナム市場で販売中である。

  • 質問:

    医薬品市場のトレンドと、その理由は。

    答え:

    医薬品に関しては、弊社で取り扱っているのはOTC薬品であり、まだほとんどの日本メーカーはベトナムで流通を開始していない。日本の医薬品はベトナム市場でも可能性がある物が多いと思いますが、薬事申請が容易ではなく、ベトナム保健省医薬品管理局が要求する書類やデータを揃える事ができる事が前提となる。サプリメントに関して、これまで米国や欧州の製品が好まれていたが、最近は日本製品に切り替えるユーザーが増えている。

  • 質問:

    今後、日本から購入したい商品は。

    答え:

    医薬品に関しては、日本で有名なOTC薬品に関心がある。医薬品やサプリメントは商品の認知度が重要であり、しっかりとしたマーケティングサポート体制が無い企業との取引は厳しい。

  • 質問:

    医薬品流通に関する主な規制は。

    答え:

    ベトナムに医薬品を輸入する際は、薬事登録はACDTの規格にのっとった書類提出が必要であり、非常に困難である。また、書類申請後も許可取得までに2年以上かかるため、時間と忍耐力が必要となる。販売価格も規定、広告宣伝も規制されており、サプリメントと比較すると、全く違う販売方法となる。

B社

住所:ホーチミン市、4区
面談者:Head of Business Dpt

  • 質問:

    現在取扱中の主な製品と、その販売動向は。

    答え:

    弊社の強みは、(1)医薬品、(2)健康食品、(3)化粧品、(4)医療機器(設備)。(1)(2)(3)は全般的に取り扱いを検討するが、医療機器(設備)に関しては、興味があればという程度で、例えば、美容器具等の製品はあまり関心がない。当社の主な製品は、医薬品・健康食品全般と、化粧品である。日本ブランドも取り扱っている。医薬品に関しては国内調達品と、日本の大手家庭薬メーカーの製品を薬事申請中である。

  • 質問:

    今後、日本から購入したい商品は。

    答え:

    一概にどの様な製品に興味があるという事は回答しづらい。ただし、当社で新たな商品を扱う際には、ベトナム市場においてその商品の品質や効能等がマッチしていてニーズがあるかどうかまず検討を行う。次いで価格について各社と商談する流れとなる。手ごろな価格かつ高品質な商品を求めるのは当然だが、当社は特に「品質」を第一にしている。

  • 質問:

    医薬品流通に関して主な規制は。

    答え:

    日本とベトナムの間で、医薬品販売許可申請は様々な相違点がある。ベトナムの基準は、基本的にACTDに沿っている。このため、ベトナムにおいて日本の医薬品の販売許可を申請する過程で、メーカー側が用意する申請書の内容がベトナム保健省の基準を満たさないことが多く、登録の難易度は高いと言える。また、ベトナム保健省は頻繁に薬事関連の法令を更新するため、申請が更に困難となっている。しかしながら、日本のOTC薬品は便利で面白い商品が多く、市場性があると思う。根気よく対応する以外にないだろう。

まとめ:今後参入を検討する日本企業に向けて

ベトナムの医薬品市場は経済成長および高齢化などの要因を背景に、年々伸び続けており、大きな可能性のある市場と言え、また最大手ファーマシティー社(1,200店舗)、ロンチャウ薬局(900店舗)、アンカン薬局(600店舗)など、多店舗展開するチェーンストアも現れており、日本の特にOTC薬品関連にとって市場展開の大きなチャンスと思われる。

しかしながら、今回インタビューをした各社が言う様に、ベトナムへ輸出販売を行う際の薬事登録がASEANの基準であるACTDとなっており、日本の医薬品販売許可申請をする過程で、メーカー側の用意する申請書内容が、ベトナムの基準を満たしていない事が多い為、登録の難易度が高い事が難点だと思われる。
例)長期保存安定性試験のデータは、30℃±2℃75%RH±5%Rの条件で3年間


参考


作成
ジェトロ・ホーチミン事務所
執筆
ジェトロ・ホーチミン事務所プラットフォームコーディネーター 梅田伸之
レポートの利用についての注意・免責事項
本レポートは、日本貿易振興機構(ジェトロ)ホーチミン事務所が委託先MAI INTERNATIONAL ASSOCIATES JSC/梅田伸之に作成委託し、2022年10月に入手した情報に基づき作成したものです。掲載した情報は作成委託先の判断によるものですが、一般的な情報・解釈がこのとおりであることを保証するものではありません。本レポートはあくまでも参考情報の提供を目的としており、提供した情報の正確性、完全性、目的適合性、最新性及び有用性の確認は、読者の責任と判断で行うものとし、ジェトロおよびMAI INTERNATIONAL ASSOCIATES JSC/梅田伸之は一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロおよびMAI INTERNATIONAL ASSOCIATES JSC/梅田伸之が係る損害の可能性を知らされていても同様とします。

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