シンガポールにおける高齢者向けパーソナルケア製品市場の概要（シリーズ4）
（シンガポール発）

パーソナルケア製品とは、おむつ、尿漏れパッド、調整機能付きベッド、マットレス、ウェッジピロー等を含む製品群である。シンガポールの高齢者用パーソナルケア製品市場は成長しているものの、特にオムツ等の消耗品では価格が重要な選定要素となっており、厳しい競争環境がある。一方で、長期にわたって利用が想定されるベッド等においては、製品差別化が受け入れられる市場であり、特長ある日本企業の製品が流通している。市場に受け入れられる製品とそうでない製品があるため、顧客のニーズを理解したうえで、商品を展開することが重要となる。

シンガポールのパーソナルケア製品市場は、高齢化社会の到来及び政府の高齢者支援により大きく成長している。パーソナルケア製品の中でも排泄ケア製品は毎日使用するものが多い消耗品であり、日々の購入・利用の積み重ねが大きな費用負担となるため、商品選定に際して価格の重要性が特に高い。例えば、オムツにおいては、規模の経済性を持つTENAのような企業が、中国からバルクで商品を調達し、価格競争力を活かし、マーケットでのプレゼンスを確立している。日本製品は高品質と認知され高い信頼性を有しているが、価格が重要な製品群では競争優位性を保つことが難しい。排泄ケア製品を展開する日系企業は存在するものの、そのプレゼンスは限定的である。一方で、介護用ベッド・マットレスは、長期の利用が想定されること、製品による特長が出しやすいことから、多少高くても良いものを買うニーズが存在しており、普及品の2倍以上するようなパラマウント製のベッド等が一定の支持を得ている。

シンガポールでは、多くのメーカーが販売代理店を通じて製品を販売している。パーソナルケア製品を取り扱う主な販売代理店はPharmex Healthcare、Assisted Living、Agis Mobility、Rehab Mart、Rainbow Care、Alphamed、DNR Wheels、Easy Wheel Services & Trading、Progress Healthcare等である。

販売代理店へのヒアリングによると、シンガポール人はオムツ等の消耗品には高い機能を求めておらず、多くの顧客は価格が商品選定の決め手となる。但し、インタビューした販売代理店の一社は長年に亘り欧州製プレミアム・オムツをBtoB及びBtoC向けに販売しており、消耗品についても、品質が良く高い物を受け入れる層が全体の一割程度は存在するとコメントした。

なお、ベッドやマットレスのような、利用が長期にわたり快適性が変わる（異なる）製品機能には投資価値を見出す傾向がある。主な製品に係る具体的なニーズは以下のとおりである。

販売代理店へのヒアリング及びウェブサイトの情報をもとに、シンガポールで流通している主な商品情報を整理した。なお、価格は消費者向けの販売価格であり、政府入札の単価や病院・介護施設向けの販売価格とは異なる点に留意が必要である。なお、オムツのような消耗品については、地元スーパー等で購入する顧客も多い。

シンガポール政府は、高齢者の在宅での生活を支援する制度「Senior Mobility and Enabling Fund^※3」を通じて、老人ホームに入居できるが、在宅で生活し地域の在宅医療サービスの利用を選択する高齢者に、カテーテルや大人用おむつの費用を補助している。なお、補助対象となる製品は政府が選定したものであるため、全ての関連事業者が当該プログラムの恩恵を受けられるわけではない。

販売代理店へのヒアリングにおいて、良い物は売れると信じて商品を展開する日本企業はあるものの、シンガポール人は極めて合理的であり、特にオムツや使い捨てパッドのような消耗品関連の付加機能に費用を出すニーズは限定的で、当該領域に参入しプレゼンスを確立することは容易でないとのコメントがあった。一方で、一般品の数倍するようなベッドが売れている事実もあり、顧客のニーズにマッチし価格の合理性が理解される商品は売れるというのがシンガポール市場の特徴である。そのため、参入を検討する企業は、自社製品がシンガポール人のニーズに応えるものなのかを把握することが重要になる。