シンガポールにおける高齢者向けホームセーフティ製品市場の概要（シリーズ3）
（シンガポール発）

ホームセーフティ製品とは、ポータブルトイレ、転倒防止マット、手摺、便座昇降機、特殊シャワーヘッド等を含む製品群である。ホームセーフティ製品市場の規模は拡大しているものの、顧客ニーズは基本機能が中心であり、耐久性等に考慮しながらも安価な製品を選定する傾向がある。また、国民の多くは政府補助を活用し当該商品を購入・設置しており、補助対象製品は基本機能を持った安価なものに限られるため、日本企業が当該セグメントへアプローチすることは容易ではない。日本企業が当該カテゴリーでプレゼンスを確立するためには、特長をうたえる製品を、現地の販売代理店等と連携し，特定の顧客セグメントに売り込んでいく必要がある。

シンガポールのホームセーフティ製品市場は、高齢化社会の到来及び政府の高齢者支援により大きく成長している。ホームセーフティ製品の多くは手摺や転倒防止マット等、基本的機能を担うものが多く、先端技術を応用する余地があまりない。そのため節約志向の多い高齢者においては、安価な商品を好む傾向が強く、市場に流通している商品も多くは基本的な機能を持った安価なものである。販売代理店のインタビューでは、シンガポール人の多くが日本製品を高品質で信頼できると考えているが、多くのホームセーフティ製品に特長を求めていないため、ポータブルトイレや落下検知センサーのような一部ハイテク製品を除き、高価なものを受け入れる余地は少ないとのコメントがあった。当該製品カテゴリーにおいて確固たる地位を有している日系メーカーは見受けられないが、ポータブルトイレについては高価な欧州製品を取り扱っている販売代理店もあり、特長ある製品を受け入れる顧客層は存在する。

なお、シンガポールは市場規模が大きくないため、多くのメーカーは販売代理店を通じて製品を販売している。ホームセーフティ製品を取り扱う主な販売代理店は、Pharmex Healthcare、Assisted Living、Agis Mobility、Rehab Mart、Rainbow Care、Alphamed、DNR Wheels、Easy Wheel Services & Trading、Progress Healthcare、Zaoなどである。

モビリティ製品同様、ホームセーフティ製品も長期にわたり使用するため、長く利用できるかが大事なポイントである。一方、製品によって基本機能が大きく変わるものではないため、顧客の多くは政府補助対象の安価な製品を選択している。顧客が、ホームセーフティ製品を買う際の主な選択重視点は以下のとおりである。

販売代理店へのヒアリング及びウェブサイトの情報をもとに、シンガポールで流通している主な商品情報を整理した。なお、価格は消費者向けの販売価格であり、政府入札の単価や病院・介護施設向けの販売価格とは異なる点に留意が必要である。また、手摺については、工事費用を含んでいない。

高齢者がHDB（公団住宅）で快適かつ安全に暮らし続けられるよう、シンガポール政府は「アクティブシニア向け強化プログラム（Ease）」を開始した。2012年7月に開始されたEaseは、国民の8割が住むHDBにおいて、既設床タイルの滑り止め加工や浴室の手すりの設置等、高齢者の住居環境の改善をサポートするプログラムであり、政府が費用の大部分（最大95%）を補助する。HDBによると、約42,200世帯がEaseに申し込み、さらに63,300世帯が住宅改修プログラム（HIP）を通じてEaseを活用している。なお、EASEを通じて提供される製品は政府が指定した基本機能を満たすベーシックなものである。

ホームセーフティ製品市場の大きな割合を政府が担っており、製品にはよるものの、例えば手摺であれば、政府は入札を通じて基本的機能を持った製品を低価格で落札し、補助を加えたうえで公団住宅に住む国民等に製品を供給している。入札への参加は可能であっても、基本機能を持った製品が価格を条件に選定されるため、日本企業の政府入札への参加ハードルは高い。

一方、ポータブルトイレは、丈夫で快適性の高い商品を選択する顧客層が存在し、多機能で比較的高価な製品にも需要が存在する。当該カテゴリーへのアプローチについては、自社製品が特長を持つものとして市場に受け入れられるかを見定め上で、特長に見合った価格を払う意思を持つ顧客層に売り込んでいくことが必要になる。