海外発トレンドレポート

ゲーム市場は拡大も、配信許認可に留意
(中国・上海発)

2023年2月3日

市場概況及び関連統計

(1)市場概況

中国のゲーム業界は、コンテンツ市場の中でもとりわけ大きなシェアを誇る領域であり、国際的にも非常に注目されている。一方で、近年ゲーム市場に対する規制強化が段階的に進められており、業界は厳しい状況に立たされている。

中国でゲームを配信するためには、許認可(版号)を取得する必要があり、その許認可件数は数年前まで年間10,000件に迫る勢いで増加していた。しかし2018年以降、政策転換によるゲーム審査機構の改革に伴い、国家新聞出版署をはじめとする中国当局が一連の施策を講じ、断続的にしか許認可が下りないうえに、数もかなり制限されるようになった。直近では、2021年7月から2022年3月まで審査が停止され、4月には審査が再開されたが、毎月の許認可作品数は100作品程度になっている。

このような厳しい状況下、中国のゲーム会社各社は海外市場に目を向けつつある。韓国、日本、東南アジア、欧米向けのゲーム作品を開発しはじめ、活路を探っている。

(2)関連統計

中国のシンクタンク「前瞻産業研究院」の調査によると、2020年の中国のゲーム市場規模は2,786億元(1元=約19円)で、前年比20%を超える増加となった。内訳を見ると、近年のスマートフォンの普及と5Gの環境整備の影響もあり、モバイルゲームが全体の70%以上を占め、業界をけん引する形となっている。一方、モバイルゲームを除くその他のゲームを見ると、PC端末のゲームが20%を占めており、PCブラウザとゲーム機はそれぞれ2%程度となっている。モバイルゲームを除くその他のゲームの市場占有率は、2016年の5割強から2020年の2割強へと、縮小の一途をたどった。

中国ゲーム市場の規模の推移(2015~2020年)

中国ゲーム市場の規模の推移(2015~2020年)

出所:前瞻産業研究院「中国移動遊戯行業研究報告2020」より作成

消費者/ユーザーの動向

消費者の動向はコロナ禍において大きな変化はなく、依然としてモバイルゲームが主流になっている。ユーザー数はここ数年増加しているものの、成長ペースの鈍化が見られる。最大の要因は、2021年8月に中国のゲーム会社に向けて国家新聞出版署から通達された「未成年者のゲームプレー時間は週3時間以内」をはじめとする規制であると考えられる。

一方、作品の内容を見ると、テンセントやネットイースなど大手の作品が人気を博していることは変わらない。また、ゲーム会社の収益に直結する課金についても、ここ数年順調に推移している。しかし収益を確保できたのは人気作を有する大手企業に集中しており、中小規模のゲーム会社は収益の悪化が指摘されている。

中国におけるゲームユーザー数と年間課金額の推移(2015~2020年)

ユーザー数と課金額の推移(2015~2020年)

出所:産業情報網「2020年中国及全球手機遊戯市場収入発展現状」により作成

留意すべき規制

前述したように、中国でゲームを配信する際には、中国国産作品か海外作品かを問わず、国家新聞出版署の検閲を受け、配信のための許認可である「版号」を取得しなければならない。検閲および版号の取得については、中国のゲーム出版会社から当局に申請することになっている※1。版号を取得していないゲームを配信した場合、ゲームの配信停止やウェブサイトの閉鎖、違法所得の没収、過料などの行政罰が科される。犯罪にあたると判断された場合、刑事罰が科される。

※1
中国のゲーム作品配信においては、出版会社と運営会社がそれぞれ個別の役割を担っている。出版会社は海外の権利者からライセンス許諾を取得し、行政(新聞出版署)審査と「版号」取得を申請するのが主な役割である。ゲーム配信会社は「版号」取得したゲームのリリース及び、その後の運営管理を担う。

中国ゲーム版号許可状況(2017~2021年)

中国ゲーム版号許可状況(2015~2020年)

出所:国家新聞出版署公式ウェブサイトにより作成

市場参入のアドバイス

ゲーム作品を携えての中国市場参入について、これまで述べてきたように、中国では現在かなり厳しい規制がかかっている。新作を市場に投じようとしても、審査を通過するまでに相当な時間を費やす可能性がある。従って、中国市場ばかりに目を向けるべきではなく、中国のゲーム制作会社とコミュニケーションを取りながら、中国以外の国に向けての作品開発に注力したほうが良いと考えられる。ゲーム作品を直接輸入してローカライズするのではなく、IPを許諾してゲーム会社が作品を開発する方式も、ビジネス上よく使われている。IP許諾方式について、中国におけるゲーム会社各社の購入意欲は非常に高い。著名IPのゲーム作品は、一般作より高い人気を博すことがあり、収益性が良いためだ。ただし、下記のようにいくつかの懸念点も挙げられる。

まず、映画・アニメなど他のコンテンツと同様、著名IPほど基本的に中国の大手ゲーム会社にライセンスアウトする傾向にある。一方、S級以外のIPは、作品自体は非常に良くとも、中国のゲーム会社やバイヤーなどに対して十分な宣伝がなされず、その結果、中国展開が果たせなかったケースが多いことが指摘される。

次に、日本のコンテンツ企業特有の問題でもあるが、IP許諾における契約条件が非常に厳しく、ゲーム制作時および制作後の監修時間が極めて長い。作品内の1シーンや画像ならまだしも、作品全体を大きく修正するのであれば、事業計画全体に影響を与える恐れがある。

さらに、IP許諾契約後の版元への支払いについて、ゲーム作品リリースまで収益を読めない部分が多い。そのため中国ゲーム会社(ライセンシー側)としては、なるべく初期段階の一括払いを避けたいという要望が多く聞かれる。

上記の内容を含め、日本企業がゲーム市場に参入し、中国企業と取引を成功させるには、下記の事項を意識しながらビジネスを進める必要がある。

  1. 自社作品(IP)を積極的に宣伝すること
  2. 契約条件の緩和など、柔軟に対応すること
  3. 作品の監修などのペースを上げること
  4. 収益、支払方式の検討

作成
ジェトロ・上海事務所
執筆
上海擁智商務諮詢有限公司(IP FORWARDグループ) 張 雋
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本レポートは、日本貿易振興機構(ジェトロ)上海事務所が上海擁智商務諮詢有限公司に作成委託し、2022年9月に入手した情報に基づき作成したものです。掲載した情報は作成委託先の判断によるものですが、一般的な情報・解釈がこのとおりであることを保証するものではありません。本レポートはあくまでも参考情報の提供を目的としており、提供した情報の正確性、完全性、目的適合性、最新性及び有用性の確認は、読者の責任と判断で行うものとし、ジェトロおよび上海擁智商務諮詢有限公司は一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロおよび上海擁智商務諮詢有限公司が係る損害の可能性を知らされていても同様とします。

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