海外発トレンドレポート

シンガポールにおける高齢者関連機器・用品産業の概要(シリーズ1)
(シンガポール発)

2023年3月13日

1. エグゼクティブサマリー

シンガポールは人口約569万人(2020年)※1と大きな国ではないものの、ASEANの中で最も高齢者(65歳以上)率が高い国の一つであり、今後更なる高齢化が見込まれている。また、一人当たりGDPが日本の2倍近くある豊かな国であり、高付加価値な商品が受け入れられやすい環境がある。加えて、関連規制が整備され、地場商社・小売店が多くの海外メーカーの高齢者関連機器・用品(以下、高齢者向け商品)を輸入・販売しており、ビジネスのし易い、魅力を有する市場であると考えられる。本レポートでは、4回にわたりシンガポールの高齢者向け商品市場や実態を紹介する。

※1
外務省「シンガポール共和国 基礎データ」

2. 高齢者向け商品カテゴリー

シンガポールの高齢者向け商品は、以下のとおり(1)モビリティ関連製品、(2)ホームセーフティ製品、(3)パーソナルケア製品、(4)医療機器の4つのカテゴリーに大別できる(図表1参照)。本レポートでは3回に分けてシンガポールにおける、(1)モビリティ関連製品、(2)ホームセーフティ製品、(3)パーソナルケア製品の各カテゴリーについて流通実態を紹介する。なお、(4)医療機器は別途の規制対応やライセンス等が必要になることから、本レポートでは深くは触れない。

図表1:高齢者向け商品カテゴリー
カテゴリー 概要 商品例
(1)モビリティ関連製品 高齢者の移動を支援する製品 車いす、杖、移動用スクーター、歩行器
(2)ホームセーフティ製品 高齢者の安全な生活環境作りをサポートする製品 ポータブルトイレ、滑り止めバスマット、手摺、便座昇降機、特殊シャワーヘッド
(3)パーソナルケア製品 高齢者の生活を快適にする製品や失禁防止製品 快適ケア用品(三角クッション、電動ベッド・マットレスパッド、転落防止パッド)、失禁関連用品(尿漏れパッド、おむつ、防水シーツ、コンドームカテーテル、ポータブル小便器、マットレス・プロテクター)
(4)医療機器 疾病の診断、治療または予防に使用される機械器具 医療用ベッド、補聴器、リフト、血圧モニター、応急処置用具、鼻腔用スプレー・吸入器、AED

3. 社会的・経済的側面から見たシンガポールの高齢者向け商品市場の魅力

高齢者向け商品市場の規模及び潜在的魅力は、数量(顧客ニーズ・需要)及び単価(購買力)から算出される。数量は、高齢者人口、障害者人口、政府の政策等が重要なドライバーである。一方、単価は、一人当たりGDPや政府の政策等が重要なドライバーとなる。

a) 社会の高齢化(顧客ニーズ・需要)

シンガポールはASEANの中で最も高齢化が進んでいる国の一つである。世界銀行によると、シンガポールはASEANを代表する6カ国(シンガポール、インドネシア、マレーシア、タイ、フィリピン、ベトナム)の中でタイに次いで2番目に高齢化率が高く、2020年の65歳以上人口は約13%であり、2035年には約26%に達すると言われている(図表2参照)。高齢者人口の増加により、介護施設やデイケア施設も年々増加している。

図表2:ASEAN主要6カ国における高齢化率

図表2:ASEAN 主要 6 カ国における高齢化率 [2020実績]シンガポール13%、タイ20%、マレーシア7%、フィリピン6%、ベトナム9%、インドネシア6%、【参考】日本29% [2035予測]シンガポール23%、タイ23%、マレーシアn/a、フィリピン9%、ベトナムn/a、インドネシア11%、【参考】日本33%

出所:内閣府「令和4年版高齢社会白書」、世界銀行(マレーシア及びベトナム)

b) 障害者人口の増加(顧客ニーズ・需要)

シンガポールには障害者数を示す公式な統計は存在しないものの、全国社会福祉協議会(NCSS)によると2015年における50歳以上の年齢層における障害者比率は約13%である。障害者のうち30%以上が複数の障害を持っており、また約49%が中度から重度の障害を抱えている。障害の種類は身体障害、感覚障害、知的障害、精神障害等、多岐にわたるものの、複数の障害を抱えている場合や障害が重い場合、より多くの介護用品やより専門的(高価)な介護用品が必要になることが多い。

c) 高い一人当たりGDP(購買力)

Credit Suisse Global Wealth Report 2021によると、シンガポールは世界で10番目に豊かな国である。2021年のシンガポールの一人当たりGDPは72,794米ドルと日本(39,285米ドル)の倍近くあり、インドネシア、マレーシア、タイ、フィリピン、ベトナム5カ国の一人当たりGDPの合計も大きく上回る(図表3参照)。高い一人当たりGDPは、購買力が高く、個人のニーズを満たすための支払い意欲が高いことを示す。

商品の販売価格を決める場合、商品を売って利益を得るためには、顧客の支払意思額と製品コストの間で価格を設定する必要がある。なお、次回以降のレポートでは、カテゴリーごとに現状流通している商品やその価格、需要の価格弾力性、顧客やバイヤーのニーズ等について紹介する。

図表3:一人当たりGDP

図表3:一人当たり GDP [2021実績] 単位:米ドル シンガポール72,794、マレーシア11,109、タイ7,066、インドネシア4,333、ベトナム3,757、フィリピン3,461、【参考】日本39,285、【参考】世界12,235

出所:世界銀行

d) 政府の高齢者支援(顧客ニーズ・需要及び購買力)

先進国では、高齢者向け商品を多く必要とする高齢者介護施設の新設から、高齢者個人が関連用品を購入するための資金援助まで、政府が重要な役割を担うことが一般的である。シンガポールでは、2015年から2019年の5年間で高齢者介護に約30億シンガポールドルが投資された。また、パイオニア世代(1949年以前生まれ)とムルデカ世代(1950~1959年生まれ)の高齢者がより安心して医療や介護サービスを受けられるよう、更に141億シンガポールドルが確保されている。パイオニア世代とムルデカ世代の高齢者には、公的年金であるメディセーブの上乗せ、公的医療保険であるメディシールドの追加補助、公的医療機関における追加補助等が用意されている。また、政府は2015年以降、高齢者の医療・介護ニーズに対応するため、デイケアを3,600箇所、老人ホームの延床数を3,700床追加している。加えて、2023年まで、シンガポールのシルバー世代のニーズに応えるため、さらに多くの高齢者向け関連施設が建設される予定である※2。高齢者向け商品産業の成長を支える主な政府プログラムは以下のとおりである(図表4参照)。

図表4:政府の高齢者支援プログラム
政府プログラム 概要
高齢者の移動と生活向上のための基金 (SMF)
  • 補助器具補助金(車椅子、杖、便器など)、交通費補助金、消耗品補助金(カテーテル、大人用おむつ代など)を通じて、高齢者を総合的に支援する制度
  • 2011年に1,000万シンガポールドルの基金として発足。その後、2013年予算で5,000万シンガポールドルに拡大。 2018年予算では今後5年間で更に1億SGDを上乗せすることを発表
エルダーシールド
  • 2002年に導入された介護を必要とする高齢者に基本的な経済的支援を提供する手頃な価格の重度障害者保険制度
  • 加入者は、5年まで300シンガポールドル(2002年9月〜2007年8月の加入者に適用)、6年まで400シンガポールドル(2007年9月以降の加入者に適用)を毎月受け取ることができる
高齢障害者暫定支援プログラム (IDAPE)
  • 加入可能年齢を超える、または障害の既往がある等の理由でエルダーシールドに加入できなかった人に経済的な支援を行う制度
  • 対象者は月々150または250シンガポールドル(世帯収入による)を最長72カ月間受け取ることができる
福祉技術基金 (ATF)
  • 障害者が、必要な機器や付属品を購入、交換、アップグレード、修理するための補助金を提供する
  • 申請者は、生涯40,000シンガポールドルを上限として、必要な機器の費用の90%までの補助を受けることができる

4. 高齢者向け商品の輸出・販売プロセス

高齢者向け商品をシンガポールに輸出するためのプロセスは、大きく、(1)日本から商品を輸出する、(2)シンガポールで輸入手続きを行う、(3)バイヤーや最終顧客に商品を届ける、の3つのプロセスに分けることができる。本レポートでは、主に(3)シンガポール国内における商品の販売プロセスに焦点を当てる。

a) シンガポールへの商品搬入

世界銀行のDoing Business 2020によると、シンガポールはアジアで最もビジネスがしやすい国のひとつである。シンガポールへの商品の輸入は、大きく7つのステップ(UENの登録、税関口座の有効化、貿易書類の保持等)で行われる。詳しくは、JETROのウェブサイト※3から確認可能である。

b) 商品を最終消費者に届ける

消費者に商品を届けるには、大きく分けて、(1)小売店等を通じて最終消費者に直接販売する方法(介護施設等への直接売込を含む)と、(2)代理店(バイヤー)を通じて消費者に間接販売する2つの方法がある。どちらの方法にも長所と短所がある。直接販売する方法は、中間業者である流通業者を排除できるため利益率が高くなる。一方、間接販売方式は、代理店手数料が必要になる代わりに、少ない手間で、より多くの人々に商品を届けることができる。シンガポールの高齢者向け商品市場に精通している場合には直接販売方式がオプションとなりえるが、これから輸出を考える企業や現地ネットワークのない企業は間接販売方式から始めることが現実的な選択肢となる。シンガポールにおいて、高齢者向け商品を取り扱う主な販売代理店は以下のとおりである(図表5参照)。

図表5:シンガポール国内の主な販売代理店
企業名 取扱商品
(1)モビリティ関連製品 (2)ホームセーフティ製品 (3)パーソナルケア製品 (4)医療機器
Pharmex Healthcare外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
Assisted Living外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
Agis Mobility外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます - -
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作成
ジェトロ・シンガポール事務所
レポートの利用についての注意・免責事項
本レポートは、日本貿易振興機構(ジェトロ)シンガポール事務所が委託先Nomura Research Institute Singapore Pte. Ltd.(NRISG)に作成委託し、2023年2月に入手した情報に基づき作成したものです。掲載した情報は作成委託先の判断によるものですが、一般的な情報・解釈がこのとおりであることを保証するものではありません。本レポートはあくまでも参考情報の提供を目的としており、提供した情報の正確性、完全性、目的適合性、最新性及び有用性の確認は、読者の責任と判断で行うものとし、ジェトロおよびNRISGは一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロおよびNRISGが係る損害の可能性を知らされていても同様とします。

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