海外発トレンドレポート

アニメ視聴者数は増加するも、海外作品向け規制に留意
(中国・上海発)

2023年2月3日

市場概況及び関連統計

市場概況

中国のアニメ市場全体について、まず政策面を見ると、2021年4月からインターネットで配信される海外アニメに対して、「先審後播」制度(当局検閲制度)が適用されるようになった。これにより、当局(広播電視機関)の検閲を通過し配信許認可が付与されて、初めて海外アニメの配信ができる等の運用に変更された。また、海外アニメに対して全体的に規制引締めが強化されている一方で、政府は中国国産アニメに対しては育成・保護のために積極的な補助政策を導入し始めた。その結果、近年国産アニメの市場シェアが大きく伸びており、S級IP以外の中堅アニメ作品領域において競争が激化している。

経済規模の面では、2015年以降、アニメを含めた文化産業全体が大きな成長を遂げている。特にアニメ市場は2020年に200億元(1元=約16円、当時)に達し、2015年と比べて約6倍に急成長した。コロナ禍で在宅時間が増えたことで、アニメ視聴者推移が安定的に増加し、市場全体にとってプラス材料になったためだと考えられる。

関連統計

中国アニメ市場全体の成長率は、2015年以降市場全体が急速に拡大しており、2018年までの4年間で約3倍近く拡大した。この時期の成長は主に海外アニメによって支えられていた。2019年から、海外アニメの輸入が減少に転じたが、中国国産アニメの作品数の増加や品質の向上等で、依然として二桁の成長率を維持している。また、2020年の新型コロナ流行の影響で、各業界は深刻なダメージを受けたが、アニメ業界全体への影響はそれほど大きくなかった。2020年の中国アニメ市場は依然好調で、2022年まで引き続き伸びるものと予測される。

中国のアニメ市場の規模(2015~2022年)

中国のアニメ市場の規模は、2015年の0.3億元から、2020年は20億元へと堅調に拡大。2022年は28億元に達する見通し。

出所:艾瑞咨詢「中国動漫産業研究報告(2020年)」より作成

一方、輸入作品について、輸入額から見ると、近年、かなり大きな変動がある。2018年までは、多少上下があるものの輸入市場全体が順調に伸びていたが、2018年の25億元(1元=約17円、当時)をピークに、2019年は減少に転じた。その主な理由としては、政府による輸入作品に対する規制と国産アニメへの政策優遇だと言われている。当地のアニメ業界関係者は、この状態は今後も暫く継続すると予測している。

海外アニメの輸入額(2015~2019年)

中国における海外からのアニメの輸入額は、2018年の25億減をピークに減少。2019年は10億元にとどまった。

出所:前瞻経済学人「2020年中国電視節目行業進口現状及発展趨勢分析」より作成

消費者/ユーザーの動向

中国のアニメ市場は、映画市場とは異なり、コロナの影響をそれほど受けていない。在宅時間の増加によりアニメの視聴者数は若干伸びている。さらに近年の政策誘導が功を奏して、中国産アニメは質と量がともに向上し、市場に打ち出す本数が増加した。ここ数年で特に人気の中国産アニメは、「魔道祖師」や「天官賜福」などだ。消費者が中国産アニメを受け入れ始めたことに加えて、2014年から2017年にかけて、テンセント、ビリビリ等のアニメ動画サイトの急成長によって、二次元サブカルチャーが若年層に浸透したことから、汎二次元消費者※1が急増している。2020年の汎二次元消費者数は初めて4億人台に乗り、2015年と比べて、ほぼ倍増した。

※1
汎二次元消費者とは、直近半年以内に少なくとも1回はアニメ(テレビと映画の両方を含む)または漫画を観た/読んだことがある消費者のこと

中国の汎二次元消費者の数(2014~2022年)

中国における汎二次元消費者数は2014年の1.5億人から年々増加し、2020年は4.1億人に達した。2022年は4.2億人となる見通し。

出所:艾瑞咨詢「中国動漫産業研究報告(2020年)」より作成

留意すべき規制

インターネットによる動画配信

アニメ業界が留意すべきは、近年大きな動き(規制)としての動画配信サイトにおけるアニメ作品への当局検閲制度の導入である。動画配信サイトでのアニメ放映について、これまでは、主に動画サイト側による自主審査のみであったが、前述の2021年4月からの事前検閲制度の導入で、当局の検閲を受け配信許認可が付与された作品のみ配信可能となった。すなわち、検閲を受けていない作品は、事実上、中国で配信できない状況である。

テレビ放映

テレビ業界でも、海外アニメを放映するためには、当局(広播電視機関)の検閲を受け、「テレビアニメ発行許可証」を取得しなければならない※2。近年、海外アニメについての許可証の取得は益々厳しくなっており、申請してもなかなか許可されない状況にある。その上、海外アニメに対しての総量制限も存在する。例えば、未成年者向けのチャンネルにおいて、毎日放送する外国アニメは、全アニメ番組の30%を上回ってはならず、且つ、各テレビ局は毎日17時から21時の間に外国アニメを放送してはならない5等の規定を定めている※3

※2
海外テレビ番組輸入、放送管理規定4条、11条
※3
広電総局によるテレビアニメ放送管理の一層の規範化に関する通達

市場参入のアドバイス

これまで述べてきたように、2021年に導入されたネット配信規制は、配信サイトのみならず、アニメ制作にも影響を及ぼしている。制作企画の段階において、中国向け作品との位置づけであれば、最初から当局の検閲を考慮して制作しなければならない。国家統一や、暴力、性的描写等の要素を入れないなどの工夫に加えて、中国事業者(配信サイト等)との日常のコミュニケーションが重要となる。更に、作品完成後も当局の審査基準に合わせるための修正が想定されるため、編集・カットができる範囲なども検討しておくことが重要になる。また、検閲の日程(一般的に3ヶ月から半年がかかる)にも配慮しつつ配信計画を立てる必要がある。

上記の諸事情から、日本アニメの中国展開を成功させるためには、下記の事項を意識しながら進めると良いと考える。

  1. 中国の検閲制度を意識しながら制作すること
  2. 作品修正、カット等、事後編集の許容範囲を広めること
  3. 契約までの交渉時間を短縮すること
  4. 中国の配信サイト等との日常の会話が不可欠で、専属窓口を配置すること

作成
ジェトロ・上海事務所
執筆
上海擁智商務諮詢有限公司(IP FORWARDグループ) 張 雋
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本レポートは、日本貿易振興機構(ジェトロ)上海事務所が上海擁智商務諮詢有限公司に作成委託し、2022年10月に入手した情報に基づき作成したものです。掲載した情報は作成委託先の判断によるものですが、一般的な情報・解釈がこのとおりであることを保証するものではありません。本レポートはあくまでも参考情報の提供を目的としており、提供した情報の正確性、完全性、目的適合性、最新性及び有用性の確認は、読者の責任と判断で行うものとし、ジェトロおよび上海擁智商務諮詢有限公司は一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロおよび上海擁智商務諮詢有限公司が係る損害の可能性を知らされていても同様とします。

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